医療情報の生態系 2

innocently

前回エントリでは、日本語ウェブ上の医療情報について、量よりも質を先に論じるような「問題」の立て方自体がおかしいと指摘した。医療界や行政などから出てくる医療情報量の少なさを見ずに、個人や民間企業の「怪しげな情報」だけを取り上げて警戒心を煽るような「問題」の立て方こそが問題なのだ。本来、医療界や行政側の医療情報が量的にもっと充実していれば、「怪しげな情報」の突出も後退するはずだ。医療情報を生態系として捉える視点とは、全体のバランスを考量する視点であり、一方を指弾する視点ではないだろう。

では、これから医療情報生態系はどのような進化をとげるのだろう。そろそろ今後のビジョンを思いめぐらす時期に来ているのかも知れないと、最近考えることが多い。というのは、ここ数年ウェブを支配してきたWeb2.0がそろそろ終わるかもしれないからだ。その兆候として、すでにSBMやRSSの関連サービスの衰退が指摘されている。数年前に一世を風靡したdiggの大規模リストラが伝えられるご時世なのだ。確かにSBMやニュース・アグリゲーターなどは、早晩、ツイッターに代替される可能性が高い。また、2.0に代わってソーシャルウェブという言葉が語られることも増えてきている。

欲しい情報へ到達する手段が、検索エンジンやSBMからツイッターやFacebookにシフトする可能性も論じられている。これらツールやサービスの消長の先にどんなウェブがあり、そしてどんな医療情報の生態系があるのだろうか。そんなことを考えはじめている。

2008年2月からサービスインしてからおよそ2年8ヶ月。今日、TOBYOはおよそ1000疾患、2万4000の闘病サイトを収録し、それら成果をDFCというツールで収穫するところまで来た。「ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にする」というミッションを達成する道筋は見えてきている。だがウェブ全体が激変しようとしている今日、さらに先を見通していかねばならない。

最近、2005年にティム・オライリーが発表した「Web2.0 Meme Map」を改めて見直す機会があった。このマップは今日でも様々に示唆を与えてくれる。特にマップに記載された「データは次世代のインテル・インサイド」という文言は、今日のTOBYOとDFCが拠って立つ最も重要な戦略になっている。今後もTOBYOとDFCはネット上の闘病体験データに立脚することにかわりはない。だが、それぞれの闘病者に必要なサービスは、単なるリストと検索のサービスだけではないだろう。

おそらく「すべての闘病体験の可視化」の次に来るのは「闘病者つながりの可視化」だろう。それは、闘病ユニバースを構成する各サイトのソーシャル関係を可視化することになる。つまり「データの可視化」を基点として、「関係の可視化」まで推し進めることになるだろう。これらを通じて実現されるベネフィットのイメージは、たとえばある疾患についての有益な情報が「人つながり」を介して自動的に手元に集まってくるような、そんなイメージである。その際、闘病体験、医療情報、医療機関情報、医療者情報など各種データセットは、それぞれが孤立しているのではなくシームレスに連携することになるだろう。

このような次世代医療ウェブサービスが成立するための前提は、当然、それぞれの情報が公開され自由に利用できることである。その意味でも、医療界や行政は今後積極的に医療情報を公開してもらいたい。そして、たとえば医療情報の著作権などを積極的に放棄したり、あるいはプライバシー保護とは逆に「自己の医療情報を公開する権利」を確立するような、そんな新しい方向性を持った社会的ムーブメントも必要になるだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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