現状認識と展望

最近の海外のHealth2.0シーンだが、かつてのような勢いが見られないのはどうしたことか。マシュー・ホルトあたりは「Health2.0シーンは落ち着きを見せ始めてきた」みたいなことを言っているが、逆にWebMDの「2.0化」みたいな動きも出てきている。ある意味では定着期なのだろうが、わくわくするようなニューカマーがもっと登場してきてほしい。

翻って日本を見ると、こちらのほうは残念ながら依然として今一つ盛り上がりが足りない。二年前、当方のTOBYOをはじめライフパレットやオンライフがほぼ同時期にサービスインし、次いでシェアーズやイルネスなども出てきたのだが、とにかく医療分野のスタートアップはまだまだ数が足りない。人にたずねてみると、医療分野ということだけで敷居が高く感じられてしまうとのことだ。技術や知識の問題よりも先に、越えがたい心理的なバリアーが問題になっているようだ。

二年間TOBYOプロジェクトに携わってきて、やはり実際にやってみなければわからなかったことが多いというのが正直な感想だ。プロジェクトスタート時点と二年経った現時点では、かなりあちこちに差異が生じてきていることも事実だ。当初構想していたことがワークせず、結局、別の手法を使わねばならなかったこともいくつかある。また当初あまり重要視していなかったことが、後で決定的に重要になったこともある。だが、様々な試行錯誤を経てみると「医療だから・・・」というある種の構えた意識も次第に薄れていき、ただ価値あるサービスをつくることだけを考えるようになってきたと思う。 続きを読む

政府IT戦略本部の「診療履歴データベース」構想

メディカルインサイトの鈴木さんのブログでも取り上げられたが、政府IT戦略本部が「診療履歴に基づいた適切な医療を全国のどこでも受けられるようにするためのデータベースを整備するなど、医療分野でのIT化推進」という方針を出した。

政府IT戦略本部と聞いて「まだそんなものがあったのか」との思いが強いのだが、小泉政権以来、こと医療分野のIT化促進について、この戦略本部の具体的な成果が何か思い浮かぶだろうか。ほとんど何も浮かんでこないのが実態ではないだろうか。だから今回の「診療履歴データベース」構想についても、いずれ霧散すると考えたほうがよいだろう。いまだにレセプトオンライン化さえ実現しないのだから。期待は失望の母である。

ところでこの「診療履歴データベース」とは一体何なのだろうか。フツウに考えればEHRであるが、全国レベルに統合するようなニュアンスがあるから、かつて米国ブッシュ前大統領がぶちあげたNHIN(National Healthcare Information Network)に近い気がする。ブッシュ構想では2012年までに米国のすべての医療情報をデジタル化するとのことだったが、この実現性をめぐっては悲観的な見方が一般的であった。オバマ政権もブッシュ構想を引き継いでいるようだが、「EHR-RHIO-NHIN」という三層レイヤー構造のうちRHIO(Regional Health Information Organizations)の経営が各地で破綻し、構想は一挙に視界不良となった。 続きを読む

出版の「未来の二つの顔」


アマゾンのキンドルやアップルのiPadの登場によって電子出版が現実化しつつある中で、出版業界は危機感を募らせているようだ。それでも紙の本がそう簡単に姿を消すとも思えないのだが、逆に従来の不透明な流通過程や高コストの印刷・製本パッケージングがこのまま存続できるとも思えない。コンテンツを従来の「本」に閉じこめておくこと自体が、ますます困難になっていくことはまちがいない。

このような時期にちょうどピッタリのビデオが現れた。このビデオはPenguin Publishing Groupの英国出版社であるDorling Kindersle社が社内の営業会議のために制作したものだが、社内の評判があまりにも高かったので公開に踏み切ったらしい。今日の出版業界のきわめて悲観的な状況を語りながらも、同時に出版と書物の価値を積極的に肯定するという離れ業を演じている。このビデオには、21世紀初頭の出版業界が直面する「危機と希望」という「未来の二つの顔」が描かれている。

冒頭”This is the end of publishing and books are dying….”という刺激的な言葉によって、出版業を取り巻く悲観的な状況のナレーションが始まる。だが途中でナレーションは反転し、同じ原稿をリバース読みしていく。そうすると・・・・・。うーん、うまい。拍手!。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

物語の共有からマスコラボレーションへ

whuffie

タラ・ハント「ツイッターノミクス」のエントリをポストしたら、早速この本の編集者の方からコメントをいただいた。このスピードにまず驚いた。ブログにツイッターが加わることで情報伝播スピードは猛烈に加速される。このことを実際に体験してみると些末な閉塞感などは忘れ、いかにこの私たちの時代がわくわくする時代かと思えるのである。

TOBYOプロジェクトもこんなスピード感を何らかのかたちで導入したいものだ。いずれにしても、やがて多くの闘病者が自分の闘病体験をツイッターでリアルタイム配信する日がやって来るだろう。すでにそれは一部では始まっているだろう。そして、たぶん従来のような起承転結を持つ「物語」を語るのではなく、自分がいま知りたいことをリアルタイムに誰かへ向けて問うようなスタイルになると思われる。自分の体験を自己完結的に語るのではなく、自分が直面する現下の問題を誰かに問うことへと、ユーザーの情報配信行為は変わっていくと思う。ここでクラウドソーシングがどのように機能するかは興味深い。 続きを読む

「入り口」を制するサービスになるか: RememberItNow


RememberItNowは正しい時間に正しい分量で薬を服用するためのサービス。定時になるとメッセージを携帯に送るシンプルなリマインダー・サービスだ。一見、何の変哲もないただのリマインダーだが、ケアギバーや家族と薬剤データを共有したり、コミュニティに参加したり、簡易PHRのようなデータを管理する機能も備わっている。

特に簡易PHR機能は、将来本格的なPHRに発展する可能性もあるだろう。GoogleHealthやHealthVaultなど巨大なPHRプラットフォームの競争ばかりが注目されているが、逆にこのRememberItNowのような最も消費者に近いサービスこそが、PHR市場の鍵を握っているのではないだろうか。つまり「入り口」を制するサービスこそが重要なのだ。そしておそらく「入り口」は携帯やスマートフォンなどモバイル機器になるにちがいない。その際、その「入り口サービス」は初期段階において、できるだけ消費者にわかりやすくシンプルなかたちをしているはずだ。このRememberItNowのように。

EHRにおいても同様である。医療者向けモバイル薬剤DBサービス「Epocrates」は、最近、EHRへ機能拡張することを発表している。これもまた最もユーザーに近いサービスとして、「EHRの入り口」を占拠する動きであると考えることが出来る。

三宅 啓  INITIATIVE INC.