ウェブと医師は競合するのか?

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かつて2001年に、AMA(米国医師会)は「オンライン医療情報は、決して医師が積んできた経験やトレーニングに取って代わるものではない」と述べ、ウェブ上の医療情報に基づく自己診断や自己治療の危険性を強く社会に警告したことがあった。このAMAメッセージは「チャットルームよりも医師を信頼せよ」などのわかりやすいフレーズに翻案され、米国社会に広く知られるところとなった。

だが当然、これに対する反発もわきおこった。たとえばそれは「AMAはRIAAと同じく、前時代の遺物だ」などの言説であり、当時、世界的な拡大の途上にあったインターネットに対応できない、「レガシー業界」として医療界を批判するものであった。ちなみにRIAAとは米国レコード協会の略である。 続きを読む

患者視点調査への挑戦と挫折

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一昨日のエントリで、以前われわれはピッカー研究所の理論を応用した医療評価システムを構想していたが、結局それを断念した経緯を簡単に記した。その後、われわれの他にも患者調査、特に「患者満足度調査」への取り組みは続いている。そこで、もう少しこのあたりの問題を考えておきたい。

ピッカー研究所が提起した新たな患者視点調査は、「患者経験調査」と呼ばれている。つまり従来の「患者満足度」を計測する調査ではない。ピッカーは「満足とは主観的態度であり、常に文化的、世代的などのゆらぎを伴う不確かな指標である」とし、これに対して「患者が医療現場で実際に経験した事実を測定しなければならない」と主張したのである。 続きを読む

患者体験を集める。米国ユタ州の”Health Story Bank”。

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米国ユタ州保健局が、州住民から患者体験情報を集める「ユタ・ヘルス・ストーリー・バンク・プロジェクト」を開始。”Share Your Stories with Us”をスローガンにウェブサイトを立ち上げた。

「ユタ・ヘルス・ストーリー・バンクは、他の人と自分の体験を共有したいと考えているユタ州民から、健康関連ストーリーを集めたコレクションである。われわれはこれらのストーリーを、今日の健康問題の明確化に役立てたいと望んでいる。あなたのストーリーを共有することによって、あなたはこれら問題の社会的認識を高め、他の人がより健康になるように働きかけることができる」。 続きを読む

Health2.0、次回コンファレンス決定

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今月3日、4日、サンディエゴで開催されたHealth2.0春季コンファレンスだが、早くも次の秋季コンファレンス開催が発表された。次回は10月21日から23日までの三日間、サンフランシスコで開催される。昨年の初回コンファレンスよりも規模はかなりスケールアップされるようだ。

テーマはまだはっきりしないが、次回は春のような絞り込みはせずに、「Web2.0テクノロジーと医療」というような一般的なものになるらしい。ムーブメントとしてのHealth2.0は、いまだ初期段階にあるとの認識が一般的だが、そろそろシンボル的な成功事例が出てきてほしいものである。たしかにSermoなどの成功事例は出てきてはいるのだが、どちらかと言えば小粒感は否めない。ただ、PHRではGoogle Health、Health Vault、DOSSIAと大物が出そろったので、これらに連動するようなサービスが登場すればおもしろい。 続きを読む

患者の集合体験を数値化するSNS

PatientLikeMe

二日前の日曜日(3月23日)、”New York Times Magazine”に掲載された”Practicing Patients“という記事が話題になっている。この記事で取り上げられているのは、ユニークな患者SNSとしてHealth2.0界でも異彩を放つ”PatientsLikeMe“である。このSNSが他の患者SNSと大きく異なっているのは、「データ指向のSNS」であるという点だ。普通の患者SNSはコミュニケーション機能を中心に、患者間の交流の場や精神的支援のようなサービスを用意しているのだが、実はこれに飽き足りないユーザーは多い。特に難病の患者の場合、治療や症状改善のための具体的な情報を探しており、単なる「交流」では満足できないケースがある。

“New York Times Magazine”誌の記事では、多発性硬化症の患者の例が紹介されているが、この患者も、これまで体験交流型の患者SNSにいくつか加入したものの継続できず、結局、具体的な患者体験データ共有をめざすPatientLikeMeに落ち着いたという。 続きを読む