次世代医療についての考察

winter_2010

ウェブは患者の医療参加を促進する土台となるだろう。ブログやtwitterを使用して、患者は自らの医療体験や知恵を社会に向けて簡単に配信することができる。そして公開された事実や闘病ティップスに関するデータは、社会の各セクターで共有され、医療にフィードバックされ、最終的に医療を変えて行く・・・・。そのようなイメージを明確な社会的ビジョンとして具現化することが、今、必要になっていると思う。

だがこの日本においては、そのような「イメージ」を描くことがまず困難であるという現実がある。「インターネットによって医療を変える」という声は、すでに10年前から聞かれたのであるが、では具体的に何がどう変わるかまでは考察されてこなかったのである。せいぜい遠隔医療など通りいっぺんの技術構想で、従来医療の延長線上に「未来医療」が語られるのが関の山であり、本質的な医療変革を奈辺に求めるべきかについては誰も語ってこなかったのではないか。あるいは「情報の非対称性」というクリシェでお茶を濁し、そこから先へ議論が進むことはなかったのである。 続きを読む

闘病データと参加型医療

Ume2

先々週の風邪は治ったものと思っていたが、まだ本調子ではない。妙に暖かくなったかと思うと、今度はいきなり厳しい寒波襲来と、ここしばらく続く天候不順が原因か?

とは言え、春に向けTOBYOプロジェクトは行動して行く。収録闘病サイト数はようやく1万9000件に達した。ここのところ以前に比べ収録テンポを落としてきたが、これは従来よりも収録サイト選定に時間をかけているためだ。データ量、アクセシビリティ、トーンなど、本当に紹介したいサイトだけをかなり吟味している。今後、闘病DBから様々な形でデータを出力する予定だが、データソースの品質がますます重要になるからだ。

先週、「患者SNSと社会的イノベーション」というエントリをアップしたが、これを書き終えてTOBYOプロジェクトの位置づけがはっきりしたと思っている。もちろんTOBYOはSNSではないが、PatientsLikeMeとTOBYOプロジェクトは表面的にはまったく異なるサービスであるとは言え、実は根っこの部分で共通点があることに気づいたからだ。 続きを読む

患者SNSと社会的イノベーション

shinjuku_100122

米国の患者SNSをずっとウォッチングしてきているが、どこもかなり苦戦している。この原因をどう考えればよいのだろうか。唯一成功していると思われるPatientsLikeMeと比較すれば、なぜ一般の患者SNSが上手くいかないかが少しはっきりするような気がする。PatientsLikeMeの場合、治療方法がまだ存在しないような難病を中心にコミュニティづくりに取り組んでいる。一般の疾患ではなく、あえてかなり特殊な稀少難病を取り上げているところにこのSNSの独自性がある。ふつうなら、まず患者数の多い疾患に注目するところを、PatientsLikeMeはそれとはまったく逆の道を選んだわけだ。

このあたりを考えてみると、患者SNSと言うものが、汎用SNSとはかなり違うニーズを扱わなければならないということが、ぼんやりとだが理解できるはずだ。おそらくそれは、単なる「人的交流」ニーズにとどまるものではないのだろう。ではそれは何なのか。様々な仮説が成り立つだろうが、PatientsLeikeMeの場合、患者ニーズというものが畢竟「自分の病気を治すこと」であると理解し、そのためのデータ収集と共有のための一大システムを構築したわけだ。 続きを読む

PHRで患者と医師をつなぐ:NoMoreClipboard

NMC2

これまで医療ITシステムと言えば、EMRやEHRなど医療機関側の情報システムを指すと考えられてきたが、HealthVaultやGoogleHealthの登場によって、PHRこそが「患者中心医療」や「参加型医療」を体現するものとして注目されはじめてきている。ところで、HealthVaultやGoogleHealthなど、個人医療情報のプラットフォームとしての大規模PHRは一応登場したわけだが、今後はそれらPHRプラットフォームと生活現場あるいは医療現場を結ぶきめ細かいサービスの開発が求められる。

今月18日、新たに発表されたPHRサービス“NoMoreClipboard”は、このようなきめ細かい「現場」とのマッチングを意図して開発されたようである。PHRを介して積極的に患者と医師を繋ぐことをめざしているところが注目される。特に医師側のワークフローと患者情報を効率的に結びつけることがうたわれており、PHRをベースにした医療現場の生産性向上を打ち出している。 続きを読む

闘病体験データの社会的活用についての考察

social

先週から風邪でダウンし、しばらくブログもお休み。しかし自宅で静養しながらも、いつのまにかTOBYOプロジェクトやウェブ医療サービスについて、つい「あーだこーだ」と考え込んでしまっていた。

「ネット上のすべての闘病体験を可視化する」ことがTOBYOプロジェクトのミッションであるが、この可視化作業の過程で蓄積された数百万ページの検索キャッシュによって、今度は医療を可視化していくことになる。つまり「患者の目」を通して、日本の医療実態がはじめて大規模に可視化されるわけだ。では、このように大規模に可視化されたファクト(事実)群は、社会的にどう活用されるのだろうか。

これまで「コンシューマ・サービスとプロフェッショナル・サービス」という文言で、TOBYOのコアデータの活用領域を述べてきたが、プロフェッショナル・サービスはさらに医療提供者に向けたものと、医療関連市場プレイヤーに向けたものに分けられるのではないか。そうなると結局TOBYOによって蓄積されたコアデータは、社会的には次の三方向へ提供されることになる。 続きを読む