一つの未来医療イメージ

先月発表されたマイクロソフト社の「未来医療」イメージビデオ。良くできているとは思うのだが、何か違和感が残る。それは、このようなクリーンな未来イメージをこれまでいろんな場所で多く見慣れてきたせいで、リアリティが感じられないためなのか。あるいは、単に当方の「ヘソ曲がり」ゆえか?。はたまた「マイクロソフトのビデオ」ということからくる、先験的バイアス感のなせるわざなのか?。

ビデオに登場するガジェット群のインターフェースはどれも素晴らしいものであるが、ある意味では「それだけか」という不満もある。グレッグ・イーガンの小説に出てくるような、ハード&薬剤一体型の家庭医療装置などのほうが、当方は未来医療としてイメージしやすい。とにかく医療システムの現在形を、なんの躊躇もなく無批判に未来へ向かって投げると、こんなビデオが出来上がるのだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

ハーベイ・ピッカーの死とHCAHPSの起動

HospitalCompare

土曜日のNew York Times紙面に、ハーベイ・ピッカーの死が報じられていた。そして奇しくも同日の医療関係ブロゴスフィアでは、なんとCMSによるHCAHPSの本格的運用が伝えられたのだ。「ハーベイ・ピッカーの死と、HCAHPSの起動がほぼ同時期に起きるなんて・・・。これはなんという偶然なのだろうか」。ある懐かしさに似た感情を抑えられず、このような感懐にひと時ひたったのである。とは言え、日本ではハーベイ・ピッカーの名も、HCAHPSという米国の国家医療プロジェクトの存在も、ほとんど全く知られていないのが現実かもしれない。 続きを読む

医療ロボット

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先日当方ブログのエントリでも触れた「日本版PHR」報告書が、経産省サイトにアップされた。このページの「個人が健康情報を管理・活用する時代に向けて」がそれである。ご案内いただいた経産省の渡辺さんのメールには、「よろしければご一読いただき、またブログで酷評wいただければと存じます。」とあった。(笑) 続きを読む

Health2.0からDoctor2.0、そして或る事実誤認


昨年エントリでも取り上げたが、ニューヨークはブルックリンでユニークな医療活動を展開するジェイ・パーキンソン医師。ウェブサイト以外の診療拠点を持たず、ネットワーク技術を活用して往診だけの医療サービスを開業し、先頃のHealth2.0コンファレンスでも話題になっていた。そのパーキンソン医師のインタービューがYouTubeにアップされた。ところで最近、ジェイ・パーキンソン医師はカナダの医療ベンチャー企業「Myca」に招聘され、同社チーフ・メディカル・オフィサーに就任したようだ。このMyca社は現在、「Hello Health」というユニークな診療所向け情報システムを開発中である。その一端が、このインタービュー・ビデオでも紹介されている。PHRにせよEHRにせよ、インターフェイスのプロトタイプはすべて、従来の「紙の帳票」であった。紙のカルテや健康記録表などのフォームが、そのまま電子化されたようなものであった。それに対し、「Hello Health」は従来と全く違うユーザー・インターフェイスを持っている。ビデオではほんの一瞬、垣間見れるだけだが、それでも従来のPHRやEHRとはまるで違うインターフェイスであることがわかる。

ジェイ・パーキンソン医師の例を見ていると、ムーブメントとしてのHealth2.0が医師の医療提供のありかたまで変えつつあり、今後、医療における広範な変革を生み出す可能性を持っていることが理解される。そのようなHealth2.0であるのだが、ところで今日、ある人から教えられて次のような「プレスリリース」を目にした。

【インターネットにおける健康コンテンツのトレンドについて】
2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表、2008年2月からテストサービスを開始し、米Microsoft社も2007年 10月より、ヘルスケアサービスのテスト版を開始しています。また、米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り、多くのIT企業が参画した、製薬会社を含めた医療と患者の新しい関係を模索する(健康とWeb2.0を掛け合わせ、新しいコミュニケーションの方法を探る)カンファレンスが 2007年10月から開始され、年二回の予定で実施されています。(第二回が2008年3月に盛況の内終了)
(医療と患者の関係を変える!新しい患者コミュニティサイト、LifePalette(ライフパレット)オープン!)

この世界には、たしかにどのような「妄想」を持つ自由もあるだろう。また「妄想」は、想像力と淵源を共有する創造性の一つのヴァリアントと考えてもよい。しかし、「妄想」と「事実」を混同してならないのは社会常識の一つだ。上記に「米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り・・・・・」とあるが、そのような事実はない。こんな事実無根の作文が知れたら、Health2.0ムーブメントの中心的な人々、マシュー・ホルト、インドゥー・スバイヤ、スコット・シュリーブなどから抗議される可能性さえある。また「2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表」とあるが、そのような事実もない。2006年5月に発表されたのはGoogleCo-opだ。

先日、「LifePalette」には当方からエールを送っておいた。だが、残念ながら今回の「プレスリリース」には失望させられるばかりか、米国の人たちに失礼だろう。会社のオフィシャル文書の内容は、しっかりと事実確認したほうが良いだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

彼岸参り

昨日、愛宕山まで彼岸参りに行って来た。前夜の雨に洗われたような春の空。日差しが暖かい。墓前で一昨年秋に亡くなった父に、TOBYOアルファ版のローンチを報告した。生前、父はTOBYOの完成を楽しみにしていたのだが、アルファ版を見ることもなく早々と没した。

父の胃がんが告知されたのは、ちょうど二年前の三月であった。以来、セカンドオピニオンを求め、またインターネットで胃がん関係の情報を集め、最終的に有明の癌研病院で胃の全摘出手術を行うことになった。春から夏までの間、父は特に自分と同じようなケースのウェブ闘病記をネットで探し出し、熱心に読んでいた。今にしてみれば、それを横で見ていたことが、後でTOBYOのアイデアを思いつく伏線になっていたと言えるのではないか。 続きを読む