GoogleHealth 対 Microsoft X

gh4_s

今年に入って、米国のWeb医療情報サービス市場は活況を呈している。5億ドルの投資総額が話題になったRevolutionHealthのこの春ローンチをはじめ、老舗のWebMDなどは今年になって大きく集客実績を伸ばしており、他の新興プレイヤーも大きな資金調達を獲得したりと、米国Web医療情報サービス市場は、90年代末のドットコム・バブル期以来のともいわれる空前の好況なのである。

他の分野と比べると医療分野は、やはりWebでも取り組みが大きく遅れていたのだが、ようやくここに来て市場は盛り上がりを見せ始めた。その中でも特に注目されているのが、
GoogleとMicrosoftの「二強」の動向である。今日(8月14日)付けニューヨークタイムズは”Dr.Google and Dr.Microsoft”と題し、この二強の動向を中心にWeb医療情報サービス市場をレビューしている。

GoogleとMicrosoftは、医療改革に時間がかかることをしぶしぶ認めている。だが、両社は、医療関連の広告とサービスに、多数の消費者を集めることができる可能性を見ているのだ。

今日、全国患者人口の約20%が紙ではなくデジタル化された医療記録を持っており、ブッシュ政権はデータ電子化への切り替えをスピードアップするよう、医療業界に強く要求している。だが、これらのデータは依然として医師、病院、保険会社のコントロール下にある。たとえば患者は別の州へ転居しても、医療データは普通残ったままである。

GoogleとMicrosoftの新しい企ては、より多くのコントロール権を個人に与えることになろうが、これは医療専門家が不可避と見ているトレンドである。「患者は究極的には、彼ら自身の情報の管財人になるだろう」とハーバードメディカルスクールのJ.D.ハラムカ教授は言う。

既にWebは、人々が医療に対して一層行動的なアプローチをとることを可能にしてきた。ハリス社調査によれば、オンラインで医療情報を探した人の58%が、彼らが見つけた情報を医師と話し合ったと昨年回答している。ハラムカ教授は、患者がWebページのプリントアウトの束を診療室へ持ち込むのは普通になったという。「医師はナレッジ・ナビゲーターになりつつあるのだ」と彼は指摘する。「将来、医療はより一層、患者と医師の共同作業プロセスになっていくだろう」。

このようなWeb医療情報サービスの一般情勢を概観した後、GoogleとMicrosoftの具体的な動きが報告されている。

両社とも彼らの計画のディテールは明かしていない。だが、Microsoftの消費者志向事業は、この秋にアナウンスされるスケジュールが決まっている。一方、Googleはずっと遅れてきた。そして、Googleの計画概要を把握している人たちによれば、たぶん来年まで、事業発表はされないかもしれないとのことだ。

そして、ここからいよいよGoogleHealthの一端が伝えられる。どうやらGoogleは、そのプロトタイプを一部の関係者に公開し意見を求めているようだ。

GoogleHealthのプロトタイプは医療専門家やアドバイザーには見せられているが、明らかに消費者に焦点を絞っている。GoogleHealthプロトタイプのウエルカム・ページには、「消費者が彼ら自身の医療情報を管理すべきであり、そして消費者が、医療提供者、家族、あるいは彼らが選んだ人たちに、情報アクセスを許可することができるようにしなければならない。Googleは、そう考えている。GoogleHealthはこのようなニーズに応えるために開発されたのだ。」と書かれてある。

adam

Google アダム・ボスワース氏

GoogleHealthプロトタイプのプレゼンテーションを見た人によれば、その他、薬物や病状やアレルギーからなる「ヘルスプロファイル」、推奨治療や薬相互作用やダイエットからなるパーソナル「ヘルスガイド」、運動療法、処方箋レフィルや医師訪問などのリマインダー、近隣医師ディレクトリーなどからなる全部で17ページのWebページが用意されているようだ。

Google幹部はプロトタイプにはコメントせず、実験をして人々が求めるものを見ていくつもりだ、と述べるのみであった。「われわれは過ちを犯すかもしれない。そしてこれは大長征になるかもしれない。」と技術担当VPで医療チームリーダーのアダム・ボスワース氏は言う。「われわれがやっていることは高くつくことは事実だが、Googleにとってはそうで(高く)はない」。

Microsoftでも、同じように野心的な長期目標が立てられている。「膨大な量の個人医療情報や医学情報を扱うデータストレージ、ソフトウエア、ネットワークのような問題を解決するには、途方もない計画規模を要することになるだろう。」とMicrosoft医療ソリューショングループのGMであるスティーブ・シハデ氏は言う。「だから、これをできる企業はそんなにたくさん存在しない」。

今年、MicrosoftはMedstory社を買収したが、同社は医療情報に特化したバーティカル検索エンジンを持っている。Microsoftのソフトウエアは既に病院、診療所、検査所、医師オフィスで使われており、特に医師オフィスで使われる最も人気のあるソフトのうち三つは、Microsoftのソフトウエアとプログラミングツールを使って作られていると言う。

Microsoftは製品計画を開示するつもりはない。だが関係者によれば、個人医療情報を探し、検索し、PCや携帯電話や他のデジタルデバイスに保存するようなソフトウエアになるようだ。「われわれは広範な消費者の医療プラットフォームを構築しているのであり、これは単に表面だけを扱うようなPHRよりもはるかに大きな挑戦であるとわれわれは考えている。」。

今回の記事で、話題のGoogleHealthについて、従来よりも少しだけ具体的なイメージが明らかになった。GoogleHealthがPHRであるらしいことは、既にブロゴスフィアでは六月あたりから論じられてきたが、アダム・ボスワース氏をはじめGoogleが相当の苦戦を強いられている事が、今回のこの記事から読み取れる。

医療業界は日本も米国も、さまざまな規制の下に置かれ、既得権益者が存在し、なかなか一挙にブレークスルーを実現することが難しい。それはGoogleやMicrosoftのようなビッグプレイヤーにとっても同様であることが、この記事を読んでわかったような気がした。

だが、時間はかかるだろうが、医療業界においても時代は「個人のエンパワーメント」へとシフトする方向へ流れ始めており、このことはもう誰も止めることはできないのだ。だとすれば闘病者個人を焦点化するような、そんな新しいサービスこそが求められている。2.0の主役は団体や組織ではなく、個人なのだから。

Source:”Dr.Google and Dr.Microsoft” By by Steve Lohr”

The New York Times
August 14, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>