医療情報の流動性

BoozAllenHamilton

昨年末頃から、米国のHealth2.0コミュニティ周辺で「医療情報の流動性」(Health Information Liquidity)という言葉を見かけることがしばしばあった。しかしTOBYOの仕事に没頭していたこともあり、この背景を調べることまで手が回らなかったのだが、なぜか「これは重要な言葉だぞ」という直感があった。

というのは、特に日本で医療情報利用の問題を語るとき、過度に「プライバシー&セキュリティ」というクリシェが持ち出される傾向があり、これに対し少なくない違和感を持っていたからである。むしろ日本では、医療情報のフロー的側面よりも固定的ストックの側面が強調されるあまり、EMRなどクローズドな医療情報システムしか普及しない土壌が出来上がってしまったのではないだろうか。これは「Information wants to be free」というweb2.0以来の新たな情報観に照らしてみて、明らかに逆行する時代遅れのものである。 続きを読む

PHR市場の現状と近未来

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今後のHIT(医療情報技術)の中核的システムは一体何か?。この問に対して少し前なら米国政府のNHIN構想やRHIO、あるいはEMRやEHRを持ち出す人が多かっただろうが、マイクロソフトのHealth VaultやGoogleのGoogle Healthの登場によって、PHRこそがこれからの医療の中心的な情報システムになるとの見方が多くなってきている。またこの背景には、クラウドコンピューティングの台頭という技術トレンドも大きく影響しているだろう。

一昨日、米国ChilmarkResearch社から、PHRの現状と近未来を大胆に予測する素晴らしいプレゼンテーション・スライドが発表されたので早速紹介しておきたい。今後のHITとPHRに関心を持つ人には必見のレポートである。

  1. 今日、PHR市場の現状はどうなっているか
  2. ヘルス・クラウズ(Health Clouds)の登場
  3. 予測

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ウォルマートのリテールクリニック: Walk-In Telemedicine Health Care

昨夏、ウォルマートのリテールクリニック「Walk-In Telemedicine Health Care」がヒューストンでオープンした。先行する他のリテールクリニックと違う点は、医師が待機する拠点センターと診療所をオンラインで結び、消費者にリアルタイム遠隔医療を提供するところ。患者はオンラインで直接医師と会話することができる。

「遠隔医療が新たな展開をみせている。今や、買い物ついでにドクターに診てもらえるようになった」。CNNビデオニュースが伝えている。

以前のエントリでも触れたが、このような消費者ニーズ発想が、日本の医療に最も欠落しているものである。また、いくら消費者志向を強めようとしても、規制やギルドの抵抗などが自由な業態開発を妨げている。

「希望の国のエクソダス」(村上龍)の例のセリフを借りて言えば、次のようになるのか。

この国の医療には何でもある。でも、消費者発想だけがない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とインターネット


いまだ治療方法の確立していない難病は多い。それら難病の患者にとって、インターネットは最も手軽な最新情報ソースとして利用されてきた。昨年11月、英国バーミンガムで開催された第19回ALS/MND国際シンポジウムで、インターネットがALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者や研究者にどのように利用されてきたかを歴史的に概観するプレゼンテーションが患者SNS「PatientsLikeMe」から発表された。

世界各地で1990年代初期のパソコン通信時代から、オンラインでALSの情報交換を行おうとするチャレンジが始められてきたが、インターネットの登場によってその動きは加速され、web1.0、web1.5、web2.0とウェブが進化するのに伴い多彩なサービスが生み出されてきた。短いプレゼンテーションだが、特定の難病をめぐるインターネットの活用方法の進化を、歴史的に概観する貴重な記録となっている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

シジフォスの神話

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今日、米国の医療関連ニュースサイトを見ていたら、ある大学研究者が発表した「がん患者の患者SNS別生存率」調査が報じられていた。これには驚いた。まだ詳しく見ていないのだが非常に興味深い。これからの患者SNSというものは、会員患者の生存率を上げるための努力も必要になるのか。その上、ユーザー満足度など評価データも公開するようになるかもしれない。そうすると、いずれ「患者SNSのレーティング」という新手のサービスも出てきそうだ。 続きを読む