TOBYOの可視化闘病サイト件数は、本日(8月10日)、3万件を達成した。自己の貴重な闘病体験をネットに公開してくれたすべての闘病者の皆さんに、この場をかりて深い敬意と感謝の念を表したい。
インターネットが始まるとほぼ同時に、闘病者は自発的に自己が体験した事実をネット上に公開し始めた。それらを読んで自分の闘病の参考とした者が、続々と今度は自分の体験をネット上に公開した。そしてさらに後続の闘病者が・・・というように一種の闘病体験のリレーがネット上で自然発生的に起きたのだ。その結果、ネット上には夥しい量の闘病体験が蓄積され、やがてそれらはオープンでルースな、まさに「自律、分散、協調」を地で行くネットワークをゆっくりと形成していった。
TOBYOプロジェクトを企画する前段階で、私たちはこの自然発生的なネットワークの存在に気づき、後日それを「闘病ユニバース」と名付けた。当時を振り返ると、TOBYOプロトタイプに到達するまでに、私たちの前には複数の選択肢があった。その中のひとつは、いわゆる闘病コミュニティや患者SNSをつくるというものだった。だがすでに「闘病ユニバース」という巨大なネットワークが存在する以上、新たな闘病コミュニティをつくる必要はない。そして、これからコミュニティ=コンテンツ生成場を作ってコンテンツを集めるのではなく、すでにあるものを集めたほうが確実で早い。それに患者コミュニティなるものがそう簡単にワークするものではないことも、米国の状況などを研究してなんとなく分かっていた。
闘病ユニバースは日本語圏ウェブにおける最大の患者コミュニティであるが、それは自然発生的に、自生的に成長してきたがゆえに、自己意識をもたず、構成メンバーを特定できず、相互連絡ルートさえ確立していない。つまりコミュニティが持つべき基礎となる情報インフラが整理されないまま、無意識に膨張してきたのである。端的に言ってTOBYOは、この闘病ユニバースの情報インフラたらんことを目指してきたのだ。
TOBYOは闘病ユニバースのサイトリストを作り、病名など基本属性別に整理分類した上でメタデータをタグ付けし、さらにそれら闘病サイトだけを検索するバーティカル検索エンジンを開発した。これらによって、誰でも、いつでも、簡単にTOBYOから闘病ユニバースのほとんどの闘病サイトへアクセスすることができるようになり、また、闘病体験をサイト横断的に検索することができるようになった。
当初、闘病ユニバースの規模をおよそ3万サイトと推定し、TOBYOプロジェクトはひたすら闘病サイトを可視化してきた。そして本日、TOBYOの可視化領域は3万サイトに達したが、闘病ユニバースはその後もどんどん膨張を続けている。おそらく現時点では4万サイトを上回るものと推定される。
闘病ユニバースは、今もどんどん成長を続け、衰える気配は微塵もない。10数年前に始まったネット上の闘病体験リレーは、すでに当たり前のことのように定着し継承されている。医療の分野で、最も早く、最も先進的にインターネットの利用領域を切り開いたのは、これら闘病者たちなのである。
三宅 啓 INITIATIVE INC.