無店舗医療サービス: JayParkinsonMD

jayparkinson

サイトのトップページで目を惹くのは「私は新しい種類の医師です」と掲げられた文言。ジェイ・パーキンソン医師はウェブサイト以外の拠点を持たず、往診だけの医療サービスをニューヨークで開業し話題になっている。

開業時間は原則として月曜-金曜の午前8時から午後10時だが、急ぎの診察要望があれば一日24時間・週7日で対応している。往診専門だから患者宅もしくは患者仕事場での診察となるが、診察申し込みはウェブサイトのみに限定している。また、地理的な往診圏の制約もあり、ブルックリン周辺在住の患者だけを対象としている。

ジェイ・パーキンソン医師は診察申し込みのみならず、ほとんどの患者とのコミュニケーションにeメール、インスタント・メッセンジャー、ビデオ・チャット、写真共有などのウェブ・ツールを使用している。このことは時間的コストや事務処理の軽減を実現している。

診察のアポイントメント受付けはすべてウェブサイト上で行われ、次のような手順を踏む。

●ウェブサイトでの患者登録:年齢(18歳から40歳まで)と住所(往診圏内)の判定
●受諾メールのリンクからサイト上の病歴フォームへ誘導:患者の個人医療情報書き込み
●サイトでのアポイントメント要請と症状告知
●往診

ウェブサイトもジェイ・パーキンソン医師の手作りだが、病歴など患者がサイトに書き込んだ情報はすべてiPhoneに転送され、iPhone上のEMRに格納されるようになっているようだ。これにGoogleのGメールとカレンダー・サービスを組み合わせ、往診アポのスケジュール管理などをこなしているようだ。これらのウェブ・ツールを活用して、ジェイ・パーキンソン医師は診療所や事務所を持たない「無店舗医療提供」を可能としているのだ。

ウェブサイト構築を含め、開業にかかった費用は全部で1,500ドル。これは最低30万ドルはかかると言われるニューヨークでの診療所開業費用から見て、圧倒的なロウコストである。また事務所経費やスタッフ人件費など固定費がないので、低料金での医療提供で十分に利益の出るビジネスモデルになっているようだ。

このケースが注目されているのは、ハイテクではなく、むしろGメールやカレンダー、チャットなどのありふれたツールを使って、患者が望む新しい医療業態を創出している点である。たとえばメールでの診察アポ取りや医師とのコミュニケーションなど、今すぐに実現できるサービスであるのに、実際にそれを使ってユーザーに提供している医療機関は少ない。

「なぜ医療IT化は遅れるのか?」という素朴な疑問は、日本のみならず米国でも常に問題になっている。そして常に「技術的には可能だが・・・・」という但し書きが付されながらも、その実現への道のりは遠いのだ。そこにはいろいろな原因があるのだろうが、従来の「病院」とか「診療所」などという業態枠組みが硬直的であり、そこで長年にわたって継続共有されてきたワークフローや組織文化のイナーシャ(慣性)が途方もなく大きすぎるということか。

技術の問題でないのであれば、ITが医療に活用されるためには何が必要なのか?。医療文化や組織文化などの問題を嘆くよりも、このジェイ・パーキンソン医師の事例のように、「ユーザーが望む医療サービスを、ユーザーが望む方法で提供する」というプリミティブな原点に立てば、たとえ無料のウェブツールであっても業態革新の起爆剤になり得る。

近年語られる「医療IT化」は、「技術」と「ユーザーニーズ」の優先順位を間違えているのではないか?。

<参考>
●The Wall Street Jounal, “IM UR NYC MD 24/7 4 HELP”, September 21, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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