患者ドキュメントによる医療評価

Calendar2nd

先週は嵐。今週は花吹雪。花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道。いささか古いか・・。

ひたすら闘病ユニバースの可視化とデータ収集に励んできた4年間だったが、dimensions、CHART、TDRと開発は進んできた。最近、もう一度私たちが目指してきたことをあらためて確認しなおす必要があるような気がしている。今の時点で、私たちが目指してきたことを短く言えば、それは「患者ドキュメントによる医療評価」ということではないかと思う。これを実現するためには、とにかく患者ドキュメントを大量に集めなければならなかった。そしてデータ量が確保されたら、次にそれを使って「評価」というものを生成しなければならない。これは「データを評価へ変換すること」とも言える。

dimensionsはその変換のための基本ツールであったが、それはまだ「評価」自体を提示するものではなかった。ユーザーの多様な目的に即して自由にデータを抽出するツールであり、特定の「評価」を出力するためのものではなかった。開発当初は、このような多目的ツールであることがユーザーのニーズに合致するものだと想定していた。

そして先月から本格的に取り組んでいる「がん闘病CHART」では、だんだん「評価」へ踏み込んだ出力というものをイメージするようになってきている。それはユーザーの自由度にある種の制限を設けて、一定のフレームでデータを見ることによって実現されるものだ。データの解釈が全面的にユーザーに任されているような状況では、「評価」はユーザー自身の手に委ねられている。たとえばマーケティングや製品開発などプロフェッショナルな仕事をしている人達であれば、本来なら医薬品や治療法など、ある事象に対する「評価」はツールを使ってデータを検討しながら自分自身で行うべきだろう。またそのような技量と経験を持つがゆえに「プロ」であるとも言える。 続きを読む

事業領域の再考をめぐって

shinjuku_gyoen_lunch前回エントリで触れたが、現在、dimensionsで開発した技術をB2Cモデルへ転用した「乳がん闘病クチコミCHART」(仮)の実用化に取り組んでいる。できれば4月から運用を始めたい。考えて見れば、dimensionsは企画立案からシステム運用までほぼ2年かかったわけだが、ここで開発した技術は単にdimensionsというシステムにとどまるものではなく、さまざまな応用領域へ展開できるものである。

当初はあまりそんなことを考える余裕もなく、ひたすらdimensions(旧名dfc)の設計概要を固め機能を実装することで手一杯だった。それでも予定を大幅に超える時間を要したのは、このような未踏プロジェクトを進める以上、ある意味やむを得ないことだと思っていた。そして出来上がってみると、dimensionsという「ソーシャル・リスニング・ツール」が完成したというよりは、それ以上の大きな価値が実現できたのだとの感を次第に強く持つに至っている。

私たちが、dimensions開発の過程で取り組んだ技術は要約してしまうと以下の三点である。

  1. データ取得(クロール、本文抽出、日付取得、DB化)
  2. リスティング(キイワード抽出、集計、カテゴリーリスト化)
  3. バーティカル検索エンジン(新規エンジン採用、疾患ごとのバーティカル検索、メタデータによるフィルタリング)

いずれもきわめて基本的なものであるが、データ精度や処理速度を実用レベルに持ってくるのに随分苦労した。だがこれらの技術によって、私たちは闘病ユニバース上にある膨大な闘病ドキュメントをデータとして自由自在にハンドリングできるようになった。ここが非常に重要なポイントだ。dimensions自体も、これらの技術の組み合わせのうちの「一つのフォーム」ということにすぎない。つまり、これらの技術の組み合わせ方によって、闘病ユニバースからさまざまなアウトプットを取り出すことが可能になったのである。 続きを読む

医療ビッグデータ・マーケティングの地平へ

Network from Michael Rigley on Vimeo.

このクールなアニメーションは、カリフォルニア美術大学のMichael Rigley氏の制作によるもので「情報可視化アニメーション」(Information visualization Animation)と呼ばれているらしい。(※このビデオは残念ながら削除されたようだ)(再注:その後、ファイルは復活し再生可能になっている)

今月18日でTOBYOは四周年を迎えるが、ローンチ以来一貫して取り組んできたことは「ネット上の闘病体験の可視化」、すなわち「データの可視化」ということに他ならない。そうやって3万3千サイト、450万ページのデータをひたすら可視化しDB化してきたわけだが、今後もこれは私たちの活動のベースになるだろう。

TOBYOプロジェクトは、いずれ5万サイト、さらには10万サイトの数千万ページあるいは数億ページを可視化する日が来るだろう。そして数千万ページ、数億ページのデータを可視化できたとき、私たちは現代の日本人が病気と医療にどう向き合って、何を思い、どのような暮らしを送っているかを、空理空論としてではなく、データに基づいて正確に細部まで具体的に知ることができるようになるだろう。そしてそれらの傾向を抽出することによって、医療についての日本人の「一般意思」を可視化し、検討することができるようになるだろう。私たちが究極的にめざしている到達点はそこにある。 続きを読む

「消極的な参加、無意識の言葉」が意味を持つ時代

will_2.0

今週からいよいよ社会全体が再起動したような、そんな空気が街に満ちている。今年あたりから、ウェブ医療サービスは新しい段階に突入するような予感がある。Health2.0という言葉が現れてすでに6年が経ち、そのバズワードとしての新奇性が耳に新鮮だった時期は去った。これからいよいよその真価が試されるのだ。しかし「2.0」という言い方も、もうとっくに賞味期限が過ぎたような気もする昨今だが、ここに今ひとつ強力な「2.0」が現れた。「一般意思2.0」である。

「本書の出発点は、近代の政治思想が抑圧し排除したルソーの「夢」が、情報技術の世界において思わぬかたちで回帰している、そのダイナミズムへの注目にある。その「欲望の回帰」を可視化することで、現代の起業家やエンジニアが目指しているものをきちんと思想史の文脈に位置づける、それが本書の執筆動機のひとつだ。」(「一般意思2.0」、東浩紀、講談社、P102)

この本を読みはじめた時、いろいろな想いが体の底から、文字通り急に吹き出してくるのを禁じえなかった。ゾクゾクしたのだ。読書でこんな体験をしたのも久しぶりのことである。ここ数年、私たちが暗中模索、まさに手探りで進めてきたTOBYOプロジェクト。そこで私たちが考えてきたこと、めざしてきたものを、「どうだ、これがその方向性だろう」とズバリ言い当てられてしまったような気がしたのだ。「現代の起業家やエンジニアが目指しているものをきちんと思想史の文脈に位置づける」とあるが、本当にそのとおりの成果が出されていると思う。 続きを読む

医療選択、意思決定、行動経済学

daniel_cahneman

めっきり寒くなったと思ったら、もう2011年もあと数日を残すのみ。そろそろ来年のことを、あれこれ考えはじめたりしている。前エントリでも書いたが、とにかく今年は、dimensions開発とプロモーションに明け暮れた一年だった。地震もあったが、何か例年にもまして短い一年だったような気がする。

dimensionsだが、すでにシステム運用を開始しており、現在、製薬会社や調査会社の方々に実際にお使いいただいている。当面、ディスティラーにおける対象疾患数とキイワード(固有名詞)件数の増加、そしてX-サーチの検索結果メタデータとフィルタリング項目の追加作業など改善に取組んでいるが、当初めざしていた基本機能は予定通りワークしている。今後は、クロールと集計の定常運用モードに入り、データ件数の拡大と更新の迅速化をめざしていく。

さらに来年へ向け、二つの新規サービスを準備している。あれこれ検討してネーミングも決まった。その一つは、闘病体験を個人ごとにワークシート一枚で時系列集約する「アルマナク」(Almanac)、そして患者体験による医薬品評価サービスの「ボイシズ」(Voices)である。

このようにシステム開発は進んでいるが、同時に、それらを支える理論的フレームもこの一年間に少しづつ固めてきた。特に春先から、ソーシャル・リスニングなど新しいリサーチの考え方をどんどん導入してきたが、それらはやがて徐々に行動経済学へと焦点を結ぶことになった。dimensionsのプレゼンテーションもその主要論点がどんどん変化してきたのだが、この秋頃からだろうか、プレゼンでダニエル・カーネマン(上写真)を引用することが増えてきている。 続きを読む