様々なる闘病サイト: 精巣癌と闘うオカメインコ?

OkameInco

「ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にする」。これがTOBYOのプロジェクト・ミッションだが、少しづつ可視領域拡大を進めており現時点で2万7千サイトまで可視化できている。ネット上にゆっくりと自然発生的に形成されてきた闘病サイト群をひとつの仮想コミュニティとみなし、私たちはこれを「闘病ユニバース」と呼んできた。三年前、TOBYOプロジェクトがスタートした時点で、闘病ユニバースの規模をおよそ3万サイトと推定したが、この数字で行けばすでにTOBYOは闘病ユニバースの9割を可視化したことになる。

だがここまで来てみると、闘病ユニバースの規模は当初推定よりも少なくとも一回りは大きいような気がする。そしてまだ膨張の途上にあるものと思われる。日々、闘病サイトは新たに生成されており、その旺盛な活動は今のところ衰える気配はない。もちろん、ひっそりと消滅していくサイトもあるのだが、それを上回る新サイト群が続々と登場している。これらのサイト群を仔細に観察してみると、ウェブに同病者の連帯を求め、相互リンクで結び合い、緊密なコミュニケーションを取ろうとするグループと、いかなるリンクも張らずに超然と孤立することを選ぶグループがあることに気づく。 続きを読む

地震で考えたこと

Flower

地震からすでに10日経った。未曾有の地震と津波は、形容する言葉もないほど圧倒的な自然の力をあらためて認識させた。また、いつ止むとも知れぬ原発事故は、人間の非力さと未熟さを、これでもかと見せつけるに十分だった。

連日繰り返されるマスコミ報道を目にしたが、そこに登場する「常連」達の発する言葉の空疎さと無力さを確認するのみだった。このような圧倒的な事件の前では、どのようなまっとうな言論も、すべてが「言論ゲーム」に見えてしまうのだ。だから、「すべての現実を論理的に語ることができる」と錯覚する饒舌ではなく、「本当は何も語り得ないのだ」と悟る沈黙の方が、まだしも良心的なのかも知れない。

その中で、「ほぼ日」糸井重里氏の「東日本大地震のこと」は、この状況下で言語化しにくいことを、それでもなんとか言葉にしてみようという良心的な行動だと思った。

巷間、「このような状況下で、私にできることは何かを考えている」というふうな言説があちこちに目につくが、自分にとって「できること」とは日常の仕事をしっかりやることであり、そのことはTOBYOプロジェクトをしっかりやることに他ならない。まず各人が、それぞれの場所で、それぞれの仕事をしっかりやることにつきるのではないか。 続きを読む

春よ来い

Spring2011

三月の声を聞いても寒さは厳しい。日差しはもう春めいているのに風は酷く冷たい。アンビバレントな天候だ。当方プロジェクト開発の進みようは、まるで最近の天候さながらである。

dimensions開発は昨年末に基本プログラム開発を終え、その後、年初からデータ処理とバグフィックスに取り組んできた。特に拡張検索エンジン「Xサーチ」の実行スピードアップが問題だったのだが、これもなんとか乗り越えられそうだ。TOBYOで公開している現行「TOBYO事典」とは違う検索エンジンをdimensionsでは採用したが、このことが災いしたか、期待したスピードが出ずに四苦八苦していたわけだ。

また、これまでTOBYO本体は米国、dimensions開発環境はシンガポールのクラウドを使ってきており、どうしてもレイテンシの問題があったのだが、今月から東京のクラウドが使用可能となったので、これでずいぶん助かった面もある。昨夏amazonの渡辺さんにお会いしたとき、日本でもEC2をリリースする予定とうかがったが、今月からこれが実現されて当方にとってはありがたい。

だがこれら問題も、dimensionsのような、まったくこれまで存在していないサービスシステムの開発にはつきものだと割り切っている。そして一方では、この間、同時並行で市場開発および用途開発に関連して「アンバンドリング、リサーチイノベーション、主観的事実把握」のようなビジョン・方向性・アイデアなど収穫も少なからずあったと思う。 続きを読む

三周年

camjatan

昨日、2月18日。TOBYOはサイトオープン3周年を迎えた。夕方、早々に仕事を切り上げ、事務所から明治通りを歩いて東新宿方面へ向かい、新大久保はずれの韓国家庭料理屋へ。午後から急に風が冷たくなったが、暖かいカムジャタン(写真)をつつき、薬缶に入ったマッコリを飲みながら、奥山とこの三年を語り合った。

収録サイト2,000でスタートしたTOBYOは、三年経って収録2万6千サイトと文字通り国内最大の闘病サイトライブラリーに成長した。当初なかった闘病サイトだけを対象とするバーティカル検索エンジンも稼働している。そして昨年から開発に着手したdimensionsも、基本開発段階を終えデビューを待っている。振り返ってみれば、三年という時間がどうしても必要だったと思う。

Health2.0関連のビジネスモデルがweb2.0一般のそれとはかなり異なることは、再三、このブログで指摘してきているが、TOBYOの場合、収録サイト数や検索インデックスページ数など量的蓄積のための時間が必要だった。では2万6千サイトで十分かと言えば、まだまだと思う。医療におけるリサーチ・イノベーションを実現する最低水準は2万サイトぐらいだが、もちろんデータは多ければ多いほどよい。三年経ってようやくリサーチ・イノベーションをはじめ、さまざまなチャレンジを実現する基礎が固まったというところだろう。 続きを読む

リサーチ・イノベーションとUGR: User Generated Research

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思い返してみると、web2.0において、やはりもっとも重要だったのはUGC(User Generated Content)という考え方だったのではないか。それ以前、各商用サイトは自前のコンテンツ制作に人もカネも時間も投入し、これが実はサイト運営における最大のコスト・ドライバーであった。「プロフェッショナルな完成度の高いコンテンツでなければ集客できない」とみんな思い込んでいたからだが、UGCという考え方の登場は、そんな迷信を根底からひっくり返したのだった。(もっとも、いまだに自前のコンテンツ制作に注力するところは後を絶たないが。)

UGCというコンテンツの制作と価値をめぐる考え方の転換によって、Flickr、YouTube、ニコ動などweb2.0を牽引するサービスが登場し、もはや「コンテンツはユーザーが作るもの」という考え方が当たり前になった。このことは調査においても言えるのではないか。従来は、プロのリサーチャーが調査設計をおこない、被験者に質問して回答を引き出してきた。基本的にこれは、プロの制作プロダクションがコンテンツを制作することと同じだ。だが2.0以降、「コンテンツはユーザーが作る」ようになったのだ。「ユーザーが作る調査」というものがあっても良いだろう。そこでUGR(User Generated Research)である。

おそらくリサーチ・イノベーションのベースに、このUGRというコンセプトを置くことになると思う。従来のレガシー調査の一般的実施手順というものをあらためて検分してみると、結局、「一定の基準のもとにデータを発生させ、回収し、分析する手順」ということになる。ところがUGRにおいては、データそのものがユーザーによって先行して生成されており、従来の調査手順の大半は省略されることになる。データは設問やインタビューを被験者に投げて、新たに被験者に生成させるものではなく、既に「被験者」の自発的意志によって生成されウェブ上に存在しているのだ。 続きを読む