リサーチ・イノベーションとTOBYOプロジェクト

marunouchi

昨秋、サンフランシスコで開催されたHealth2.0SF2010カンファレンスにおいて、イスラエルからFirstLifeResearch、そして日本からTOBYOが患者生成データに基づくまったく新しい調査サービスとして世界に登場した。イスラエルと日本から、奇しくもほぼ同時期に、ほぼ同じ発想に基づいて出てきた二つの新サービス。その意味するところを考えているうちに、いつしか私たちはこれらを医療における「リサーチ・イノベーション」と捉えるようになった。だが、これは何も医療分野に限ったことではない。

たとえば民意を探る世論調査なども、これからはわざわざ電話やメールで市民から新たにデータ収集するのではなく、ネット上に公開された膨大な人々のオピニオンを抽出し、集計し、分析することになるだろう。すなわち従来の調査が「質問することによって回答データを生成し回収する」ことに多大なエネルギーとコストを投入していたのに対し、これからの調査は「質問」を省き、「すでにあるデータ」をどのように早く、安く、効率的に活用するかを考えて実施されるだろう。 続きを読む

Health2.0ビジネスモデル再考2: リサーチ・イノベーション

blue_sky

実は昨日エントリをポストしたのだが、今朝起きて改めて読み直し、結局削除することにした。昨夜、Health2.0のことをあれこれ考えて書いているうちに、筆は次第に熱を帯びて滑り始め、いつしか通俗的2.0論批判に行き着いていた。しかし今更、こんなことに関わり合うのも馬鹿げていると思い直した。「2.0」時代がそろそろ終わりかけようとしているのに、医療分野だけいまだに「2.0」が取りざたされているというのも、考えてみれば奇異な光景ではないか。通俗的で凡庸、おまけに一知半解の「2.0論」というヤツが、とりわけ医療分野に生きながらえてそれに十分辟易しているとしても、この上とやかく言うのもつまらないことだ。そんなことは無視して、今後のビジョンだけに集中すべきだろう。

一週間前のエントリで、「データとフロー」がHealth2.0ビジネスモデルを考える際のベースになるだろうと言っておいた。そしてこの「データとフロー」という対句をしげしげと眺めているうちに、いつしかそこから一つの言葉が、徐々に明確な輪郭をもって立ち現れてくる気配を、今年になって実感し始めている。それは「リサーチ・イノベーション」という言葉だ。Health2.0の一つのビジョンとして、また特にdimensionsの位置づけを検討しているうちに、「リサーチ・イノベーション」ということを最近考え始めるようになってきた。 続きを読む

膨張と収縮: Ban & Crunch

Gyoen_Ume_2011

2月になった。厳寒の毎日。寒風吹きすさぶ新宿御苑にあって、あちこちで梅が蕾をふくらませ、既に一部開花したものもある。遊歩道を歩いていると、まだ春は遠いが確実に近づいてきている気配がわかる。ここのところブログの新規エントリ数が少なかったが、春へ向け徐々に元のペースに戻していきたい。

先月1月は、dimensionsのデータ処理に思いのほか時間を費やした。数百万ページのデータを、数千の固有名詞で一つ一つ精査するのだから、当然これは大きなマシンパワーが必要になる。運用フェーズでの効率的な処理工程を組むために、これまでいろいろ試行錯誤をした。時間はかかったが、今後のために、どうしてもこれらの経験は積んでおかなければならなかった。

さて、TOBYOはもうすぐ収録闘病サイト数で2万6000サイトに達し、文字通り国内最大の患者体験データベースであり、今後も引き続き成長し続けるが、この巨大なデータ集積を効率よく活用するツールが「ディメンションズ」(dimensions)である。拡張検索エンジン「Xサーチ」と蒸留器にして多次元データ生成エンジンである「ディスティラー」。この「二つのエンジン」によって、これまで多様で無秩序に存在していたがゆえに用途が限られていたPGC(患者生成コンテンツ)を、これから縦横無尽に広範なエキスパートが利用する道が開ける。日本の患者が、日本の医療で何を体験し、何を思ったか。これを患者自身が自発的に作成した膨大なドキュメント集積を使って、すみずみまで明らかにできるのである。日本医療の実態を、まさに「患者の目」を通して可視化できるわけだ。大げさではなく、これは一つのイノベーションだと考えている。 続きを読む

dimensionsのアンバンドリング

dimensions_mypage

先日、TOBYO収録の乳がんサイト数は2,000件を越えたが、こうなるとこれら乳がん闘病サイトだけを対象にした検索エンジンが欲しくなる。乳がん闘病ドキュメント専用のバーティカル検索エンジンである。実はこれは、TOBYOプロジェクトの当初からあった構想なのだが、とにかく量(収録サイト数)が一定の規模以上にならならければあまりメリットはない。

しかし、既にTOBYOでは「乳がん」や「うつ病」のようにサイト数2,000件を越える病名が出てきており、また収録サイト数100件を越えるものは58病名に達している。そろそろ当初構想していた「単一病名バーティカル検索エンジン」を作っても良い段階に来たと思う。

この「単一病名バーティカル検索エンジン」だが、TOBYOプロジェクトの新規サービスdimensions(ディメンションズ)の拡張検索エンジン「Xサーチ」で実現されている機能である。本来はdimensionsの有料ユーザーだけに提供することになっていたが、これら機能を病名ごとに切りだし、APIを公開することで広く使ってもらいたいと考えている。

続きを読む

TOBYO収録の乳がん闘病サイトが2,000件に

TOBYO’s

本日、TOBYO収録の乳がん闘病サイト件数は2,000件を越えた。これで2,000人の乳がん体験者の貴重なドキュメントを、誰でも、いつでも、どこからでも、即座にアクセスし、読むことができるようになった。この文字通り国内最大の乳がん体験データベースを、患者と家族をはじめ、様々な関係者の方々の活動にどうか活用していただきたい。

TOBYOプロジェクトは「ネット上の全ての闘病体験を可視化しアクセス可能にする」とのミッションのもとに、引き続き闘病体験データの構造化に取り組んでいきたい。すでにTOBYOは2万5千件を越える闘病ドキュメントを可視化しているが、ワイドでオープンなウェブの特徴を活かし、より利便性の高い闘病体験データベースへの進化を目指している。

その一つの取組みが、今年公開する新規サービス「dimensions」(ディメンションズ)である。昨年末に基本システムは完成し、現在、数百万ページのTOBYO検索インデックス・データを処理している。これによって闘病体験を薬品、医療機関、治療法などの各次元(ディメンションズ)にスライスし、次元ごとの固有名詞をキイとして、膨大なデータを効率的に利用出来るようになる。今までにないこの新しいツールによって、患者が体験した事実に基づく医療改善が可能になると期待している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.