患者視点調査への挑戦と挫折

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一昨日のエントリで、以前われわれはピッカー研究所の理論を応用した医療評価システムを構想していたが、結局それを断念した経緯を簡単に記した。その後、われわれの他にも患者調査、特に「患者満足度調査」への取り組みは続いている。そこで、もう少しこのあたりの問題を考えておきたい。

ピッカー研究所が提起した新たな患者視点調査は、「患者経験調査」と呼ばれている。つまり従来の「患者満足度」を計測する調査ではない。ピッカーは「満足とは主観的態度であり、常に文化的、世代的などのゆらぎを伴う不確かな指標である」とし、これに対して「患者が医療現場で実際に経験した事実を測定しなければならない」と主張したのである。 続きを読む

「闘病ネットワーク圏」について

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昨日のエントリーで、闘病者によって自然発生的にウェブに作られてきた「闘病ネットワーク圏」という考え方を書いておいた。これは、当方がTOBYOというサービスを開発する際に、徐々に固まってきた考え方である。

この前、あるミュージシャンの悪性リンパ腫の闘病記ブログを見ていた時である。そのブログは音楽活動の話題をメインとして数年間続けられてきたものだが、途中から悪性リンパ腫の闘病関連情報がかなり大幅に増えてきている。その闘病関連の最初のエントリで、作者は「自分が悪性リンパ腫にかかっていることは、事務所をはじめ仕事関係者にはまだ何も知らせていないが、このブログでは細大漏らさず病気に関する情報を書きたい。なぜなら、自分が医師から告知を受けた時、ネットでたくさんの闘病記を読み参考になった。自分の闘病体験を記録することは、一種の社会的義務であると考えている。」と書き記していた。 続きを読む

「自律、分散、協調」と「闘病ネットワーク圏」

PublicSphere昨日、東京では桜が開花し、今日も朝から暖かい陽光がさんさんと輝いている。こんな日を事務所にこもって過ごすのはもったいない。今日は早々に仕事を終え、新宿御苑の桜を見に出た。花の咲き具合はこれからだが、春風に吹かれながら散策するのは気持ちがよい。

さて、TOBYOの収録闘病記件数が2,500を超えた。今日(3月23日)の時点で、収録件数一位は「乳がん」で338を数える。続いて「C型肝炎」、「リウマチ」、「クローン病」が100を超えているが、逆にまだ収録件数が10に満たないものも多い。「病名」から見ると、TOBYOに収録された病名数は250に達するが、まだ闘病記件数が「1」にとどまる病名が112もある。TOBYOに集まった闘病記群の現状は、まさに「乳がん」をヘッドにしたロングテールということになる。 続きを読む

彼岸参り

昨日、愛宕山まで彼岸参りに行って来た。前夜の雨に洗われたような春の空。日差しが暖かい。墓前で一昨年秋に亡くなった父に、TOBYOアルファ版のローンチを報告した。生前、父はTOBYOの完成を楽しみにしていたのだが、アルファ版を見ることもなく早々と没した。

父の胃がんが告知されたのは、ちょうど二年前の三月であった。以来、セカンドオピニオンを求め、またインターネットで胃がん関係の情報を集め、最終的に有明の癌研病院で胃の全摘出手術を行うことになった。春から夏までの間、父は特に自分と同じようなケースのウェブ闘病記をネットで探し出し、熱心に読んでいた。今にしてみれば、それを横で見ていたことが、後でTOBYOのアイデアを思いつく伏線になっていたと言えるのではないか。 続きを読む

TOBYOの「宿題」

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TOBYOベータ版の肝が「TOBYO事典」(闘病記特化型検索機能)であることは、一昨日エントリで説明したとおり。これは、ウェブ上に既に蓄積されてある巨大な闘病体験集合から、必要な情報を簡単に探し出す仕組みを提供するものである。そしてこの「TOBYO事典」と一緒に、当初、実は「TOBYO資料集」なるものを作る構想があった。こっちの方は、たとえば医療費とか薬剤など個別テーマに関する断片情報を、たとえて言うとバインダーに綴じ込んでテーマごとに整理参照できるような、そんなアイデアだった。同じく「レファレンス」コーナーに設置される情報共有ツール「キャビネット」に集まる情報を、テーマごとにまとめるようなイメージでもあった。しかし、当面この「資料集」は先送りすることにした。現状でも「キャビネット」に集まる情報を、タグで絞り込んで特定テーマに関するものだけを表示することが可能だからだ。 続きを読む