患者SNSと社会的イノベーション

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米国の患者SNSをずっとウォッチングしてきているが、どこもかなり苦戦している。この原因をどう考えればよいのだろうか。唯一成功していると思われるPatientsLikeMeと比較すれば、なぜ一般の患者SNSが上手くいかないかが少しはっきりするような気がする。PatientsLikeMeの場合、治療方法がまだ存在しないような難病を中心にコミュニティづくりに取り組んでいる。一般の疾患ではなく、あえてかなり特殊な稀少難病を取り上げているところにこのSNSの独自性がある。ふつうなら、まず患者数の多い疾患に注目するところを、PatientsLikeMeはそれとはまったく逆の道を選んだわけだ。

このあたりを考えてみると、患者SNSと言うものが、汎用SNSとはかなり違うニーズを扱わなければならないということが、ぼんやりとだが理解できるはずだ。おそらくそれは、単なる「人的交流」ニーズにとどまるものではないのだろう。ではそれは何なのか。様々な仮説が成り立つだろうが、PatientsLeikeMeの場合、患者ニーズというものが畢竟「自分の病気を治すこと」であると理解し、そのためのデータ収集と共有のための一大システムを構築したわけだ。

それらデータは外部企業の新薬開発セクターに投入され、通常よりも「安く、早い」研究開発が可能となった。つまり研究開発エンジンが費消するデータをクラウドソーシングで効率的に収集し、そのコスト(時間と手間)を低減化することによって、最終的にアウトプット(新薬、新治療法)を最大化しようとする構想が、実はPatientsLikeMeの本当の姿なのだ。

患者SNSを構築することは、単なる患者特化型SNSを作ることではない。私たちはウェブによって、PatientsLikeMeのように、これまで不可能だった新たな社会的イノベーションを医療分野において実現することができるのだ。だが、患者ニーズを「人的交流」など、もっともらしい微温的レベルに閉ざしてしまうなら、このような可能性は決して見えてこないのだ。

三宅 啓 INITIATIVE INC.


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