患者SNSと社会的イノベーション

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米国の患者SNSをずっとウォッチングしてきているが、どこもかなり苦戦している。この原因をどう考えればよいのだろうか。唯一成功していると思われるPatientsLikeMeと比較すれば、なぜ一般の患者SNSが上手くいかないかが少しはっきりするような気がする。PatientsLikeMeの場合、治療方法がまだ存在しないような難病を中心にコミュニティづくりに取り組んでいる。一般の疾患ではなく、あえてかなり特殊な稀少難病を取り上げているところにこのSNSの独自性がある。ふつうなら、まず患者数の多い疾患に注目するところを、PatientsLikeMeはそれとはまったく逆の道を選んだわけだ。

このあたりを考えてみると、患者SNSと言うものが、汎用SNSとはかなり違うニーズを扱わなければならないということが、ぼんやりとだが理解できるはずだ。おそらくそれは、単なる「人的交流」ニーズにとどまるものではないのだろう。ではそれは何なのか。様々な仮説が成り立つだろうが、PatientsLeikeMeの場合、患者ニーズというものが畢竟「自分の病気を治すこと」であると理解し、そのためのデータ収集と共有のための一大システムを構築したわけだ。 続きを読む

PHRで患者と医師をつなぐ:NoMoreClipboard

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これまで医療ITシステムと言えば、EMRやEHRなど医療機関側の情報システムを指すと考えられてきたが、HealthVaultやGoogleHealthの登場によって、PHRこそが「患者中心医療」や「参加型医療」を体現するものとして注目されはじめてきている。ところで、HealthVaultやGoogleHealthなど、個人医療情報のプラットフォームとしての大規模PHRは一応登場したわけだが、今後はそれらPHRプラットフォームと生活現場あるいは医療現場を結ぶきめ細かいサービスの開発が求められる。

今月18日、新たに発表されたPHRサービス“NoMoreClipboard”は、このようなきめ細かい「現場」とのマッチングを意図して開発されたようである。PHRを介して積極的に患者と医師を繋ぐことをめざしているところが注目される。特に医師側のワークフローと患者情報を効率的に結びつけることがうたわれており、PHRをベースにした医療現場の生産性向上を打ち出している。 続きを読む

ウェブ医療サービスの事業成立与件

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今年2010年は、2008年2月アルファ版からスタートしたTOBYOにとって、いよいよ挑戦の年となる。過去1年10ヶ月の間に、TOBYOは闘病ユニバースに存在する830疾患、1万8600サイトを可視化し、そのうち1万4000サイトが検索可能となった。闘病ユニバース全体はおよそ3万サイトと推定されるから、既にその60%が可視化されたわけだ。

このようにTOBYOプロジェクトの基本条件は整備され、ようやく次のステップに進むわけだが、昨年末に公開したTOBYO事業スキームをもう一度整理し直してみると次のようになる。 続きを読む

集合知によって医療を患者参加型医療に変える

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TOBYOプロジェクトは、国内最大の闘病体験データベースに成長した。このように大量の闘病体験ドキュメントが可視化され利用可能になったのは、おそらく史上初であろう。このデータはまず闘病者に利用してもらいたい。そのためのツールとして、TOBYOはバーティカル検索エンジンを公開している。次に政策立案者、保健行政、医療機関、学会、研究機関、医療関連企業等にも活用してもらいたい。そのためにTOBYOは、これらのプレイヤーが利用しやすい形での情報提供サービスを考えている。

TOBYOプロジェクトの三つのビジネス・レイヤー」でも説明したが、これらプロフェッショナル・プレイヤーに対する情報サービスはマーケティング・レイヤーに位置づけており、闘病体験データベースに基づく「リサーチ&コミュニケーション」事業を想定している。TOBYOプロジェクトはまず「医療マーケティングのデータインフラ」という役割を果たしたいのだが、それだけでなく、一種の研究機関やシンクタンク的な役割も目指して行きたい。

いずれTOBYOプロジェクトは「ネット上にある闘病体験ドキュメント」のほとんどすべてを可視化するようになるだろうが、このように空前の規模で集まった闘病者の生の声を、医療評価、政策評価、制度設計、製品&サービス開発、医学研究などに活用することが考えられる。そのために、たとえば調査研究レポートのような定期刊行物(有料)を検討している。これは闘病者・消費者の声を特定テーマに即して収集分析し、闘病者・消費者の医療ニーズを広く社会に知らしめていくものである。 続きを読む

コアデータから事業を切り出す

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ブログを書きながら事業構想を練る、などということは10年前には考えられなかった。だが、現にこのブログで3年間「あーだ、こーだ」と思考実験を繰り返し、試行錯誤を経て自分たちの進路を決定してきた。振り返って過去のエントリを読み返すと、ヨタヨタと不確かな足取りで、時には寄り道や袋小路に迷いながらも、なんとか前進してきたという感が強い。

そして昨日のエントリで、ようやく様々な問題に一応の決着をつけられたのではないかと自分では思っている。「あれもやりたい、これもやりたい」状態を整理し、「TOBYOはこれだけを目指すべきだ」という結論にたどりついた。「ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にする」とのミッションは不変だが、「バーティカル検索エンジンをベースにして、コアデータから医療評価&医療情報サービス事業を切り出す」という事業戦略が加わったわけだ。

この事業戦略の後半だが、具体的には「テキストマイニングと闘病サイト支援」の二点が肝になると考えている。今後具体的に固まり次第、発表していきたい。

三宅 啓  NITIATIVE INC.