データ公開によるパワーシフト

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「『オープンであること』が支配力を再分配する。」
「パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ」P282、ジェフ・ジャービス著、NHK出版)

ソーシャルメディアにおいて消費者は、以前は秘匿していたはずのプライベート情報を大胆に公開し始めている。「どこで、どんな商品を、いくらで買ったか。他の商品と比較してその商品の使い心地はどうか、商品に満足しているか」など、以前はわざわざ「消費者調査」を実施し、質問して回答を集めなければ得られなかったようなデータが、今やウェブ上に大量にあふれる状態になっている。すでにウェブ上に公開された情報をていねいに集めれば、あらためてレガシーな「消費者調査」をする必要はなくなっている。

「価格変動、価格差別化、経済指標、商品や店のトレンド。こうした買い物データを小売店の手から取り上げ、その情報を集合としての買い物客の手に渡す---かつて秘密だったその他の公開データと同じように。すると力が消費者に移る。」(同上)

消費者ひとりひとりがソーシャルメディアを通じて自分の買物行動をオープンにしていくと、やがてそれらをアグリゲートし「買い物データベース」として提供するようなサービスが出てくるだろう。従来、流通チェーンはPOSをはじめとする販売データシステムを構築してきたわけだが、これとは逆に、消費者が自分の購買データをウェブに公開することによって、POSなど「販売」側と対抗するようなオープンな「購買データシステム」が出来上がることが考えられる。この購買データシステムによって消費者は、たとえばこれまであまり知り得なかった「売れ筋商品、死に筋商品」などの傾向実態を知って、自分の買い物に活かすことができるようになるだろう。このようにして、消費者のバイイングパワーは強化されるだろう。

これまで消費者は、企業、行政、メディアなどから、さまざまな手法でその意識と行動を計測されデータ化されてきた。そうして集められたデータはすべてが公開されるわけもなく、消費者は自分に関するデータを集められながら、それらデータすべてにアクセスし利用することはできなかった。消費者は「データ収集の対象」であっても、「データを利用するユーザー」ではなかった。自分たちのデータであっても、それを自由に使うことはできなかった。だが、ウェブは消費者に自分たちのデータをオープンにすることを可能にし、それらのデータ集積は、やがて企業、行政などが保有するデータシステムと対抗的に成長していくだろう。

ちなみにこのような状況が進むと、たとえば流通セクターはメーカーの「販売エージェント」ではなく、消費者の「購買エージェント」という役割へと自分の役割を変えていかなければ、完全に中抜きされてしまうかも知れない。

また、私は以上のような文脈によって、ウェブ上に大量に公開されている闘病ドキュメントの意味を再考する必要もでてくると考えている。これまで、ウェブ上の「闘病記」をどのように解釈するかをめぐって、いろいろな議論があった。だが、冒頭に付したジェフ・ジャービスの言葉「『オープンであること』が支配力を再分配する。」によって、なぜこのように大量に患者が自分たちの医療情報を含む闘病体験を公開しているのか、その意味を掴み理解することができるのではないかと思う。

患者は無意識のうちにウェブの潜在力に気づいており、自分たちの情報をオープンにすればするほど、自分たちのパワーが強化され、医療が変わることを知っているのだ。これまで医療データは紙カルテやEMRやEHRに仕舞い込まれ、本来患者のデータでありながら患者が自由に利用できるものではなかった。患者は「購買データシステム」と同じように、ウェブを利用し、医療側のデータシステムに対抗してオープンな「患者体験データシステム」をつくる方向へ無意識のうちに動き出しているのではないか。そうであれば、私たちのTOBYOプロジェクトの役割も一層はっきりしてくる。それはこの「患者体験データシステム」」の実体化を、dimensionsやCHART(上図)によってめざすことであるはすだ。特にCHARTはB2Cサービスであるだけに、一層重要だと最近考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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