三宅 啓 の紹介

株式会社イニシアティブ 代表 ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にすることをめざしています。

メモランダム3: 新しいユーザー価値の創造

これまでの日本のウェブ医療情報サービスというものを振り返ると、医療情報空間にばらばらに存在する個々の「固有名詞グループ」を集めてリスト化する、ということで終わっているケースが多いことに気づく。たとえば医療機関検索サービスは、医療機関という固有名詞グループのリストを作って検索しやすいよう便宜を図っているのだが、いったん作られた病院やクリニックのリストは、それ以上他のデータと結び付けられることはない。

このことは、病名、薬品など他の固有名詞グループについても同様である。かくして、病名事典や薬品事典の類が、互いに結び付けられることなく、ウェブ上のここかしこに店を開くことになる。そして、これら医療関連リストを複数集めて、WebMDに代表されるような医療ポータルが形成されることになる。医療関連のウェブサービスを乱暴に圧縮して概観してみると 続きを読む

メモランダム2:一点集中、全面展開

涼しい秋風が吹き始め、夏も終わりである。夏の疲れが出てきたのか、どうも体調が良くない。ここはしっかり休むべきなのだろうが、TOBYOの現段階を考えるとそうもいかない。

前回のエントリーで、われわれが考える新医療情報サービスの基本前提みたいなものを考察した。これらの問題を考える際に、いつも話題になるのは「なぜ、日本ではインターネットを使った新しい医療サービスが出てこないのか、成功しないのか」ということである。これについてはこのブログでも何回か考えて来たのであるが、結局、日本医療をめぐる妙に権威主義的で硬直した制度文化や言説空間が問題になるのではないか。つまりビジネスアイデアやモデルうんぬん以前に、その業界土壌自体が固く貧しいという現実が立ちはだかっているのだ。だとすればおおまかに言って、ビジネスプレイヤーが取るべき態度は二つに分かれる。すなわちそれらの業界土壌に適応するか、それともその土壌を作り変えるかである。 続きを読む

新医療情報サービス構築へ向けたメモランダム

まず新しい医療情報サービスは、医療を提供する側からではなく、医療の受け手側から発想し起動する必要がある。これが第一の大前提である。従来の日本のインターネットを利用した医療情報サービスの企ては、すべてここを間違えていた。次に、医学情報、医療機関情報、治療情報など、医療を取り巻く情報領域において、何をキイにすればユーザーが利用しやすいように情報の構造化が進むかを考えるべきである。つまりユーザーの目から見て、医療に関わるすべての情報領域が晴れ渡り隅々まで可視化されるために、何を中心に情報の構造化を進めるべきかについてのビジョンを作り上げなければならない。これが第二の前提となる。この点においても、従来のウェブ医療情報サービスは、いかなるビジョンも作ることはできなかった。

他にもあるだろうが、少なくとも以上の二つの前提を抜きに、新しい医療情報サービスを起動することはできないとわれわれは考えてきた。TOBYOが、闘病者が自発的に制作するウェブ闘病記に着目し、ネット上に生成されてきた闘病ネットワーク圏のツールであることを目指して来たのは、まず最初の「受け手側から発想し起動する」という前提に立ってのことであった。では二番目の前提についてはどうだろうか。TOBYOはどのような「ビジョン」を持っているのか。 続きを読む

闘病記と現実

先週、がん患者が「病気ゆえに職を失う」という事態が頻発していると新聞で報じられていたが、闘病記を読めばこれらは当たり前に日常茶飯事であることがわかる。就業規則で決められた長期病欠期間を超過した場合のみならず、職場への遠慮から自主的に退職するケースも多い。

病気によって失われるのは職だけではない。病気を理由とする離婚など、家庭内紛争、家庭崩壊がかなりの件数あることも闘病記には記されている。「患者と共に病気と闘う家族」という美しいモデルは、すでに必ずしも一般的ではなくなりつつある。だが一方では、病気をめぐる「美談」や「感動」がテレビドラマや特番で押し売りされている。この落差を、いったいどのように理解すればよいのだろうか。 続きを読む

「未来の別の顔」:個人医療情報をめぐる近未来シナリオ

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一昨日のエントリ「量から質へ」で述べたように、闘病サイトの可視化がある程度量的に達成された後、次にTOBYOは提供するサービスの質的充実を図っていく必要があると考えている。それはおそらく「闘病体験情報の構造化」を進める方向で充実をしていくような、そんなイメージを今の時点では持っている。要するに、闘病者が知りたい情報をより適切に、そして一層簡単に利用できるようにするわけだが、まだ具体的な方法を提示する段階には至っていない。

われわれは、TOBYOを開発するためのビジョン策定をこのブログでさまざまな方向から試行してきたのだが、ようやく「闘病ネットワーク圏」という考え方にたどり着いたのである。この「闘病ネットワーク圏」に対し「いかなる役割を果たすべきか」というふうに問題を提起すると、TOBYOの立ち位置を非常に明確に理解することができたのである。すなわち、「闘病ネットワーク圏」という形で分散展開され膨張してきた闘病体験のゆるいネットワークを、ことごとく可視化することがTOBYOの果たすべき役割となった。 続きを読む