Health2.0からDoctor2.0、そして或る事実誤認


昨年エントリでも取り上げたが、ニューヨークはブルックリンでユニークな医療活動を展開するジェイ・パーキンソン医師。ウェブサイト以外の診療拠点を持たず、ネットワーク技術を活用して往診だけの医療サービスを開業し、先頃のHealth2.0コンファレンスでも話題になっていた。そのパーキンソン医師のインタービューがYouTubeにアップされた。ところで最近、ジェイ・パーキンソン医師はカナダの医療ベンチャー企業「Myca」に招聘され、同社チーフ・メディカル・オフィサーに就任したようだ。このMyca社は現在、「Hello Health」というユニークな診療所向け情報システムを開発中である。その一端が、このインタービュー・ビデオでも紹介されている。PHRにせよEHRにせよ、インターフェイスのプロトタイプはすべて、従来の「紙の帳票」であった。紙のカルテや健康記録表などのフォームが、そのまま電子化されたようなものであった。それに対し、「Hello Health」は従来と全く違うユーザー・インターフェイスを持っている。ビデオではほんの一瞬、垣間見れるだけだが、それでも従来のPHRやEHRとはまるで違うインターフェイスであることがわかる。

ジェイ・パーキンソン医師の例を見ていると、ムーブメントとしてのHealth2.0が医師の医療提供のありかたまで変えつつあり、今後、医療における広範な変革を生み出す可能性を持っていることが理解される。そのようなHealth2.0であるのだが、ところで今日、ある人から教えられて次のような「プレスリリース」を目にした。

【インターネットにおける健康コンテンツのトレンドについて】
2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表、2008年2月からテストサービスを開始し、米Microsoft社も2007年 10月より、ヘルスケアサービスのテスト版を開始しています。また、米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り、多くのIT企業が参画した、製薬会社を含めた医療と患者の新しい関係を模索する(健康とWeb2.0を掛け合わせ、新しいコミュニケーションの方法を探る)カンファレンスが 2007年10月から開始され、年二回の予定で実施されています。(第二回が2008年3月に盛況の内終了)
(医療と患者の関係を変える!新しい患者コミュニティサイト、LifePalette(ライフパレット)オープン!)

この世界には、たしかにどのような「妄想」を持つ自由もあるだろう。また「妄想」は、想像力と淵源を共有する創造性の一つのヴァリアントと考えてもよい。しかし、「妄想」と「事実」を混同してならないのは社会常識の一つだ。上記に「米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り・・・・・」とあるが、そのような事実はない。こんな事実無根の作文が知れたら、Health2.0ムーブメントの中心的な人々、マシュー・ホルト、インドゥー・スバイヤ、スコット・シュリーブなどから抗議される可能性さえある。また「2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表」とあるが、そのような事実もない。2006年5月に発表されたのはGoogleCo-opだ。

先日、「LifePalette」には当方からエールを送っておいた。だが、残念ながら今回の「プレスリリース」には失望させられるばかりか、米国の人たちに失礼だろう。会社のオフィシャル文書の内容は、しっかりと事実確認したほうが良いだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

「日本版PHR」の行方

WhatsGoinOn

昨年立ち上げられた経産省、厚労省、総務省、内閣官房による「日本版PHRを活用した健康サービス研究会」だが、先月にはひととおりの議論を終え、研究報告書を発表したようだ。ざっとこれまでの議論について配布資料等に目を通したのだが、何か議論の拡散ぶりばかりが目につき、いまいち密度の高い「収束力」の存在を感じ取ることができなかった。

各人各様のPHR論があってもそれは構わないのだが、こうまで研究会メンバーが多人数すぎると、もとより議論の収束点は消失するほかないのだろう。「総花的な、とっ散らかったPHR談義」という印象をぬぐえない。 続きを読む

彼岸参り

昨日、愛宕山まで彼岸参りに行って来た。前夜の雨に洗われたような春の空。日差しが暖かい。墓前で一昨年秋に亡くなった父に、TOBYOアルファ版のローンチを報告した。生前、父はTOBYOの完成を楽しみにしていたのだが、アルファ版を見ることもなく早々と没した。

父の胃がんが告知されたのは、ちょうど二年前の三月であった。以来、セカンドオピニオンを求め、またインターネットで胃がん関係の情報を集め、最終的に有明の癌研病院で胃の全摘出手術を行うことになった。春から夏までの間、父は特に自分と同じようなケースのウェブ闘病記をネットで探し出し、熱心に読んでいた。今にしてみれば、それを横で見ていたことが、後でTOBYOのアイデアを思いつく伏線になっていたと言えるのではないか。 続きを読む

ウェブと日本の医療


Twitterを三分以内で説明するビデオが、おなじみのコモンクラフトから公開された。そのわかりやすい説明には、いつもながら舌を巻く。これを見ていて、ちょうど先日ポストした「Twitterで禁煙」というエントリを思い出した。このシンプルで軽快なコミュニケーション・ツールには、まだまだ医療でも使えるサービス領域があるように思う。 続きを読む

TOBYOの「宿題」

PatientMeetsPatients

TOBYOベータ版の肝が「TOBYO事典」(闘病記特化型検索機能)であることは、一昨日エントリで説明したとおり。これは、ウェブ上に既に蓄積されてある巨大な闘病体験集合から、必要な情報を簡単に探し出す仕組みを提供するものである。そしてこの「TOBYO事典」と一緒に、当初、実は「TOBYO資料集」なるものを作る構想があった。こっちの方は、たとえば医療費とか薬剤など個別テーマに関する断片情報を、たとえて言うとバインダーに綴じ込んでテーマごとに整理参照できるような、そんなアイデアだった。同じく「レファレンス」コーナーに設置される情報共有ツール「キャビネット」に集まる情報を、テーマごとにまとめるようなイメージでもあった。しかし、当面この「資料集」は先送りすることにした。現状でも「キャビネット」に集まる情報を、タグで絞り込んで特定テーマに関するものだけを表示することが可能だからだ。 続きを読む