医療ウェブサービスの新しい挑戦: U2plus

U2plus

先日、日本の医療ウェブサービスの現状をあらためて調べる機会があった。その結果得た当方の印象を率直に言えば、ここ10年ほどの間に、日本の医療ウェブサービスはむしろ縮小してしまったということにつきる。その原因は、この間、ISPポータルサイトが総じてコンテンツ掲載を縮小してきており、真っ先にその縮小あるいは撤退の対象になったのが健康・医療分野であったことが大きい。かろうじてYahoo!Japanなどでは、まだ健康・医療コーナー「Yahoo!ヘルスケア」が存続されているが、Yahoo!トップページから直接「Yahoo!ヘルスケア」に行く動線はない。

それに対し、新たに登場した独立系の医療ウェブサービス・サイトの数は非常に少ない。新規サービスが少なく従来サイトが縮小閉鎖されているのだから、全体として日本の医療ウェブサービスがシュリンクして行くのは当然と言える。ISPポータルのように、ウェブ全体が2.0へ進む過程で淘汰されるのはある意味で仕方ないことだが、他方、日本の医療分野で新しいサービスの登場が非常に少ないという事態は、もっと深刻に受け止められる必要があるように思う。

そのような状況で、唯一、健闘しているのが「うつ症状の予防、回復、再発防止をサポートするU2plus」だろう。いろいろな人から「医療関連で何か面白いサイトはありませんか?」と訊かれることも多いが、いつからか、そんな時は迷わずU2plusをあげるようになった。

患者や医療者の人的交流や情報シェアを、コミュニティ・ベースで提供するようなサービスはこれまでもあった。だが、U2plusは「予防、回復、再発防止」を目的とし、それを実現する認知行動療法をウェブベースで提供するサービスである。つまり医療に関わる間接的な情報シェアの機会を提供するサービスではなく、直接、疾患ケアそのものをウェブで提供するサービスになっている。そこが、従来の凡百の「医療系SNS、コミュニティ」などと決定的に違うところであり、従来にない全く新しい医療ウェブサービスとして評価できる。 続きを読む

ウェブ医療サービス時評 1206: コミュニケーションの貧困

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いよいよ梅雨入り。石神井公園を散歩すると、紫陽花のブルーとバイオレットが目に鮮やかだ。

さて、今月からローンチされた協和発酵キリンの「個別化医療・抗体医薬」啓発参加型キャンペーン「サンダーバード・コーポレーション」。従来の疾患啓発サイト・スタイルを壊し、まったく新しい社会的コミュニケーションを創造しようという意図はわかる。これまで製薬会社各社が多数作ってきた「疾患啓発サイト」なるものは、あまりにも画一的で凡庸で、ユーザーのアテンションを集めるパワーがなさすぎた。とにかく退屈でおもしろくなかったのだ。 続きを読む

すべての医療情報から、患者の声が聞こえるように: V-search登場!

V_search_logo

TOBYOプロジェクトの「第三の商品」として、近々、病名別検索エンジン「V-search」(上図はロゴ)が登場する。「V-search」の「V」とはバーティカル(Vertical)検索の「V」であり、また、患者の声(Voice)の「V」である。これは、たとえば胃がん患者の闘病体験だけとか、子宮頚がん患者の闘病体験だけとかというように、ある病名に限定したバーティカル検索を実現する検索エンジンである。「V-search」という名前からも連想されるように、dimensionsの「X-search」を元に単独の検索サービスとして新たにリリースする。

すでに「X-search」では、TOBYO収録の約1100病名から一つをユーザーが自由に選び、個別にバーティカル検索することができる。これに対し「V-search」の方は、あらかじめ決められた病名(複数)の検索を提供することになる。また現在、TOBYOではプロジェクト初期のバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」をテスト公開しているが、「V-search」はこれとは違い、「X-search」で開発された新規検索エンジンと新規データセットを使用している。

「V-search」は医療情報提供サービス・サイト、メディア・サイト、疾患啓発サイト、ウェブ制作会社などでの利用を想定している。たとえば、「胃がん情報ページ」などで実際に体験した患者の声を紹介したい時に、この検索エンジン「V-search」を設置すれば、簡単にしかも大量の患者の声を提供することができる。またAPIを介して当方検索サーバと交信するので、出力イメージ、デザインなど設置サイト側の要望に柔軟に対応できる。 続きを読む

医療評価と患者の感情表出ワード

ronion

前回エントリ「患者エンゲージメント」で「患者の感情の指標化」ということに触れたが、最近、このことをあれこれ考える機会が多い。特に私たちが注目してきた患者体験ドキュメントの基本性格というものは、「患者感情の表出」を抜きに考えることはできない。

私たちはこれまで、患者体験ドキュメントを患者が体験した「事実」を中心に見てきた。従来、どうしても「闘病記」という言葉で表されるドキュメントには、ある種の過剰な思い入れがつきまとい、それは時として「センチメンタルな物語」という形式に矮小化されてしまい、患者が体験した「事実」の客観的な意味を見失わせてしまいがちであった。

そうであるからこのブログでは、事実の連続体として患者体験ドキュメントを捉え、とりわけ固有名詞に注目し、なるだけセンチメントから距離をおくことを再三表明してきたわけだ。やがて、その成果はdimensionsというツールに実を結ぶ事になる。dimensionsは固有名詞をキイとして事実を抽出し集計するデータ・ツールである。 続きを読む

患者ドキュメントによる医療評価

Calendar2nd

先週は嵐。今週は花吹雪。花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道。いささか古いか・・。

ひたすら闘病ユニバースの可視化とデータ収集に励んできた4年間だったが、dimensions、CHART、TDRと開発は進んできた。最近、もう一度私たちが目指してきたことをあらためて確認しなおす必要があるような気がしている。今の時点で、私たちが目指してきたことを短く言えば、それは「患者ドキュメントによる医療評価」ということではないかと思う。これを実現するためには、とにかく患者ドキュメントを大量に集めなければならなかった。そしてデータ量が確保されたら、次にそれを使って「評価」というものを生成しなければならない。これは「データを評価へ変換すること」とも言える。

dimensionsはその変換のための基本ツールであったが、それはまだ「評価」自体を提示するものではなかった。ユーザーの多様な目的に即して自由にデータを抽出するツールであり、特定の「評価」を出力するためのものではなかった。開発当初は、このような多目的ツールであることがユーザーのニーズに合致するものだと想定していた。

そして先月から本格的に取り組んでいる「がん闘病CHART」では、だんだん「評価」へ踏み込んだ出力というものをイメージするようになってきている。それはユーザーの自由度にある種の制限を設けて、一定のフレームでデータを見ることによって実現されるものだ。データの解釈が全面的にユーザーに任されているような状況では、「評価」はユーザー自身の手に委ねられている。たとえばマーケティングや製品開発などプロフェッショナルな仕事をしている人達であれば、本来なら医薬品や治療法など、ある事象に対する「評価」はツールを使ってデータを検討しながら自分自身で行うべきだろう。またそのような技量と経験を持つがゆえに「プロ」であるとも言える。 続きを読む