医療IT化をめぐる新旧両陣営の戦い

EricSchmidt 8月6日木曜日、Googleのエリック・シュミットCEOが、オバマ政権の医療IT促進プランを「イノベーションを阻害し、古い時代遅れの医療ITシステムを温存する可能性がある」と批判した。これは、この春先から起きたEHR認証問題論争とも関連しているが、一方では総額200億ドルとされる米国政府の医療IT促進補助金をめぐる争奪戦という側面もあるだろう。

6日開催された”The President’s Council of Advisors on Science and Technology”の席上、エリック・シュミット氏は「現在政府が計画している全国医療ITシステムは、病院や医師が時代遅れのデータベースシステムを使う事態を招来するだろう。それらシステムにおいては、ますますWebにフォーカスした世界が増大しているにもかかわらずである。政府のこのアプローチ手法はイノベーションを阻害するものであり、医療プロフェッショナルが、現存する時代遅れの医療データベースを使い続けることを請け合うものだ。これらデータベースの多くは、著作権で保護され複製をつくることもできない」と主張した。またGoogleやMicrosoftが開発したWebベースのPHRを例にとり、「国の医療ITシステムはWebベースで、患者が直接コントロールできるものであるべきだ」と述べた。同席していたエール大学総長リチャード・レヴィン氏も、「現状のEHRは、プロプライエタリで相互運用性を欠いたものであり、見るに耐えない」とエリック・シュミット氏の主張を支持した。 続きを読む

患者体験は医療を変える

昨日エントリで、HCAHPSやCHIなど患者体験調査について振り返ってみた。考えてみると、ピッカーメソッドを研究し日本版患者体験調査を構想してから現在のTOBYOプロジェクトに至るまで、ずっと私たちは「患者体験」ということにこだわってきたのだとあらためて認識した次第だ。

患者体験調査においては「体験された事実の頻度」を計測し、体験を数量化した上で分析することをめざしていたわけだ。それに対し今のTOBYOプロジェクトで私たちがやっていることは、体験ドキュメントを収集し、共有し、DB化した上で全文検索可能にすることである。このようにアプローチ手法はかなり違うが、「患者体験」に焦点を絞っている点では同じと言える。 続きを読む

The Other Side of The Blog

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米国で先月22日から立ち上げられた「医療情報の権利宣言」サイトだが、その後、宣言支持表明者は1000名を越えたようだ。(「権利宣言」については以前のエントリを参照のこと)。宣言支持表明とともに書き込まれたコメントには、医療情報請求の現状に対する不満が数多く指摘されているようだ。医療機関に対し自分の医療情報であるカルテ等情報を請求しても、スピーディーに対応してもらえず、しかもコピー代金を取られるからである。

自分の医療情報を入手するのに、早くて一か月、へたをすると三か月以上も待たされるのみならず、コピー一枚に付き1ドルが請求されるのである。この驚くべき官僚主義的対応の原因として、HIPAA法(Health Information Portability and Accountability act)の存在を指摘する声が日増しに高まっている。「権利宣言」の発案者の一人であるアダム・ボスワース氏(GoogleHealthの前開発責任者)は、「HIPAAは1996年に作られた法律であり、今日の情報技術に適応していない」と批判しているが、このHIPAA法が官僚主義的対応を温存する法的根拠になっていることは事実であるようだ。 続きを読む

闘病体験を「物語性」の封印から解放せよ

昨日エントリで、闘病ドキュメントに対する当方の見方の変化について書いたわけだが、結局のところ闘病ドキュメント自体に関与していかなければ、TOBYOが「体験事実とデータ価値」に向けてその利用方法を進化させていくことはないと思う。現在の闘病ドキュメントはネット上に分散して存在している。当然、分散した情報を分散したまま利用するのがネット的なありかたなのだが、そうはいっても検査データの記録方法などは統一しておかないと、多くの闘病者の体験事例を数値データで集約し統計分析することはできない。つまり本当の意味での「データベース」としての使い方ができないわけだ。

現状は、たくさんの闘病者がネットで情報を公開していながら、それらサイトに蓄積されたデータを集計したり相互比較したりすることもできない。せっかく有用なデータがあるのに、それらを効率的に利用する方法が開発されていないのである。物理学者の戸塚洋二さんなども、実はその点を指摘していたわけだが、これを解決するためにはPHRと合体したような闘病サイトサービスを開発し、そこでデータを記録しながら闘病ドキュメントを書いてもらうしかないと思う。このような闘病サイトサービスにはさまざまなアプローチ方法があるだろうが、PatientsLikeMeなどはSNSというアプローチを選択しているわけである。 続きを読む

医療コミュニケーションの視点

先日エントリで日本の医療機関ウェブサイトの現状について、かなり悲観的な見方を書いた。ちょうどハーバードメディカルスクールのCIO(Chief Information Officer)を務めるJohn Halamka氏が、BIDMC(Beth Israel Deaconess Medical Center)のウェブサイトの全面リニューアルについてのエントリをTHCBにポストしたので、改めてこの問題を考えてみた。

BIDMCサイトはMS「SQL Server 2008」上に構築されているのだが、サイト上の様々な機能を、各種アプリケーションプロバイダーから調達し組み合わせて最適化して出来上がったものである。サイト上の各機能とそのプロバイダーは次のようになっている。 続きを読む