医療とゲーミフィケーション: HealthTap


昨年から、あちこちで「ゲーミフィケーション」という言葉を目にする機会が増えてきている。この言葉を手っ取り早く理解すると、以下のようになる。

ゲームデザイン手法や仕組みを用いて問題の解決やユーザー契約などを獲得すること。例えば、既存のシステムやサービスへの、ポイント性、順位の可視化、バッヂ、ミッション、レベルシステムの採用など。さらにゲームの要素を盛り込むことによって楽しみながら意図せずそれらと関わっていってもらうことが目的で行われる場合もある。(wikipedia:ゲーミフィケーション

このゲーミフィケーションの手法を医療Q&Aサービスに導入したのがHealthTapである。このサービスが普通の医療Q&Aと異なる点は、ゲーミフィケーションの仕組みを回答者である医師参加者に適用している点にある。

HealthTapに参加した医師は謝礼や換金可能ポイントなどは与えられないが、そのかわり回答数、医師同士の”agree”評価、一般ユーザーの”thanks”評価などのポイントを競い、獲得ポイントによってさまざまな「賞」を贈られたり、自己の評価ステータスを示す「レベル」を上げたりすることができる。

また、HealthTapでは医師の参加モチベーションを上げるために、以上のようなゲームライクな競争の仕組みを用意するのみならず、医師個人を可視化し、ウェブ上の医師プレゼンスを高め、同じ地域の患者への認知促進をはかるなどの「販促効果」もあるとしている。これらの「メリット」にひかれてか、現在、医師参加数は約9000人を数え、毎日100人づつ増加しているとHealthTapは発表している。 続きを読む

米国で製薬企業がFacebookの自社ページを閉鎖

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ワシントンポスト紙によると、今週月曜日から、米国のアストラゼネカ社、ジョンソン・アンド・ジョンソン社がFacebook上の自社ページを閉鎖した。これはFacebook側が製薬企業のウォールを公開するように求めたためである。

これまでFacebookは、製薬企業だけに、ウォールへのオープンなコメント書き込みのブロックを認めてきた。これはユーザーが虚偽の副作用、不正な薬物使用、製品についての不適切な言説を書き込むかもしれないと製薬業界が懸念してきたためであり、また、これらによって規制当局を刺激するのではないかとの懸念もあったためである。

しかし先週末、Facebookはこの「特典」をやめ、一部の特殊な処方薬に関係するページを除き、製薬企業のウォールを公開するよう各社に通告した。これによりアストラゼネカ社は鬱病のページを、ジョンソン・アンド・ジョンソン社はADHDのページを閉鎖した。ファイザーはじめ他の製薬企業も、ページ閉鎖まではしないものの、不正書き込みの24時間監視体制を強化するとのこと。

(“Drug companies lose protections on Facebook, some decide to close pages”,August 13,The Washington Post.)
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新サービス「闘病CHART」: 患者話題ランキングとバーティカル検索の連動

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暑い。日本全国、夏休み。それでも熱く仕事は続く。熱気を帯びて湯気の出るアイデア創発も続く。冷蔵庫で美味しそうにゴロンと冷えているビールとスイカが力源だ。

先月サービスインしたdimensionsは、おかげさまで早速各方面から強い関心とお声がけを頂戴している。ところで先日エントリ「dimensionsの基本フレーム」 でも触れたが、実際にシステムを運用ベースにのせてみると、かなりのリソースが必要になることが分かってきた。特に全体としてデータ処理のスピードアップが求められるため、目下、従来のリソース・システムを組み替え、新システムへ移行中である。

さて表題の「闘病CHART」であるが、これはdimensions開発の成果を、今度はTOBYOや他の患者向けサービスへ転用しようというものだ。たとえば「乳がん患者が話題にしている薬品ベスト20」、「アトピーの患者が話題にしている治療法ベスト20」、「胃がん患者が話題にしている病院ベスト20」など病名別チャートを設置し、チャートインしたアイテムをクリックすればバーティカル検索をかけ、即座に薬品名など各アイテムについての患者の体験とレビューを表示するサービスだ。

これは、dimensionsのディスティラー(Distiller)が実現しているキイワード抽出およびリスティング機能に基づいている。ディスティラーでは病名ごとに上図のようなリストを作っているが、ある時、このリストを見ながらその意味を考えているうちに、これが患者がネット上で言及している「薬品、治療法、医療機関、検査・機器」分野それぞれの話題ランキングであることに気づいた。

これらのランキングはTOBYOのサイト属性データをベースとしており、特定病名ごとの患者ドキュメントを正確に切り出すことができる。つまり、たとえば乳がんの患者だけ、肺がんの患者だけ、関節リウマチ患者だけの話題薬品ランキングを最新チャートとして提供できる。そしてこのチャートとTOBYO事典を組み合わせることで、チャートインした個別アイテムの患者体験検索が即座に可能となる。 続きを読む

TOBYO、闘病ユニバースの3万サイト可視化を達成

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TOBYOの可視化闘病サイト件数は、本日(8月10日)、3万件を達成した。自己の貴重な闘病体験をネットに公開してくれたすべての闘病者の皆さんに、この場をかりて深い敬意と感謝の念を表したい。

インターネットが始まるとほぼ同時に、闘病者は自発的に自己が体験した事実をネット上に公開し始めた。それらを読んで自分の闘病の参考とした者が、続々と今度は自分の体験をネット上に公開した。そしてさらに後続の闘病者が・・・というように一種の闘病体験のリレーがネット上で自然発生的に起きたのだ。その結果、ネット上には夥しい量の闘病体験が蓄積され、やがてそれらはオープンでルースな、まさに「自律、分散、協調」を地で行くネットワークをゆっくりと形成していった。

TOBYOプロジェクトを企画する前段階で、私たちはこの自然発生的なネットワークの存在に気づき、後日それを「闘病ユニバース」と名付けた。当時を振り返ると、TOBYOプロトタイプに到達するまでに、私たちの前には複数の選択肢があった。その中のひとつは、いわゆる闘病コミュニティや患者SNSをつくるというものだった。だがすでに「闘病ユニバース」という巨大なネットワークが存在する以上、新たな闘病コミュニティをつくる必要はない。そして、これからコミュニティ=コンテンツ生成場を作ってコンテンツを集めるのではなく、すでにあるものを集めたほうが確実で早い。それに患者コミュニティなるものがそう簡単にワークするものではないことも、米国の状況などを研究してなんとなく分かっていた。 続きを読む

ファイザーがWebヴァーチャル治験を開始

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YouTube:マイトラス社「ヴァーチャル治験」ビデオ

製薬会社のファイザーは、ウェブとモバイル機器をベースに家庭で手軽に参加できる「ヴァーチャル治験」の実験を発表した。

これは、すでに2007年に伝統的手法を使って実施された過活動膀胱の薬品”Detrol”の治験を、今回あらためて全く新しい「ヴァーチャル治験」スタイルで実施し、その結果を比較しようというものだ。この「ヴァーチャル治験」にはマイトラス社のシステムが使用される。

ファイザーによれば、これまで伝統的治験のネックとされてきた時間的コスト、実施運用コストを大幅に下げることが可能という。また、消費者側から見れば家庭でいながらにして治験参加できるし、これまで参加を阻んでいた地理的、時間的制約など各種障害が取り払われる。これは治験参加対象者の拡大につながる。

これらを見て思いついたのは、たとえば「治験コミュニティ」のような、治験を軸とする新しい患者コミュニティである。単に人的交流サービスだけでない、新しいスタイルの患者コミュニティ、あるいは医療リサーチ・コミュニティのヒントがこのあたりにあるような気がする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.