闘病記をマネタイズする方法

eBook

現在のTOBYOプロジェクトの焦点はネット上の闘病記録すなわちデータにあり、もはやパッケージとしての「闘病記」に対する強いこだわりはない。いわゆる闘病記パッケージに関することは、闘病記屋さん達に任せればよい。そう考えている。

それでもキンドルやiPadの出現によって電子書籍が現実のものになってみると、パッケージとしての闘病記をめぐる状況もこれまでとは大きく変わってきている。闘病記を出版したいと考えている人達にとって、自分の闘病記を出版しマネタイズするチャンスが訪れているからだ。

「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚、ディスカバー携書)は電子書籍の現下の状況をレビューしつつも、その背景をなす文化的、社会的イシューに目を配り鋭い考察を提出している。本論ではないが、脇に周到に配された記号消費終焉論などもたいへん面白く読めた。さて、本書第三章「セルフパブリッシングの時代へ」だが、ここで紹介されている方法で、近々日本でも闘病記をセルフパブリッシングする人が出てくるだろうと思った。 続きを読む

医療事実の蒸留器としてのDFC

distiller

DFC(Direct from Consumer)開発に取り組む過程で、TOBYOプロジェクトの役割というものをあらためて考え直す機会を持つことが出来たのは幸いだった。これまでプロジェクトミッションは「ネット上に存在するすべての闘病体験を可視化する」と定義してきたのだが、さらにもっと直截で具体的な表現を用いるとすれば「医療事実の蒸留器(distiller)」とでも呼べるかも知れない。

まずTOBYOは、ネット上に多数存在するスパムサイトや偽装サイトなどのノイズを除去し、自発的に公開された闘病記録を含むサイトだけを収集してきている。つまりGoogleやYahooのような汎用検索エンジンに比べると、よりクリーンな情報ソースだけを検索することが可能だ。これはバーティカル検索の強みである。

だが一口に「闘病体験を含むサイト」と言っても、闘病記録がほぼ100%を占めるようなサイトからわずか10%程度のサイトまで雑多なバリエーションがある。私たちが2万件を越えるサイトを見てわかったのは、むしろ闘病記録よりも日常雑記の方が全体として情報量は多いということだ。育児、教育、仕事、趣味、旅行、時事など、多彩な日常記録が公開されており、その中の一部分として闘病記録が収載されているのが普通である。 続きを読む

競争優位の源泉

social_capital.jpg先月「ツイッターノミクス」(文藝春秋)が出てようやく日本でも注目されはじめたタラ・ハントだが、TechWaveに三橋ゆか里さんによる「インタビュー:「ツイッターノミクス」 著者、タラ・ハントさん -前編- 」が掲載されている。このインタビューを読んで「なるほど」と胸にすとんと落ちたように思ったのは、「リスクをとること」についてのタラ・ハントのメッセージだ。

「日本のベンチャーが出資が集まらなくて苦戦していると聞いたけれど、ビジネスを変える最適の方法は新しいアイディアをサポートすることだと思う。アメリカでスタートアップと携わる仕事をして学んだことは、そしてこれは「ツイッターノミクス」の中でも重要なポイント、そして私の哲学でもあるけれど、それは「リスクをとること。リスクを恐れないこと」よ。本能で感じる、自分が強く信じることなら、リスクをとることは自己実現の いちばん手っ取り早い方法だもの。」

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衰退する米国医療テクノロジーと日本の高齢化産業界

昨年から、米国医療IT業界とくにITゼネコンの停滞についてさまざまな指摘がされはじめている。その原因として、たとえば医療IT分野の規制やシステム認証制度などが従来より強化されてきたからだと言われているが、はたしてそうだろうか。一方、医療IT分野だけでなく、製薬、医療機器の分野においても停滞は見られ、総じて米国の医療テクノロジー全般が衰退しはじめているのではないかとの議論が出てきた。

Harvard Business Reviewの4月12日付ブログで、“Has the U.S. Health Technology Sector Run Out of Gas?”と題するエントリがポストされた。製薬、医療機器、医療IT分野の危機的状況がレビューされているが、その原因を次の三点で解説している

  1. リスク回避のマネジメント・スタイル
  2. 規模は実際にはハンディキャップになっている
  3. グローバル人材競争に負けている

これを見ていると、何か日本経済のことを指摘されているような気がした。はたして、日本の大企業で「ゲーム・チェンジング」なリスクを取ろうというところはあるだろうか。規模がでかくなるほど官僚体質は強化され生産性は低下する。また、かつては世界の先頭集団に属しながらも、いつのまにか下位集団に転落しはじめると、世界から優秀な人材を集めることはできなくなる。 続きを読む

ウェブ医療サービスのターゲット試論

 target

昨日、今日と痛風発作のため自宅静養。薬を飲んで早く痛みが去るのを待つのみ。このところ酒量増加気味でそれが直接原因。既に生涯飲酒量を越えた可能性大なので、そろそろアルコールをやめようかとも思ったりするが、実行可能かどうか怪しい。

久しぶりに自宅で音楽三昧の時間を楽しんだが、Pewレポートが発表されて以来、医療ウェブサービスの今後を考えることが多い。TOBYO公開からの2年間を思い返してみると、今のところ日本の医療ウェブサービスで現実にワークするものというのは、残念ながら非常に限られているような気がする。それを「なぜこうなっているのか」と原因解明しても詮無いはなしであるから、とにかく今現実にワークするものだけを見極めて動かすしかないのかもしれない。

TOBYOの経験を振り返ってみても、当初構想からかなり変更を余儀なくされているわけで、特にクラウドソーシングがあまりワークしなかったのは予想外の事態だった。「みんなで闘病体験を整理する」ということだが、TOBYOのインターフェースの問題もあるだろうが、それよりもそのようなことが実際に動き出す「気配」というものがまるでなかったのだ。逆に、たとえば他人のサイトをブックマークすることの抵抗感がかなりあることがわかり、これでは「ユーザー参加型医療サービス」への道は遠いと感じた。また、同時に「無断リンク禁止」など大昔の迷信がまだ根強く信奉されていることもわかり、率直に言って失望感を禁じ得なかった。今更「無断リンク」でもあるまい。しかしそれが「現実」なのだ。 続きを読む