肺リンパ脈管筋腫症(LAM)克服に挑むオープンソース方式の医学研究開発:LAMsight

LAMsight

またまた「革命」の話で申し訳ないが、春先からGoogleグループの遺伝子解析サービス「23andME」などを中心として、”Research Revolution”というフレーズが語られはじめた。これは難病の新薬や新治療法の研究開発に、クラウドソーシングやオープンソースなどマスコラボレーションの手法を活用し、患者コミュニティのパワーを使って、安く早く疾患を克服することをめざすムーブメントである。すでに23andMeでは「全世界一万人のパーキンソン病患者コミュニティ」設立に着手し、従来の研究開発手法では実現できなかった実験規模、低コスト、そしてスピードでパーキンソン病克服プロジェクトを起動させている。このプロジェクトには難病患者コミュニティPatientsLikeMeも参加しており、大量の遺伝子データ、薬剤服用データ、副作用データなどを活用して、今までにない世界的規模でのパーキンソン病克服への挑戦が始まっている。

8月24日付のNew York Times紙は、これら”Research Revolution”の現況について詳しく報じているが(“Research Trove: Patients’ Online Data”)、その冒頭に肺リンパ脈管筋腫症(LAM)克服をめざすLAMsight が紹介されている。

LAMsightは、肺リンパ脈管筋腫症の患者であるAmy Farber氏によって創立された患者と研究者の国際情報共有プラットフォームであり、ハーバード・メディカルスクール、MITなどの研究者が参加している。Amy Farber氏によれば、当初は従来の研究開発方式を採用していたが、コラボレーション障害など厄介な問題に直面したため、インターネットベースのオープンソース方式に転換したとのことである。詳しくは記事をお読みいただきたい。

これら”Research Revolution”と称されるオープンソース方式の医学研究開発の台頭を見ていると、特に患者コミュニティの位置づけと役割が大幅に変わりつつあることがわかる。従来の患者コミュニティは、主として同病者の人的交流機能を果たしていたわけで、これはどちらかと言うと内部志向の強い「身内」的なコミュニティであった。それに対し、「疾患の克服」という明確な目的を最初に打ち出したのはPatientsLikeMeだったが、考えてみれば闘病者の究極的なニーズは「病気を治したい」の一点につきるのであり、人的交流などはあくまでも二義的なサービスにすぎなかったのだ。

NYT記事の中にも「患者を科学者に変える」という象徴的なフレーズが出てくるが、「コミュニティの人的交流をまったり楽しむ」よりは、これら新しい患者コミュニティにおいては、患者が積極的に研究開発主体として参加することも求められる。それは「患者」とか「被験者」という受動的な観察対象としてだけでなく、科学者のような冷徹な観察主体であることさえ求められるということだ。また、従来の患者同士の内部完結的なコミュニティは、研究者や医療者などとのオープンなコラボレーションをおこなうプラットフォームへと進化し始めたのだ。

日本では、まだこのような「疾患克服」をめざすコラボレーション・プラットフォームは出現していない。だが、患者だけで内部へ向けて閉ざすようなコミュニティの限界はすでにはっきりしている。これからは患者のみならず、研究者、医療者など関係者が参加できる場が構想されるべきだろう。Health2.0ムーブメントは、闘病者の「病気を治したい」、「難病を克服したい」という普遍的ニーズに真っ向から向き合う段階に来ていると思う。

<参考>

“Research Revolution”
By SARAH ARNQUIST, The New York Times, August 24, 2009

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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