患者の集合体験を数値化するSNS

PatientLikeMe

二日前の日曜日(3月23日)、”New York Times Magazine”に掲載された”Practicing Patients“という記事が話題になっている。この記事で取り上げられているのは、ユニークな患者SNSとしてHealth2.0界でも異彩を放つ”PatientsLikeMe“である。このSNSが他の患者SNSと大きく異なっているのは、「データ指向のSNS」であるという点だ。普通の患者SNSはコミュニケーション機能を中心に、患者間の交流の場や精神的支援のようなサービスを用意しているのだが、実はこれに飽き足りないユーザーは多い。特に難病の患者の場合、治療や症状改善のための具体的な情報を探しており、単なる「交流」では満足できないケースがある。

“New York Times Magazine”誌の記事では、多発性硬化症の患者の例が紹介されているが、この患者も、これまで体験交流型の患者SNSにいくつか加入したものの継続できず、結局、具体的な患者体験データ共有をめざすPatientLikeMeに落ち着いたという。

PatientLikeMeは、まず対象疾患をALS(筋委縮性側索硬化症)だけに絞ってローンチされた。その後、パーキンソン病、多発性硬化症、AIDSなどへと対象疾患を増やしてきているのだが、いずれも今後決定的な新薬や治療方法が待たれる難病である。PatientsLikeMeは、これら難病患者の集合体験(Collective Experience)を数値データ化し、メンバー全員で共有するというサービスを提供している。たとえば、薬剤の種類と服薬量そしてその副作用を数値データ化し、グラフでその傾向を見せるなど、患者が実際に体験した事実を元に、具体的な症状改善のヒントを患者が共有できるようになっている。あるいは痛みなどの症状についてその場所や継続時間をデータ化し、疾患の具体的な症状データベースともいうべきデータ共有も行っている。

さらに、これらの患者データがすべてオープンにされているところも、PatientsLikeMeが他の患者SNSと大きく違う点であろう。たいていの患者SNSでは「プライバシー」を重視しているから、普通、患者の症状データなどを公開することはない。これについては、このSNSの独自の哲学とも言うべき”Openness Philosophy”に基づいて実施されている。

開放性はより良いアウトカムをもたらし、これまでにない研究成果の加速を可能にする。

今日、たいていの医療データはプライバシー規制や(企業の)プロプライエタリ戦術によってアクセス不能だ。この結果として、研究は遅滞し、治療方法のブレークスルーの開発は何十年も要している。患者もまた、重要な治療決定に必要な情報を得ることはできないでいる。しかし、もうそんな状態に甘んじることはない。あなたと、何千人ものあなたに似た人々があなたのデータを共有したとき、あなたは新たな医療システムを切り開くのだ。あなたは、何が他の人々に効いているかを学ぶ。あなたは医師との対話を改善する。そしてなによりも、あなたは記録的な速さで、より良い治療を市場に出すことを助けるのだ。(Our Philosophy.Openness is a good thing.)

このようにPatientsLikeMeは、一種の治験コミュニティのような患者体験データの共有の場である。少しでも早く難病の新しい治療方法や薬剤を開発するために、PatientsLikeMeは患者が積極的に個人データを提供することを求めている。当然、従来のプライバシー観とは抵触するだろう。だが難病に苦しむ患者にとっては、プライバシーよりももっと重要なことがあるとPatientsLikeMeは主張している。ここでもまた、従来の硬直したプライバシー論の変更が求められているのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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