真夏の架空対談:Sermo総括(Health2.0を越えて)

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Sermoの謎

客) 毎日、暑いねえ。

主) 還暦の身には、今年の暑さはひとしおだ。

客) まあ、がんばって。ところで先月から、医師コミュニティSermo売却問題がずいぶん話題になったね。

主) うん。この件だが、まだすべてが明らかにされていないと思う。

客) 君は昨年から、Sermoの変調についてブログエントリをポストしていたわけだが、いつごろから気づいたのか?

主) ちょうど一年前の夏からだ。米国のHealth2.0関連サービスの現状把握をしようとデータを集めてみて、Sermoがどうもおかしいと夏頃から感じていた。だがその変調が、こんどの売却まで行き着くとは、まさか想像だにしていなかったね。とにかく今回の売却問題には謎が多い。

客) 「謎」か。それはどういうことなの。

主) 今年、年が明けて突然、ファウンダーのペールストラントがpar80のローンチを発表して驚いたわけだが、その時点ではこのプロジェクトはまだSermo内に置かれ、ペールストラントも引き続きCEOにとどまるという説明だった。

客) このpar80というのが、いまだによくわからないのだが、結局これは何なんだ?

主) それがまず第一の「謎」だ。このサイトの具体的なサービス内容はいまだに発表されておらず、しかも米国医師会に対する強烈な批判メッセージだけが掲載されている。まったく奇妙だ。意味不明なのだ。(注:現在は医療機関紹介状サービスをめざしている?) 続きを読む

医師コミュニティの競争ステージはグローバルへ

WorldOne

前回エントリは予想以上の反響をいただいた。それだけ医師コミュニティに対する関心が高いということなのか。だが、今回のSermo買収劇の背景について、実はあまり前回エントリで触れてはいなかった。あらためてそれを手短に言ってしまえば、「医師コミュニティをめぐる競争ステージは、国内からグローバルへ移動した」ということだ。

Sermoを買収したWorldOneのコーポレートサイトのトップページには、”Global Reach”とスロガーンが大きく掲出されている。まさにこのスローガンが示すとおり、WorldOneは世界の医師へのリーチ拡大施策の一環としてSermoを傘下に収めたのである。

SermoのCEOであるティム・ダベンポートもまた今回の売却理由の背景として、「クライアント企業から医師へのグローバルなリーチを求められた」と述べている。Sermo首脳部は、自分たちがたとえ国内ナンバーワンであっても、高度化するクライントの要求によって自分たちの「一国性の限界」に気づかされたということであろうが、医師SNSをはじめ医師ネットワーク・ビジネスの競争ステージは、はっきりと国内からグローバルへ移動したのである。そのことを告げる今回の「買収劇」であった。

一方、今回の買収劇とほぼ同じ時期に、日本のエムスリーは「M3登録医師、全世界で100万人を突破」と発表しているが、Sermoを傘下に収め「全世界の医師パネル170万人」を豪語するWorldOneと、今後、「Global Reach」をめぐる熾烈な競争が始まるのであろう。 続きを読む

医師コミュニティSermoの失敗に何を学ぶか


暑いさなか、海外から「SermoWorldOneに買収される」とのニュースが聞こえてきた。昨年から「Sermo、どうも元気ないな」という印象が強かったが、会員数は12万5千人まで達したものの成長は止まり、さらに月間ユニークユーザーは1万人程度まで落ち込み、ビジネスとしてはつらいのではないかと見ていた。

今後、WorldOneがどう立て直すかが注目されるが、最近、医師コミュニティ自体がビジネスとして難しいのではないかという説が出てきている。上のビデオは、ワシントンDCのベンチャー・キャピタル“NaviMed Capital”に在籍するDr. Bijan Salehizadehのコメントであるが、医師コミュニティをはじめ医療ITビジネスにかなり辛辣な見解を提起している。

Sermoがローンチされてから6年。「全米最大の医師コミュニティ」を標榜しながらも、AMA(米国医師会)との確執、レイオフの実施など、決してその事業は順風満帆ではなかった。ファウンダーのダニエル・ペールストラントはSermoを去ったのか、いつの間にかCEOはティム・ダベンポートにかわっている。

以前のエントリでも触れたが、あらためてコミュニティ・ビジネスというのは「数」の勝負だと思う。医師の場合「不特定多数・無限大」 ではなく特定少数集団という前提がある。すなわち最初からコミュニティの「規模」でハンディがあり、特定少数であるがゆえに、むしろきちんと標的にリーチすることを狙った「プッシュ型サービス」の方が向いているのかもしれない。

そしてHealth2.0も、その代表的企業の一角であったSermoの失敗によって、ある一つの時代が終わったような気がする。なにか寂しいような気もする。だが今から振り返ってみて、ではSermoが提示したイノベーションとは一体何だったのかと考えてみると、結局、何も思い浮かばないのだ。単なる医師コミュニティを越える「新しい何か」を切り開かなければ、ビジネスとして継続するのは難しい、という厳しい教訓を残してくれたことに感謝したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

HealthTapの快進撃

HealthTap

今年はじめには、あちこちで悪評がささやかれていたHealthTap。そのHealthTapが1100万ドルの資金調達に成功し、サイトとサービスのリニューアルに取り組んでいる。当初、HealthTapはQuoraの医療版のようなQ&Aサービスを目指していたとのことだが、今回のリニューアルでは路線変更の兆しがうかがえる。どうやらHealthTapは単なる「患者-医師、Q&Aサービス」から、「患者-医師、バーチャル診察サービス」の提供へと転進しつつあるようだ。そしてその際、彼らが重視しているのはモバイルデバイスだが、決済手段としてPayPalの小額決済サービスであるマイクロペイメントを使うことが話題になっている。ウェブ医療サービスの新たなマネタイズ手段として、今後、マイクロペイメントが注目されるかもしれない。

しかし、この「患者-医師、バーチャル診察サービス」というのは、実はこれまで多数のスタートアップが挑戦しながらも、ほとんどすべてが失敗している分野である。最近ではDr2.0ことジェイ・パーキンソンがプロジェクトに参加していた”Hello Health”の挫折が記憶に新しい。現在”Hello Health”は、クラウドベースのEHRに方向転換している。「患者-医師、バーチャル診察サービス」は、いわゆる”Tele-Medicine”(遠隔医療)という医療ITではむしろ古典的なジャンルにふくまれる。昔から誰もが思いつきながらも、いまだにビジネスの不毛地帯である。これはなぜだろうか?このあたりに、ウェブ医療サービス成立条件の特殊性を探るヒントがありそうだ。

ところでHealthTapへの出資者だが、エスター・ダイソンやGoogleのエリック・シュミットをはじめ錚々たる顔ぶれである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

急拡大する米国の医療ITベンチャー投資

@Rock_Health 2012 Midyear Funding Report

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昨年来、米国の医療分野ITベンチャーに対する投資意欲は熱く高まり、投資額はますます急拡大している。医療ITスタートアップのインキュベータとして大活躍しているRockHealthが、このほど2012年中間投資レポートを発表した。

それによれば医療ITベンチャー企業へのVC投資総額は、2009年から2年間で倍増しており、2011年は12億1900万ドルに達している。さらに今年2012年上半期は、2011年に比べ73%増と大幅な増加をみせている。この2012年上半期において、少なくとも68社の医療ITベンチャー企業が、それぞれ200万ドル以上の資金を調達したと報告されている。

68社のビジネスモデル別の内訳を見ると、B2Bが40社で4億200万ドル、B2Cが23社で2億5000万ドル、B2MDが5社で1700万ドルとなっている。B2Bが主要なビジネスモデルだが、徐々にB2Cモデルが伸びてきているようだ。獲得資金総額のランキングも掲載されているが、このレポートでは医療ITベンチャーを「医師ツール、医療センサー、ホームヘルス、データ分析」の四つのカテゴリーに分類している。

また、2012年上半期に医療IT分野への投資実績のあるベンチャーキャピタルだが、これは92社にのぼっている。 続きを読む