mHealthの台頭


最近、海外の医療ブログを読んでいると、しばしば「mHealth」という言葉に出くわす機会が多い。この「m」とは「モバイル」のことで、携帯を活用した医療システムのことを「mHealth」と呼んでいるわけだ。今月、シカゴで開催された医療IT界最大のイベント「HIMSS09」でも、この「mHealth」関連の話題は多く、新商品も多数紹介されていたようだ。

その中でもEHRベンダとして知られるAllscriptsは、同社のEHRをiPhoneでリモートコントロールするソフトを発表し注目されている。ビデオを見ると、ノートPCなどよりもiPhoneの方が圧倒的に操作性は良さそうである。PHRでもこのようなモバイル利用ができれば、消費者の利便性は飛躍的に高まると思える。だが、それではPHRとEHRの棲み分けはどうなるのだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

問題解決型コミュニティへと進化する患者SNS

23andMe

先週、PatientsLikeMeのALS患者コミュニティ向け「遺伝子検索エンジン」とALS克服プロジェクトについて紹介したが、今度はGoogle系列の遺伝子解析サービス会社23andMeが、パーキンソン病の患者コミュニティを軸とする大規模プロジェクトを発表した。

23andMeは、パーキンソン病の代表的研究機関「The Parkinson’s Institute and Clinical Center」および俳優マイケル・J・フォックスが主催する財団法人「The Michael J. Fox Foundation」の協力を得て、全世界から1万人規模のパーキンソン患者コミュニティを立ちあげる予定。すでに2000人のパーキンソン病患者の参加が決定しているそうだが、患者コミュニティと遺伝子解析技術をベースとする難病克服プロジェクトという点で、先のPatientsLikeMeのALSプロジェクトと同様の発想に基づくと言えるだろう。 続きを読む

闘病ユニバースとレガシー医療界

Enlightenment

かつてインターネットが登場したとき、その医療への活用がさまざまに論じられたのだが、その中からまず「啓蒙型医療情報サービス」というものが登場した。これは医療情報あるいは医学情報の専門性を過度に強調し、消費者をはじめ社会に「エビデンスに基づく正しい情報」を啓蒙するという基本発想に基づくものであった。同時に「正しさ」を証明するための「サイト認証」なども登場している。また、当時さんざん用いられた言葉に「情報の非対称性」という決まり文句もあった。これらは結局、医療情報についての専門家たる医療者だけを唯一絶対の「正しい情報源」とみなし、その他すべてを「疑わしいもの、いかがわしいもの」と排除するような硬直した情報観であった。かつて米国医師会(AMA)は患者に対し「インターネットの医療情報を見ないように」との声明を発したことがあったが、これも以上のような発想を根底に持つものである。そしてこのような医療情報観に立つ限り、医療者と消費者の関係は、極論すれば一方的な「命令-服従」関係にならざるをえない。情報の配信・受容という一連の関係が、リアルの諸関係を規定するからだ。「医師-患者」関係も例外ではない。

だが、レガシー医療界の目からすれば「疑わしさ、いかがわしさ」と見えるものが、実は硬直した「正しさ」を乗り越え、人々に自由な参加を促し、新しい知識や社会的価値を生み出す源泉なのである。つまり、AMAの発言にも明らかなように、もともとインターネットとレガシー医療界とは根本的に相容れないものだったのかもしれない。一方、闘病者たちは自発的にインターネットで自分の体験を語り始め、闘病の知識や情報をさまざまな形で共有し、集合知を分厚く蓄積し始め、闘病ユニバースが誕生する。 続きを読む

闘病ユニバースの現状と将来

TOBYO収録の闘病サイトは今月中に1万5千サイトに達する。ウェブ上の闘病ユニバースに存在する闘病サイトの数をおよそ3万程度ではないかと推測してきたが、これでそのほぼ半分近くまで可視化することができたわけである。だが、この「3万」という数はあくまでも推測値であり、可視化作業を続けている当方の感触から言えば、もう少し小さいかもしれない。

では年間にどのくらいの闘病サイトが誕生してきているのだろうか。TOBYO収録の闘病サイトを設立年ごとに見ると、2000年以降では次のような状況になっている。(09年4月13日現在)

  • 2008       (3,218)
  • 2007       (3,125)
  • 2006       (2,844)
  • 2005       (2,363)
  • 2004         ( 750)
  • 2003         ( 365)
  • 2002         ( 275)
  • 2001         ( 229)
  • 2000         ( 216)

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PatientsLikeMeがALS患者の「遺伝子検索エンジン」をリリース

PatientsLikeMe_090409

米国で、最もユニークで、最も成功している患者SNSと言われるPatientsLikeMeだが、今月、そのフラッグシップコミュニティである難病ALS(筋萎縮側索硬化症)コミュニティの設立三周年を記念し、新たに「遺伝子検索エンジン」サービスの開始が発表された。これはALS患者が、遺伝子レベルで「自分と似た患者」を探すことができるようなサービスであるとのこと。また、同コミュニティ患者の遺伝子情報を共有することにより、ALSの原因と結果の解明をはじめ、新しいALS治療法の開発などに活かすことができるとしている。

Google資本の23andMeをはじめ、一昨年あたりから消費者向け遺伝子解析サービスが多数立ち上がってきたが、いよいよこの流れが患者SNSと合流し始めたわけだ。23andMeもコミュニティを形成しようとしているのだが、PatientsLikeMeの場合、データ共有の目的が、たとえば「ALSの新治療法開発」などと非常に明確になっているだけに、説得力あるユーザーメリットを打ち出せるのではないか。このあたり、PatientsLikeMeの巧みなターゲット戦略には学ぶべきものが多い。 続きを読む