The Voice Of The Patients “Treato”


今のところ私たちのTOBYOプロジェクトの唯一のライバルであり、私たちとほぼ同じ方向感覚で、患者の声に基づく新しいサービスを開発してきたイスラエルのFirstLifeResearch社のことは、すでにこれまで何度かこのブログでも取り上げてきた。その後、社名変更したらしく、患者の声による医薬品評価サイト“Treato” をそのまま社名に使用している。

そのTreato社がここへ来てにわかに脚光を浴び始めている。まず8月にWorldOne社とのパートナーシップ契約 を発表した。WorldOneとは、Sermoを買収したあのグローバル医療リサーチ会社の”WorldOne”である。WorldOneは昨年から医薬品業界向けのリサーチ・プラットフォーム“MedLive” を起ち上げているが、これにTreatoが保有する患者体験と患者知覚に関するデータを統合することをめざしている。つまり医薬品に対する医療者の評価に患者の評価を合わせ、総合的な医薬品評価データを提供しようというわけだ。

そして今月、Treatoはプロフェッショナル向けの患者リスニング・サービス“Treato Pharma”をローンチしている。まだ詳しい中身はわからないが、サイトのデモを見る限りなかなか興味深いサービスだ。というか、これらは私たちがTOBYOプロジェクトでめざしていることとほとんど同じだ。私たちのTOBYOプロジェクトは、TOBYOを起点として、プロフェッショナル向けのdimensions、コンシューマー向けのCHART、V-SEARCHおよびそれらのAPIという順序で「患者の声」をさまざまな人の手に届けようとしてきたのだが、Treatoは消費者向けサービスから出発して、今回プロフェッショナル向けサービスを起ち上げ、さらにおそらくAPIを介してWorldOneなど他サイトへのデータ供与も開始しようとしている。 続きを読む

反復と新展開


先週から家人が近所の順天堂大学練馬病院に入院しているが、手術は無事終了し、回復も順調でほっとしている。今回、医療サービスの現状を実際に一人の患者家族として体験してみて、あらためてたくさんの気づきや学びを得ることができた。問題は山ほどあるが、とりわけ気になったのは医療現場におけるコミュニケーションの問題である。

なかでも基本は患者家族と医療者のコミュニケーションだが、これをもっと効率的にスムーズに進めることはできないものかと、苛立にも似た思いにかられる場面も少なくなかった。何もそう難しいものではなく、たとえばウェブを上手に利用し情報共有を促進するだけで容易に解決されるものだろうと確信したが、現実問題として、実際に声を上げ手をつけようとする者が医療現場に居ないと感じた。

また医療チームのメンバー間のコミュニケーションだが、それが果たして十分なものかどうか疑問符がつく場面にも遭遇した。今回のケースでは、手術前の外科医と麻酔医の説明がまったく食い違うものであり、患者をはじめ家族全員が困惑せざるをえなかった。業を煮やし「あなたがた医師団のコミュニケーションはきちんと取れているのか?」と当方が詰問する場面もあったのである。患者と家族に不信感を与えるような手術説明会とは、いったい何なのか?

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ブログのリニューアルに際して

今月はサーバ移転に取り組んできた。現時点でまだいくつか積み残した問題はあるものの、TOBYO本体をはじめおおよその移転は無事終了した。それにともない、懸案だった当ブログ・リニューアルにも着手した。これから徐々にパーツなどを加えていくつもりだが、ページがワイドになって見やすくなったと思う。いかがでしょうか。

TOBYOプロジェクトはTOBYO本体から出発して、dimensions、CHART、V-SEARCH、そしてAPIと少しづつ陣容を拡大してきた。しかしTOBYOプロジェクトのコアに位置するものがネット上に続々公開されている患者体験データであり、医療に対する膨大な量の患者の生の声であることは変わらない。従来これら患者体験に関わるビッグデータは、全く未整理のまま放置され、誰もこれを有用なデータとはみなしていなかった。だが、私たちは「メタデータDB + 検索エンジン」という技術をベースとして、これら患者の声を縦横無尽に抽出・集計する基本システムを開発し、さまざまな分野でデータを有効に利用してもらう道が少しづつ開けてきている。

dimensions開発では「プロフェッショナル向けツール」ということを意識していたわけだが、その後、いわば「患者の声を患者に戻す」ようなフィードバック回路を創造することも大切だと考えるようになった。この春からCHART、V-SEARCH、そしてこれらの機能をより広くあらゆる場所で柔軟に利用してもらうためのAPI開発に取り組んできたのも、「患者の声を患者自身が最大活用する」ことを実現するためである。

闘病者、研究者、医療者、サービス・プロバイダー、メディアなどさまざまなプレイヤーに「患者の生の声」を簡単に便利に使ってもらえるように、今後も努力していきたい。このブログでは今後も「患者体験、患者の声」をコアとする新しい医療ビジョンを提起していきたい。

三宅 啓   INITIATIVE INC.

すべての医療情報から、患者の声が聞こえるように: V-search登場!

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TOBYOプロジェクトの「第三の商品」として、近々、病名別検索エンジン「V-search」(上図はロゴ)が登場する。「V-search」の「V」とはバーティカル(Vertical)検索の「V」であり、また、患者の声(Voice)の「V」である。これは、たとえば胃がん患者の闘病体験だけとか、子宮頚がん患者の闘病体験だけとかというように、ある病名に限定したバーティカル検索を実現する検索エンジンである。「V-search」という名前からも連想されるように、dimensionsの「X-search」を元に単独の検索サービスとして新たにリリースする。

すでに「X-search」では、TOBYO収録の約1100病名から一つをユーザーが自由に選び、個別にバーティカル検索することができる。これに対し「V-search」の方は、あらかじめ決められた病名(複数)の検索を提供することになる。また現在、TOBYOではプロジェクト初期のバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」をテスト公開しているが、「V-search」はこれとは違い、「X-search」で開発された新規検索エンジンと新規データセットを使用している。

「V-search」は医療情報提供サービス・サイト、メディア・サイト、疾患啓発サイト、ウェブ制作会社などでの利用を想定している。たとえば、「胃がん情報ページ」などで実際に体験した患者の声を紹介したい時に、この検索エンジン「V-search」を設置すれば、簡単にしかも大量の患者の声を提供することができる。またAPIを介して当方検索サーバと交信するので、出力イメージ、デザインなど設置サイト側の要望に柔軟に対応できる。 続きを読む

データ公開によるパワーシフト

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「『オープンであること』が支配力を再分配する。」
「パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ」P282、ジェフ・ジャービス著、NHK出版)

ソーシャルメディアにおいて消費者は、以前は秘匿していたはずのプライベート情報を大胆に公開し始めている。「どこで、どんな商品を、いくらで買ったか。他の商品と比較してその商品の使い心地はどうか、商品に満足しているか」など、以前はわざわざ「消費者調査」を実施し、質問して回答を集めなければ得られなかったようなデータが、今やウェブ上に大量にあふれる状態になっている。すでにウェブ上に公開された情報をていねいに集めれば、あらためてレガシーな「消費者調査」をする必要はなくなっている。

「価格変動、価格差別化、経済指標、商品や店のトレンド。こうした買い物データを小売店の手から取り上げ、その情報を集合としての買い物客の手に渡す---かつて秘密だったその他の公開データと同じように。すると力が消費者に移る。」(同上)

消費者ひとりひとりがソーシャルメディアを通じて自分の買物行動をオープンにしていくと、やがてそれらをアグリゲートし「買い物データベース」として提供するようなサービスが出てくるだろう。従来、流通チェーンはPOSをはじめとする販売データシステムを構築してきたわけだが、これとは逆に、消費者が自分の購買データをウェブに公開することによって、POSなど「販売」側と対抗するようなオープンな「購買データシステム」が出来上がることが考えられる。この購買データシステムによって消費者は、たとえばこれまであまり知り得なかった「売れ筋商品、死に筋商品」などの傾向実態を知って、自分の買い物に活かすことができるようになるだろう。このようにして、消費者のバイイングパワーは強化されるだろう。

これまで消費者は、企業、行政、メディアなどから、さまざまな手法でその意識と行動を計測されデータ化されてきた。そうして集められたデータはすべてが公開されるわけもなく、消費者は自分に関するデータを集められながら、それらデータすべてにアクセスし利用することはできなかった。消費者は「データ収集の対象」であっても、「データを利用するユーザー」ではなかった。自分たちのデータであっても、それを自由に使うことはできなかった。だが、ウェブは消費者に自分たちのデータをオープンにすることを可能にし、それらのデータ集積は、やがて企業、行政などが保有するデータシステムと対抗的に成長していくだろう。

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