Health2.0のビジネスモデル再考: データとフロー

Kandinsky

昨日は朝から、妻と丸の内の三菱一号館美術館へ「カンディンスキーと青騎士展」 を見に行った。数年前、大規模なカンディンスキー展が開催され大作「コンポジションⅥ、Ⅶ」などたっぷり堪能できたが、今回は初期のわりと地味な作品が多かった。しかし、風景画などでそのきわだった色彩感覚に驚かされる経験をした。「この屋根をこんな色で描くのか」。ミュンターはじめ青騎士グループの作品もじっくり楽しめた。そういえば、自室に長らく「コンポジションⅦ」の大判ポスターを架けて悦に入っていたが、あれはどこへしまったのか。

話は変わって、最近、あらためてHealth2.0のビジネスモデルを考え直したりしている。これはWeb2.0のビジネスモデルというものが、既にかなりはっきり見えてきたことにも関係がある。たとえば、かつてWeb2.0を代表するサービスと言われていたソーシャルニュースのdiggやソーシャルブックマークのdelicious、さらにかつてトップSNSであったMySpaceが、最近、身売りやリストラの憂き目にあっていると報じられている。そしてその一方では「勝ち組」のFacebookが、来年と噂される株式公開へ向け着々と準備を進めている。2005年の時点、つまりWeb2.0が大きな社会的話題になった頃、一体誰がこの事態を予想できたであろうか。その後、五年が経過し、混沌としたシーンは晴れ上がり、勝ち組と負け組は明確になった。

ここ5年間の経験からWeb2.0のビジネスモデルを要約すると、「まず無料でサービスを提供し、短期間にひたすらアクセスを稼ぐ。その間ほとんど収益はゼロだが、ガマンしてともかくアクセス増大に励む。やがて一定のアクセス量を達成できたら、それをなんらかの形でマネタイズするか出口を探す。」このようなものである。だが、ひとくちに「アクセス量」といっても、それは数百万ページビューなど半端なものではなく、少なくとも何億ページビューというレベルである。そしてアクセス量を稼ぐ間にマネタイズするためのビジネスモデルを捜すのだが、どうやら先述のdigg、Delicious、MySpaceはこのことに失敗したようだ。

無論、ビジネスモデルと言っても無限にあるわけでもなく、安直に誰もが思いつくのはたとえばバナーなど広告モデルであるが、むやみに広告バナーを貼ることによって、MaySpaceなどはかえってユーザー離れを起こしたといわれているから、そんなに簡単な話でもない。

Health2.0はどうであろうか。よく「Health2.0とは何か」という問いに対して、短く「Web2.0を医療に適用したもの」という説明がされる。これは雑駁であるにせよ、わかりやすい説明だ。だが、このような説明ではもはや不十分であると言わざるをえない。ビジネスモデルに注目してみれば、Health2.0のそれはあきらかにWeb2.0とは違うことがはっきりしてきたからだ。

まず、Web2.0スタートアップ企業のように初期段階で巨大なアクセスを稼ぐことがHealth2.0では難しい。ここ数年米国で多数登場してきたHealth2.0スタートアップ企業を見ても、億単位の月間ページビューを稼いだところは皆無だ。diggみたいな汎用性がないと、広く大きなアクセスを集めることは難しいわけである。つまりスタートアップ時点において、すでにHealth2.0企業はかなりのハンディを背負っていることになる。そしてさらに、達成したアクセス量をマネタイズするということがHealth2.0企業にはむつかしい。

ではWeb2.0のビジネスモデルがHealth2.0に適用できないとしたら、Health2.0ビジネスモデルをどう考えればよいのか。答えはまだ明確ではない。だが少ないながらも米国のPatientsLikeMe、Sermo、PracticeFusionなどの事例が教えるところは、何らかの形で医療関連データを環流させるシステムの構築がベースになるということだ。あるいは、「データとフロー」がHealth2.0の肝だと言ってもよい。

これまで医療関連データは、医療機関をはじめ多数の関係機関に分散し、それぞれプロプライエタリなシステムに幽閉され、様々な社会的医療情報ニーズを満たすことなく、個別に蓄積(死蔵)されてきた。これを打破し、自由な医療関連データの社会的環流システムを作っていくことが、Health2.0ビジネスモデルあるいはイノベーションの創造に繋がるのではないだろうか。

私たちのTOBYOプロジェクトも、「患者体験データ」という一つの医療関連データのフローを社会・医療界・産業界に生み出し、患者体験を起点とした患者参加型医療を創造することをめざしている。Health2.0ビジネスモデルの最も重要で基本的な要素は、やはり「データとフロー」ではないか。ここを徹底的に考察していくことしか道はないと思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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