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TOBYOがんチャート TOP3

いつの間にか酷暑も去り、早いもので9月。朝晩、過ごしやすくなったのはよいが、夏の疲れがそろそろ出てきている気配。

TOBYOプロジェクトの新規コンテンツ「TOBYOがんチャート」

TOBYOプロジェクトはこの夏、久しぶりの新規コンテンツ「TOBYOがんチャート」α版公開作業、そしてプロ向けシステムdimensionsの新規コンテンツ「Analysis」へ向けた患者医療用語整理作業に没頭していた。

「久しぶりの」とは書いたが、考えてみると「TOBYOがんチャート」はTOBYOローンチ以来初の新規コンテンツとなる。TOBYOプロジェクトはこれまで「ネット上の患者体験の可視化と共有」を目指して、もっぱら闘病ドキュメントの収集につとめてきたのだが、収録闘病ドキュメント数も5万件近くになってきて、そろそろ蓄積した大量のデータを、さまざまな形式で集計出力してみようかと考え、まず今回の「チャート」公開となった。

もともと「チャート」の原アイデアは3年前の2011年夏に思いついたもので、その後しばらくして、おおよそのアウトラインを固めたのだが、そのまま放置してしまった。
ちょうど一年前、オフィスを新宿から石神井公園へ移したとき、奥山と今後の活動を話し合い、最初に取り組もうと考えたのが「チャート」だったが、他案件もあり、優先順位を下げざるをえなかった。

「患者のクチコミ」をめぐる現状

だが、一方では「チャートはなんとしても公開したい」との思いも募っていた。それはなぜかというと、世の中「クチコミ」ばやりで、「病院のクチコミ検索」を標榜するサービスもいくつかあるのだが、どうもそれらはネット上の患者の声を集約しているものとは言いがたいと思えたからだ。ある「病院のクチコミ検索」サイトでは「ネガティブな意見は削除する」と公言しており、実際の患者の声をそのまま届けるという仕事を放棄し、自分たちの意に沿う「クチコミ」だけを抜き出している。これでは「クチコミ」看板に偽りありではないか。

この件については、一年前にブログで取り上げ、医療領域の宿痾ともいうべきパターナリズム(家父長主義)の一形態であると批判した。だがこれのみならず、その後、病院の患者満足度調査の自由回答を「クチコミ」と称して、広告へ「再利用」する「クチコミのリサイクル商売」が出てきていることに気づいた。本来の調査目的を逸脱してデータを他の目的に流用するなど、社会調査で絶対にやってはいけないことであり、これは調査に携わる者の常識だ。もちろんここでも、ネガティブな患者の意見はもみ消されているようだ。 続きを読む

ブログ統計:TOBYOがんチャート、Analysis

TOBYOがんチャート

今年もまた炎暑の夏が来た。石神井公園では例年に比べ、蝉の数が少ないような気もする。今月はTOBYOの新規コンテツ「TOBYOがんチャート」開発に取り組んでいた。また、9月からリリースするプロフェッショナル向け闘病ブログ統計「Analysis」の準備も進めている。この二つを開発する上で、闘病ブログのスキャン技術の精緻化が必要となったが、これは時間をかけ経験を蓄積し、今後も改善を積み上げていくほかない。

「TOBYOがんチャート」は7月の早い時期に公開すべく開発を進めてきたが、予想以上に様々な問題が出てきて、計画は大巾に遅れてしまった。それでもここ2~3日中には公開できそうだ。まだアルファ版であり、今後、少しづつ改良を加えていく。また、「患者が話題にしていることTOP20」ランキングを医療機関、薬剤。検査・治療の3ジャンルで公開するが、どうも「TOP20」では食い足りない気もする。今後、TOP30とかTOP50へと拡大することも検討したい。

さて、このようなクチコミ・ランキングを提供するのは、これまで患者の声を定量的に可視化する試みが少なすぎたと思えたからである。患者がネットで公開する闘病ブログなどドキュメントは、これまで「闘病記のネット版」とみなされてきた。だから、どうしてもそれらの一本一本をストーリーとして順次的に読むという接触態度が一般的であり、公開された膨大な患者体験の集積を数量化し、その全体を統計的に解析するという方法が開発されてこなかった。

つまり、闘病体験のそれぞれを「物語」として分離固定化し、それら集積が全体として何を言わんとしているかに関心を払ってこなかった。 もちろん、そもそも闘病ブログというものが非構造的で不揃いな質的データであるという事情もそこにはあった。

私達も「非構造化データにある程度秩序を与える」ぐらいのことは当初から考えていたのであるが、全面的に質的データを統計的に扱うことには躊躇があったことも否定出来ない。 しかし、昨年春頃には「質問票のないアンケート調査結果」として闘病ブログをとらえ、ブログ記述から逆に「質問」を再現するような方法で、数量的にデータを捉えようというアイデアが生まれた。ここから試行錯誤を繰り返し、紆余曲折を経て、結局、「ブログ統計」というシンプルな落とし所へと、私達の問題意識は収斂してきたわけである。

そして、9月リリース予定の「Analysis」にはシンプルに「ブログ統計」というフレーズを付すことになった。私達が現在めざすところは、患者ブログ全体を数量的に解析した結果を社会へ配信することである。このことによって、個々のストーリーではなく、全体として患者ブログがどんなことを主張しているかを統計的に可視化したい。

まずは「ランキング」というプリミティブな形式で、「患者が話題にしているコト」をわかりやすく提供したい。「TOBYOがんチャート」と「Analysis」は、当初、まったく別のプロジェクトとして想定されていたのだが、結局、「ブログ統計」というコンセプトの二つの表現形態であり、根っこで通底していることが徐々に明らかになってきた。

というわけで「TOBYOがんチャート」。最初はアルファ版から出発するが、徐々に完成度を上げ充実させていきたい。乞うご期待。

三宅 啓  INITIATIVE INC

「TOBYOがんチャート」で患者クチコミを可視化。来月(7月)公開!

病院、薬、検査・治療についての患者クチコミを可視化する「TOBYOがんチャート」。来月(7月)公開。

ネット上には、毎日、ブログや個人サイトで膨大な量の闘病ドキュメントが続々と公開されています。TOBYOは2008年から、それら闘病ドキュメントを病名ごとに分類し、性、年齢、地域などメタデータを付して収集・蓄積してきました。ネット上の闘病情報すべてをインデックス化し、誰もが簡単に、ほしい闘病体験にアクセスできることを実現しようと、少しづつデータを積み上げ、現在、その規模は1273疾患、4万5800サイト、およそ800万ページとなっています。(2014年6月27日)

多様な個人の闘病記録を参照できるので、一般的にデータは多ければ多いほどよいといえるでしょう。それでも、たとえば「乳がん」を例に取ると、すでに収録サイト4千件、60万ページを越えており、すべてに目を通すことが不可能なほどの情報量に達しています。もちろん検索エンジン「TOBYO事典」を使えば、膨大な収録情報の隅々まで全文検索できるわけですが、「どんなキイワードで検索すべきか」で悩むユーザーも多いようです。

特に診断で病名がついたばかりの患者は、その病気についての知識がほとんどない状態ですから、難解で複雑な医療用語に戸惑い、検索エンジンで何を検索したら良いかがまずわからない、というケースが多いようです。

そこで、闘病ドキュメントに出現する言葉を疾患ごとに集計し、「病院、薬、検査・治療」の3つのジャンルで、出現件数の多い順に、つまり患者が言及することの多い順にTOP20チャート形式で見てもらおうと、このたび「TOBYOがんチャート」を公開する運びとなりました。その病気の患者が多く使う言葉は、その病気を理解するための基礎となるボキャブラリーであり、それら頻出語の傾向を学習するためのツールとしてご利用いただければ幸いです。

別の観点から見れば、この「TOBYOがんチャート」は「病院、薬、検査・治療」に関する患者のクチコミを可視化するツールであるともいえるでしょう。

「乳がん患者が話題にしている病院は?」
「肺がん患者が話題にしている薬は?」
「胃がん患者の話題が多い治療法は?」etc…

このように、がん患者がネット上で話題にしているクチコミ情報を、疾患別にTOP20チャートで一覧することができます。

「TOBYOがんチャート」は、当面、TOBYO収録の「全がん、乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん」の疾患カテゴリーごとに、TOP20を「病院、薬、検査・治療」ジャンルで表示します。TOP20チャートにある言葉は、検索エンジンで本文を確認することもでき、また検索結果を発病年時や様々な項目でフィルタリングして絞り込むことも可能です。

「TOBYOがんチャート」は来月(7月)に公開予定。ぜひ、みなさんの闘病生活に活用してください。

闘病ポータルから闘病コーパスへ

石神井公園の森のオフィス。

石神井公園の新緑が、日に日に鮮やかさを増している。池面に映る緑陰は色を深め、その上を身軽にトンボがホバリングしている。それを狙って、上空から急速滑空してくるのは燕。初夏の風景はまぶしすぎる。

天気の良い日には、よく外へ出て、石神井公園の緑陰のテーブルで仕事をする。これを「森のオフィス」と呼んでいる。風に鳴る葉音や、小鳥のさえずりを聞きながら仕事に没頭し、時を過ごすのがなにより気に入っている。都心からサバーバンへ来てみると、やっとここに、自分のワークスタイルを見つけたような気がする。

さて、年初から開発を進めてきたdimensionsの新サービス「Analysis」が、ようやく今月完成した。これまでdimensionsはプロフェッショナル向け患者リスニング・サービスとして、拡張検索エンジン「X-Search」、トラッキング・ツール「Distiller」の二つで構成されていた。今回、これに新たに「Analysis」が加わることになるが、これによってdimensionsは、かなり大きくその性格を変えることになるだろう。 続きを読む

「生、病、死」の考察

キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」

先週孫が生まれた。出産予定日は知らされていたものの、いざ出生の事実に面と向かってみると、そこにはある種「予想外の幸運に出くわした」みたいな感じがあった。無論、「歳を食ったなぁ」という感懐もある。そして、昨年末の母の死と合わせて考えると、この短期間に近しい人間の生と死の両端を体験することになったわけだ。

「人間の生と死」と言ったが、今ひとつのファクターとして「病」があるだろう。私達がTOBYOプロジェクトで採集している闘病ドキュメントとは、この「生、病、死」の記録に他ならない。その中でもプロジェクトでは「病」に焦点をあて、数百万ページのドキュメントから「病」に関する記述を抽出・集計・分析することを目指してきた。だが本来、「病」とは「生、死」との三点セットの相互関連として論じられるべきであり、それだけを単独であつかうことは不自然であるかもしれない。

また、この三点セットは往々にして「生、病」が前面に出され、「死」は後方へ退けられる傾向がある。特に「闘病」という言葉を使った場合、そこから強く喚起されるのは「生と病」である。「闘病」という言葉が、多分に積極的な行為を表すからだろう。対して「死」が積極的に焦点化されることはない。どうやら私達に共有された無意識には、「生、病」をポジティブに捉えたいという一種の強迫観念があり、逆に「死」を議論の余地のないネガティブ・ファクターとして無視したいという暗黙裡の合意があるような気がする。 続きを読む