歴史は二度繰り返すのか?

先月も取り上げたが、この間ナンバーワン医療ポータルをめざしてきたRevolutionHealth社の失敗がますます明白になってきている。同社CEOスティーブ・ケース氏はどうやら本気で企業売却に乗り出しているようで、すでに従業員の大規模なレイオフが始っている。しかし、昨年春にサイトオープンして以来、わずか1年半のことであり、その「あまりにも短すぎる挑戦」をめぐって議論が起きている。

まず、ドットコムバブル時代のDrkoop社など「先例」との類似を指摘する声も多いが、やはり「打倒WebMD」をあまりにも急ぎすぎ、無理な企業買収の頻発などが結果的に足を引っ張ったとの見方が一般的であるようだ。スティーブ・ケース氏にはそれなりの目算もあったのだろうが、それにしても10年かけて首位医療ポータルの座を築いてきたWebMDに対し、ゼロから短期勝負で簡単に抜き去ることができるという考え方自体が、あまりにも医療情報サービスというものをなめすぎていたのではなかったか。 続きを読む

医療情報システムと国民医療

一昨日のエントリ「医療情報システムの三つの顔」に対して、ganfighterさんが各システムの英語定義を翻訳してくださった。あらためて感謝しておきたい。またynbさんから、各システムの定義について素晴らしい考察をしていただいた。これも感謝しておきたい。なるほど、「データの網羅性」という基準を立てると各システムの差異は一層明確になるはずだ。その際、たしかにEMRは医療現場に一番近いシステムであるだけに、最も広範な「データの網羅性」を持つことになる。かたやPHRは、患者に最も近いシステムとして「患者自身による訴えの記述」までをカバーできる。そうなるとEHRが中途半端な立場に立たされそうだが、ynbさんが言われるように、そのデーターカバレッジは「パブリック」という観点から限定される可能性は高いだろう。だが、そうなるとEHRの経済的基盤はどうなるのだろうか。 続きを読む

スペクタクル社会からの脱出

spectacle福田首相の突然の辞意表明に続く一連の「自民党総裁選」を眺めていると、今に始まったことではないが、政治そのものがスペクタクル(見世物)と化し、さらにマスコミを通して拡大増幅された「物語」が消費に供されるという、一種の「閉回路」が社会的に完成されている事態を改めて思い知らされる。今回はさすがにマスコミも三年前の郵政解散を反省し、「慎重な対処の仕方」を模索しているという。

だが、今さらどのように「慎重な対処の仕方」があるというのだろう。そこに興行価値があるかぎり、スペクタクルをみすみすマスコミが無視できるはずもないのである。「事実」をスペクタクル(見世物)に矮小化してしまえば、どのような事実もただ興行価値の観点からのみ判断されることになる。どのような「事実」も、それがわかりやすく人を驚かせたり感動させる「物語」として成立することが必要であり、そのことが「事実」のニュースバリューとさえみなされるようになる。 続きを読む

メモランダム3: 新しいユーザー価値の創造

これまでの日本のウェブ医療情報サービスというものを振り返ると、医療情報空間にばらばらに存在する個々の「固有名詞グループ」を集めてリスト化する、ということで終わっているケースが多いことに気づく。たとえば医療機関検索サービスは、医療機関という固有名詞グループのリストを作って検索しやすいよう便宜を図っているのだが、いったん作られた病院やクリニックのリストは、それ以上他のデータと結び付けられることはない。

このことは、病名、薬品など他の固有名詞グループについても同様である。かくして、病名事典や薬品事典の類が、互いに結び付けられることなく、ウェブ上のここかしこに店を開くことになる。そして、これら医療関連リストを複数集めて、WebMDに代表されるような医療ポータルが形成されることになる。医療関連のウェブサービスを乱暴に圧縮して概観してみると 続きを読む

メモランダム2:一点集中、全面展開

涼しい秋風が吹き始め、夏も終わりである。夏の疲れが出てきたのか、どうも体調が良くない。ここはしっかり休むべきなのだろうが、TOBYOの現段階を考えるとそうもいかない。

前回のエントリーで、われわれが考える新医療情報サービスの基本前提みたいなものを考察した。これらの問題を考える際に、いつも話題になるのは「なぜ、日本ではインターネットを使った新しい医療サービスが出てこないのか、成功しないのか」ということである。これについてはこのブログでも何回か考えて来たのであるが、結局、日本医療をめぐる妙に権威主義的で硬直した制度文化や言説空間が問題になるのではないか。つまりビジネスアイデアやモデルうんぬん以前に、その業界土壌自体が固く貧しいという現実が立ちはだかっているのだ。だとすればおおまかに言って、ビジネスプレイヤーが取るべき態度は二つに分かれる。すなわちそれらの業界土壌に適応するか、それともその土壌を作り変えるかである。 続きを読む