闘病体験を「物語性」の封印から解放せよ

昨日エントリで、闘病ドキュメントに対する当方の見方の変化について書いたわけだが、結局のところ闘病ドキュメント自体に関与していかなければ、TOBYOが「体験事実とデータ価値」に向けてその利用方法を進化させていくことはないと思う。現在の闘病ドキュメントはネット上に分散して存在している。当然、分散した情報を分散したまま利用するのがネット的なありかたなのだが、そうはいっても検査データの記録方法などは統一しておかないと、多くの闘病者の体験事例を数値データで集約し統計分析することはできない。つまり本当の意味での「データベース」としての使い方ができないわけだ。

現状は、たくさんの闘病者がネットで情報を公開していながら、それらサイトに蓄積されたデータを集計したり相互比較したりすることもできない。せっかく有用なデータがあるのに、それらを効率的に利用する方法が開発されていないのである。物理学者の戸塚洋二さんなども、実はその点を指摘していたわけだが、これを解決するためにはPHRと合体したような闘病サイトサービスを開発し、そこでデータを記録しながら闘病ドキュメントを書いてもらうしかないと思う。このような闘病サイトサービスにはさまざまなアプローチ方法があるだろうが、PatientsLikeMeなどはSNSというアプローチを選択しているわけである。 続きを読む

闘病記とPHR

あるテーマで週末から企画書を書いていた。その中で触発される形で、これまで考えてきたことを改めて点検したり、今後の方向性を想定してみたりしていたが、闘病記あるいは闘病ドキュメントについていくつかのポイントを確認できたように思う。

当初このブログは、闘病記とその価値をさまざまな観点から考察していたのだが、徐々にその中身は変わってきたと思う。特にストーリーや物語性という点で闘病ドキュメントを見ることから段々と離れて行き、「体験事実とデータ価値」という側面を重要視するようになってきた。人が「闘病記」に求めるものはさまざまである。だが、米国のPatientsLikeMeなどの影響もあるだろうが、「病気を治すデータ」という見方へと当方の闘病ドキュメント観は変わってきている。人は闘病記を書くために生まれてきたのではない。できれば闘病記を書かずに人生を送った方が幸せだろう。 続きを読む

EHR2.0とは何か

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春先からClinical Groupwareという言葉をブロゴスフィアで目にするようになった。そして、米国における医療IT関連認証機関であるCCHITの「EHR認証」をめぐる論争が起き、やがてEHR2.0という言葉が語られるようになった。

従来のEHRが「クライアント&サーバ」システムでプロプライエタリなビジネスモデルであるのに対し、EHR2.0はクラウド・コンピューティングを活用したウェブベースでオープン&相互運用可能なものと想定されている。

これらEHR2.0議論を、総括的に要領よくまとめたプレゼンテーションファイルが公開されたのでご紹介しておきたい。表題にある「HITECH Act」とは「Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act」で、オバマ政権が打ち出した医療関連景気浮揚法案。このプレゼンテーションファイルを作成したのはVince Kuraitis氏だが、氏はかつてGoogle Healthの概要を公開に先立って予測し話題になった。ダウンロードは下記「EHR20」から。

EHR20 (PDF)

“EHR 2.0: HITECH Act Stimulus Funds Create Care Collaboration Opportunities In A Networked Health System  “

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Health2.0企業の針路

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昨日エントリで取り上げたが、同じ目標を持ち活動していた仲間が減るのはやはり寂しい。だが、それでもとにかく前進しなければならないのだ。闘病者の自発的活動によって形成された闘病ユニバースに基づいて、新しい医療サービスを生み出し持続させるために、さまざまなプレイヤーが参画できるようなビジネススキームを創り出していかなければならない。

TOBYO自体もこれら多様なプレイヤーの活動プラットフォームとして機能すべく、柔軟に対応できなければならない。TOBYOは、まず闘病ユニバースの情報共有インフラであることを目指しているが、そのことにとどまらず、さらに広く社会的な闘病体験共有インフラとしても機能することを目指していきたい。闘病ユニバースで生成された闘病体験情報は、闘病者同士で活用されるだけでなく、医療界、産業界、医療行政などにおいても価値を持つ情報である。つまり闘病体験情報を闘病ユニバース内部だけではなく、社会的に還流させることによって、闘病者が体験した具体事実が、製品開発、サービス開発、医療業務改善、医療教育、研究などに活かされる道をつくるのだ。このような闘病体験の「情報流」を創り出すことが、Health2.0企業にとってのマネタイズの前提である。 続きを読む

オンライフのサービス終了を惜しむ

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7月24日をもってオンライフがサービスを終了するとのことである。突然の発表に驚いている。先月の当ブログのエントリ「日本のHealth2.0経済圏の創造へ向けて」に「エスタブリッシュメント側からも資金、人、知恵、情報が集まるような仕組みを作らなければならない」などと書いたが、当方はまさにちょうどそのスキームを作るべく動き出したところであり、当然、オンライフの皆さんにもご協力をお願いしようと考えていた。

サービス終了に至る経緯は「ヨセミテblog」に詳しく記されている。スタートアップ企業が直面する問題とその総括が率直に公開されているが、貴重な事業経験として、今後、ベンチャー企業コミュニティ全体に共有されるだろう。ここまで真摯に書かれた総括書に対し、あれこれ論評する必要はないと思った。四人の皆さんの決断を、素直に、そのまま、丸ごと受け止めたい。 続きを読む