開発すすむDFC

dzn_Lou-Ruvo-Center-for-Brain-Health-by-Frank-Gehry-2

TOBYOのB2Bプロジェクトとして取り組んできたDFC(Direct From Consumer)だが、現在、さまざまな人々の意見を聞きながら開発を進めている。これまで存在しなかったツールであるだけに、なかなかそのイメージを描いてもらうことが難しい場合もあるが、即座に全体像を理解してもらえることもある。

DFCは「患者が体験した事実をエキスパートに届けるためのツール」であるが、まず製薬会社向けに、薬剤にフォーカスした仕様を想定して開発を進めている。その後、医療機器、医学研究、医療機関、ペイヤーなどにもフィットする仕様を順次的に開発していくことになる。従来、「患者の声を聞く」ためにアンケートやインタビューなどの調査手法があったが、時間やコストの制約があり、なかなか思うようにはデータを集められなかった。これに対しDFCでは、いつでも必要なときに、リーズナブルなコストで納得の行くまで、膨大な量の患者体験データを効率良く調べることができるはずだ。 続きを読む

1984と1Q84

1984_1Q84

6月4日、東京・青山で開催された第一回Health2.0 Tokyo Chapterの事例紹介プレゼン冒頭で、株式会社メディエイドの杉山社長が紹介されたのは、1984年スーパーボウルでオンエアされた伝説のAppleマッキントッシュ・デビューCMであった。ずいぶん久しぶりにこのCMを見たのだが、リドリー・スコットのスタイリッシュな映像は、今日でもまだ十分なインパクトを持つことを確認できた。

このCMは、誰にでも直感的に操作できるGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)のパーソナル・コンピュータ時代の到来を告げている。それまでコンピュータといえば国家や巨大企業のみが独占する権力の装置であったが、パーソナル・コンピュータはまさに「個のエンパワーメント」のためのツールであり、その意味では従来の医療システムに対してHealth2.0が台頭する今日のシーンと通底するものがある。そのようなシンボリックな意味合いを、杉山社長はプレゼンで伝えようとされたのだろう。

ジョージ・オーウェル「1984」をベースに制作されたこのCMを今日改めて見直すと、様々なイメージ、言説、事実が複合的に想起されるのを強く感じた。それは、まずこのCMで大スクリーンに大きく映された「ビッグ・ブラザー」についてである。昨年来、iPhoneアプリをめぐるApple側の統制に対する批判が高まっており、中には「ビッグ・ブラザーはスティーブ・ジョブズだ」という声まであがっている。当時この大胆なCMを主導したのはスティーブ・ジョブズ自身であったが、四半世紀が経過して、彼自身をビッグ・ブラザーと見なす言説が出てくるとは皮肉である。 続きを読む

Health2.0ビジネスモデルとアカウンタビリティ

shinjuku_1006_2

先月、5月28日付NewYorkTimesに「患者がオンラインで出会った時、そこに副作用はないか?」(When Patients Meet Online, Are There Side Effects?)との記事が出た。PatientsLikeMeなど患者コミュニティのビジネスモデルを批判するものである。いずれプライバシー保護団体や医療界から、このような批判は必ず出るだろうと考えていたので意外感はない。

最近のエントリでも述べたように、これまで不分明であったHealth2.0のビジネスモデルは、SermoとPatientsLikeMeの成功のおかげで次第に明確になってきた。それを手短に要約すれば次のようになるだろう。

ウェブ上の患者や医療者の体験ドキュメント・会話を集め、医薬品業界など医療エキスパートに提供する。

ところでこのような実際のビジネスモデルと、Health2.0企業が表向き掲げる患者コミュニティや医療者コミュニティなどのサービスの間には、実は微妙なニュアンスの差異、あるいはいわく言い難い矛盾が存在するかも知れない。そしてこの点を情緒的に取り上げて突くような批判は、さまざまなバリエーションを持って、今後、常に現れてくるものと考えておかなければならないだろう。このNewYorkTimes記事は、そのような警鐘として受け止めるべきだと思った。 続きを読む

Gov2.0と公共医療データオープン化の進展

HHS_Gov2.0

(HHS米国保健社会福祉省の公共医療データオープン化概念図)

先月、米国ワシントンDCで「Gov2.0 Expo」が開催されたが、米国政府が持つ公共医療データなどを民間で自由に活用する機運が生まれている。このGov2.0ムーブメントは、Web2.0の提唱者であるティム・オライリー氏が中心となって米国政府を巻き込む形で進められているが、「Gov2.0 Expo」でオライリー氏自身は次のようにGov2.0を語っている。

政府はこれまでの形態を変え、政府自体がプラットフォームにならなければいけない。

今までの政府は「自動販売機」のようなものだった。市民がお金を払うことでサービスを享受するイメージ。しかし、Gov 2.0は政府が“enabler”(実現する人・もの・要因)になる必要がある。

Appleは自ら“enabler”になり、AppStoreというプラットフォームを立ち上げたことで、20万個以上のアプリがリリースされた。20万個のアプリの中でAppleが作ったアプリは20個以下だ。

天候の情報は政府が公式に提供しているから、その情報を加工してテレビ局やウェブが天気予報を独自に作ることができる。そういう発想がGov 2.0そのものだ。

義務教育やマーシャル・プラン、レーガンのGPS技術を導入など、過去に実現された偉大な政策を振り返ってみると、いつも大胆な発想の転換が求められてきた。偉大な政策を達成するには時間がかかるし、大胆でなければいけない。勇気が必要になるのだ。

現在の米国は、温暖化問題や医療改革、教育問題など様々な問題を抱えている。そうした問題に対処するには「今あるシステムをアップグレードする」という発想を捨てて、一から作るという発想が必要になる。Gov 2.0もそういうものだ。
BLOGOS、津田大介氏特別寄稿「Gov 2.0 Expo」速報レポート2日目

公開された公共医療データに基づいて、さまざまなアプリケーションやサービスが登場しつつあるが、「Gov2.0 Expo」ではIOM(国立衛生研究所)の「Pillbox」 が紹介された。 続きを読む

書評:「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」

PHR_book

先日、Health2.0 Tobyo Chapterでお目にかかったNTTデータシステム科学研究所の石榑康雄さんから、石槫さんが訳出された「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」(Holly Dara Miller他著、石榑康雄訳、篠原出版新社)をいただいた。この場を借りて献本御礼申し上げます。

目次

序文
第一章:米国医療の危機的問題解消に求められるePHR
第二章:PHRの歴史と背景
第三章:ePHR、PBHR、EMR、EHRの定義・モデル・機能
第四章:市場要因の進化が後押しするePHR需要
第五章:医師と患者とPHR
第六章:PHRアーキテクチャ
第七章:医療参加者ベースのPHRの計画と実装;実践における検討項目
第八章:PHRにかかわる法規制
第九章:PHRビジネスの持続可能モデル
第十章:おわりに

まずは、日本でようやくPHRについてのこのような基本テクストが上梓されたことを喜びたい。これまでPHRに関してまとまった日本語文献は皆無であったが、この本の登場によって体系的かつ網羅的にPHRの基本知識を得ることが可能となった。これから日本でPHRを様々に議論する際、その共通認識としてこの本が利用されることになるだろう。 続きを読む