昨日、愛宕山まで彼岸参りに行って来た。前夜の雨に洗われたような春の空。日差しが暖かい。墓前で一昨年秋に亡くなった父に、TOBYOアルファ版のローンチを報告した。生前、父はTOBYOの完成を楽しみにしていたのだが、アルファ版を見ることもなく早々と没した。
父の胃がんが告知されたのは、ちょうど二年前の三月であった。以来、セカンドオピニオンを求め、またインターネットで胃がん関係の情報を集め、最終的に有明の癌研病院で胃の全摘出手術を行うことになった。春から夏までの間、父は特に自分と同じようなケースのウェブ闘病記をネットで探し出し、熱心に読んでいた。今にしてみれば、それを横で見ていたことが、後でTOBYOのアイデアを思いつく伏線になっていたと言えるのではないか。
夏ごろ父を訪ね、TOBYOの基本構想を話すと、「そんな便利なものができれば、こんなに苦労して闘病記を探さなくてもよくなるわけだ」と喜び、賛成してくれた。
九月下旬に癌研病院に入院し胃の全摘出手術。術前の説明では非常にシンプルな手術のはずであったが、術後の推移は芳しいものではなかった。一時は「縫合不全」との説明も受けたが、原因不明のまま病状はどんどん悪化しICUに搬入された。そして結局、ICUから父が帰ることはなかった。
病院から示された死因も、そしてその後の剖検結果も、何か明快さを欠く歯切れの悪いものであった。それはいまだに、われわれ残された家族にとって、ある割り切れない気持ちとして残存しているのは事実である。しかし、自分としてはその気持ちを鬱屈させるよりも、TOBYO開発の注力へと切り替えなければならないと意を決したのだった。
そしてその後、大幅に遅れたが、ようやくTOBYOアルファ版公開までたどりついた。完成を楽しみにしていた父のためにも、早くベータ版を公開し、たくさんの人々にお役立ちできるTOBYOを構築しなければならないと、あらためて墓前に誓った。
三宅 啓 INITIATIVE INC.