患者ドキュメントによる医療評価

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先週は嵐。今週は花吹雪。花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道。いささか古いか・・。

ひたすら闘病ユニバースの可視化とデータ収集に励んできた4年間だったが、dimensions、CHART、TDRと開発は進んできた。最近、もう一度私たちが目指してきたことをあらためて確認しなおす必要があるような気がしている。今の時点で、私たちが目指してきたことを短く言えば、それは「患者ドキュメントによる医療評価」ということではないかと思う。これを実現するためには、とにかく患者ドキュメントを大量に集めなければならなかった。そしてデータ量が確保されたら、次にそれを使って「評価」というものを生成しなければならない。これは「データを評価へ変換すること」とも言える。

dimensionsはその変換のための基本ツールであったが、それはまだ「評価」自体を提示するものではなかった。ユーザーの多様な目的に即して自由にデータを抽出するツールであり、特定の「評価」を出力するためのものではなかった。開発当初は、このような多目的ツールであることがユーザーのニーズに合致するものだと想定していた。

そして先月から本格的に取り組んでいる「がん闘病CHART」では、だんだん「評価」へ踏み込んだ出力というものをイメージするようになってきている。それはユーザーの自由度にある種の制限を設けて、一定のフレームでデータを見ることによって実現されるものだ。データの解釈が全面的にユーザーに任されているような状況では、「評価」はユーザー自身の手に委ねられている。たとえばマーケティングや製品開発などプロフェッショナルな仕事をしている人達であれば、本来なら医薬品や治療法など、ある事象に対する「評価」はツールを使ってデータを検討しながら自分自身で行うべきだろう。またそのような技量と経験を持つがゆえに「プロ」であるとも言える。

ところが、本来プロであるはずの人達が本当はプロではないこともあるようだ。信じられないことだが、またすべてではないだろうが、往々にして今日のマーケターは「どんな製品を作ったら良いか、どんなマーケティング戦略を打つべきか」まで自分で考えずに、その答えを外部の誰かから教えてもらいたいらしい。たとえば米国のmedBoardは薬品の製品開発から戦略までのアドバイスを製薬企業に提供しているが、これなどまさに自分でものを考えるのが億劫な「ものぐさマーケター」にぴったりのサイトではないか。

いささか脱線したが、「dimensionsはプロフェッショナル向け、CHARTはコンシューマー向け」と私たちはこれまで考えてきたが、少し軌道修正が必要かもしれない。今後、逆にCHARTの機能をdimensionsに実装することもあるだろう。

ともあれ「がん闘病CHART」では、まず患者が闘病のために必要な基本ボキャブラリーを闘病ユニバース上を飛び交う患者のクチコミから学ぶことができる。その上で、それらのキイワードや固有名詞に対して、闘病ユニバースがどのように評価しているかを大づかみできるようになっている。薬品に対する評価ワードは前回エントリで触れてあるが、たとえば病院についても複数の評価ワードを病院ごとにカウントし数量化する。評価ワードは「満足、不満、感謝、怒り、納得、後悔、信頼、不信、親切、不親切」などを考えている。たとえば「癌研」の場合、乳がん患者の評価ワード・スコアは以下のとおり。

満足(27)、不満(6)、感謝(52)、納得(44)、後悔(18)、信頼(41)、不信(1)

もちろん、これらは直ちにジャストな病院評価スコアであるとは言えないが、全体の傾向をつかみ、それぞれ該当ドキュメントを参照することで、患者集合がその病院を概ねどう見ているかをイメージする一助となるだろう。

また「クチコミ検索エンジン」という謳い文句どおりに、当初は検索結果画面をメイン画面に考えてきたが、実は開発が進むに連れだんだんとそこから離れつつある。薬品や病院の評価ワードも当初は「フィルタリング項目」という位置づけだったのだが、単独の評価項目リストと考えるようになってきている。

たとえば乳がん治療に使われる薬品名が縦軸に並び、患者の評価ワードが横軸に並ぶような、そんな大きな表を想起して欲しい。その表のセルには評価ワードスコア値が表示されている。「ハーセプチン」-「吐き気」のセルにはスコア値533が表示されており、そのセルをクリックすると乳がん患者の「ハーセプチン」-「吐き気」体験検索結果が表示される。そのような大きな「CHART」を薬品と病院について作ろうと考えている。つまり一枚の「BIG CHART」に、薬品や病院について全ての患者体験が集約されるわけだ。そうすれば、これは「ものぐさプロ」の方々にとっても役立つものになるだろう。

「患者ドキュメントによる医療評価」という未踏フロンティアへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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