新医療情報サービス構築へ向けたメモランダム

まず新しい医療情報サービスは、医療を提供する側からではなく、医療の受け手側から発想し起動する必要がある。これが第一の大前提である。従来の日本のインターネットを利用した医療情報サービスの企ては、すべてここを間違えていた。次に、医学情報、医療機関情報、治療情報など、医療を取り巻く情報領域において、何をキイにすればユーザーが利用しやすいように情報の構造化が進むかを考えるべきである。つまりユーザーの目から見て、医療に関わるすべての情報領域が晴れ渡り隅々まで可視化されるために、何を中心に情報の構造化を進めるべきかについてのビジョンを作り上げなければならない。これが第二の前提となる。この点においても、従来のウェブ医療情報サービスは、いかなるビジョンも作ることはできなかった。

他にもあるだろうが、少なくとも以上の二つの前提を抜きに、新しい医療情報サービスを起動することはできないとわれわれは考えてきた。TOBYOが、闘病者が自発的に制作するウェブ闘病記に着目し、ネット上に生成されてきた闘病ネットワーク圏のツールであることを目指して来たのは、まず最初の「受け手側から発想し起動する」という前提に立ってのことであった。では二番目の前提についてはどうだろうか。TOBYOはどのような「ビジョン」を持っているのか。

春先から闘病サイトデータの収集を続けてきて、ようやく当初の目標1万件が徐々に目前に迫って来ている。これは闘病ネットワーク圏を可視化するための第一ステップである。まず、「どこに、どんな闘病サイトがあるか」について基本的な情報を集める必要があった。そして多数のサイトデータを集めることができたのだが、ここで立ち止まってしまっては、巨大な闘病サイトリンク集を単に作ることで終わってしまうことになる。

本来、これらの闘病サイトデータはリンク機能以上の価値を持っている。そのデータ価値を正当に評価する視点があれば、これらの闘病サイトデータは次の段階でさらに大きな価値を生み出すことができる。われわれが「次の段階」として考えたのは、バーティカル検索機能である。バーティカル検索機能は、闘病サイトデータという極めて単純でありふれたデータの一定の集積があって、初めて実現が可能となったのである。闘病サイトリンク集を作るためにではなく、今までにないバーティカル検索機能を実現させるために、少なくとも1万件の闘病サイトデータが実は必要だったのだ。

バーティカル検索機能が実現されたら、次に、この検索機能によって新たに「検索結果」という新しいデータが生み出される。これは多数の闘病記からなる闘病体験集合を、固有名詞(病名、病院名、薬品名、治療名など)をキイとして縦横に再編し切り出すことに等しい。この新しく生み出されたデータはまず「検索結果」として提示されるのだが、それだけではなく、たとえば「病院名」を軸に体験データをリスティング提示するなど、「闘病記」というパッケージの頸木からデータを解放し、全く新しい利便性をユーザーに提供することが可能となる。つまりこの新しく生み出された「検索結果」データは、さらに次の段階において、さらなる価値を生み出すことになるのだ。

たとえば「医療情報空間」というものを想定して、じっと観察してみると、そこでは病名、医療機関名、薬品名、治療名などいくつか少数の固有名詞グループが軸となり、その周辺にさまざまなデータが無作為にジョイントされている姿が見えてくる。つまり「固有名詞を軸とするデータ間のネットワーク」という医療情報空間の成り立ちが見えてくる。冒頭述べた第二の前提「情報構造化のビジョン」は、このようなモデルから構想されていくはずだとわれわれは考えている。

  1. 闘病サイトデータ
  2. バーティカル検索(固有名詞によるデータ再編)
  3. 新サービスX

まだ具体的な説明はできないが、TOBYOは以上のような道筋で進化していくだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>