2月になった。厳寒の毎日。寒風吹きすさぶ新宿御苑にあって、あちこちで梅が蕾をふくらませ、既に一部開花したものもある。遊歩道を歩いていると、まだ春は遠いが確実に近づいてきている気配がわかる。ここのところブログの新規エントリ数が少なかったが、春へ向け徐々に元のペースに戻していきたい。
先月1月は、dimensionsのデータ処理に思いのほか時間を費やした。数百万ページのデータを、数千の固有名詞で一つ一つ精査するのだから、当然これは大きなマシンパワーが必要になる。運用フェーズでの効率的な処理工程を組むために、これまでいろいろ試行錯誤をした。時間はかかったが、今後のために、どうしてもこれらの経験は積んでおかなければならなかった。
さて、TOBYOはもうすぐ収録闘病サイト数で2万6000サイトに達し、文字通り国内最大の患者体験データベースであり、今後も引き続き成長し続けるが、この巨大なデータ集積を効率よく活用するツールが「ディメンションズ」(dimensions)である。拡張検索エンジン「Xサーチ」と蒸留器にして多次元データ生成エンジンである「ディスティラー」。この「二つのエンジン」によって、これまで多様で無秩序に存在していたがゆえに用途が限られていたPGC(患者生成コンテンツ)を、これから縦横無尽に広範なエキスパートが利用する道が開ける。日本の患者が、日本の医療で何を体験し、何を思ったか。これを患者自身が自発的に作成した膨大なドキュメント集積を使って、すみずみまで明らかにできるのである。日本医療の実態を、まさに「患者の目」を通して可視化できるわけだ。大げさではなく、これは一つのイノベーションだと考えている。
さて、以上のようにdimensionsを開発しながら最近考えているのは、ではこの先、PGCを含めUGCというものがどうなっていくのだろうか、ということである。昨年夏から「ウェブは死んだ」とあちこちで言われるようになったのだが、ここで言われているのは「ワイドでオープンなウェブ」のことである。これにかわって、FacebookやTwitterのようなクローズドにユーザーを囲い込むプラットフォームへUGCが集約されていくとしたら、分散ネットワークとしてのウェブは大きく姿を変えるだろう。たとえばウェブの基点はブラウザではなく個々のアプリになるだろうが、このような変化は闘病ユニバースに何をもたらすのだろうか。
私たちがTOBYOプロジェクトで対象としてきた闘病ユニバースも、今後、大きく姿を変えていくのではないかということが、年末から当方の大きな関心事になってきている。ブログの運命も含め、「次」をどう見定めていくは大きな問題だ。しかし、一方で最近の闘病ユニバースを見ていると、当方の懸念を吹き飛ばすかのように、新たな闘病ブログが続々と開設されているのも事実なのだ。2010年の後半から、新規闘病ブログサイトの増加はめざましいものがある。そのあたりの背景要因も探らなければならない。
いずれにせよ、長期的に見ると、どうやらウェブは私たちの宇宙と同じく「膨張と収縮」(Ban & Crunch)を周期的に繰り返しているのではないかと思える。それで行くと、今は収縮期に当たるのかも知れない。FacebookやTwitterのような特定のプラットフォームに、ユーザーとコンテンツが集中していく時期なのかも知れない。闘病ドキュメントがこれらプラットフォームに集約される可能性もなくはない。だが「闘病サイト」という固有性、つまり一般UGCにはない特殊性も考慮しなければならない。
これに関して、あちこちの闘病ブログの書き出しでしばしばよく目にするのは、たとえばユーザーの「闘病体験を書くために、mixiから離れてブログを立ち上げました」というような言葉だ。このあたりよく考えなけばならないが、今当方が持っている仮説は、闘病ドキュメントというものは、意外にSNSのような濃密なコミュニティが強いる関係性とは相性が悪いのかも知れない、というものである。
三宅 啓 INITIATIVE INC.