Health2.0のビジネスモデル再考: データとフロー

Kandinsky

昨日は朝から、妻と丸の内の三菱一号館美術館へ「カンディンスキーと青騎士展」 を見に行った。数年前、大規模なカンディンスキー展が開催され大作「コンポジションⅥ、Ⅶ」などたっぷり堪能できたが、今回は初期のわりと地味な作品が多かった。しかし、風景画などでそのきわだった色彩感覚に驚かされる経験をした。「この屋根をこんな色で描くのか」。ミュンターはじめ青騎士グループの作品もじっくり楽しめた。そういえば、自室に長らく「コンポジションⅦ」の大判ポスターを架けて悦に入っていたが、あれはどこへしまったのか。

話は変わって、最近、あらためてHealth2.0のビジネスモデルを考え直したりしている。これはWeb2.0のビジネスモデルというものが、既にかなりはっきり見えてきたことにも関係がある。たとえば、かつてWeb2.0を代表するサービスと言われていたソーシャルニュースのdiggやソーシャルブックマークのdelicious、さらにかつてトップSNSであったMySpaceが、最近、身売りやリストラの憂き目にあっていると報じられている。そしてその一方では「勝ち組」のFacebookが、来年と噂される株式公開へ向け着々と準備を進めている。2005年の時点、つまりWeb2.0が大きな社会的話題になった頃、一体誰がこの事態を予想できたであろうか。その後、五年が経過し、混沌としたシーンは晴れ上がり、勝ち組と負け組は明確になった。 続きを読む

dimensionsのアンバンドリング

dimensions_mypage

先日、TOBYO収録の乳がんサイト数は2,000件を越えたが、こうなるとこれら乳がん闘病サイトだけを対象にした検索エンジンが欲しくなる。乳がん闘病ドキュメント専用のバーティカル検索エンジンである。実はこれは、TOBYOプロジェクトの当初からあった構想なのだが、とにかく量(収録サイト数)が一定の規模以上にならならければあまりメリットはない。

しかし、既にTOBYOでは「乳がん」や「うつ病」のようにサイト数2,000件を越える病名が出てきており、また収録サイト数100件を越えるものは58病名に達している。そろそろ当初構想していた「単一病名バーティカル検索エンジン」を作っても良い段階に来たと思う。

この「単一病名バーティカル検索エンジン」だが、TOBYOプロジェクトの新規サービスdimensions(ディメンションズ)の拡張検索エンジン「Xサーチ」で実現されている機能である。本来はdimensionsの有料ユーザーだけに提供することになっていたが、これら機能を病名ごとに切りだし、APIを公開することで広く使ってもらいたいと考えている。

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医療ITイノベーションと危機

IMS

二十年ほど前から、米国ではPLD(prescriber-level data)というビジネスが開始された。これは処方箋データを薬局から買い取りデータベース化し、さらに医師資格データをAMA(米国医師会)から買い取りデータベース化し、これら二つのデータベースを結び合わせた上で、新たにデータを生成し製薬会社などに販売するものだ。

最初にこのビジネスモデルを開発したのはIMS Health社で、このPLDデータを製薬会社、医療機器会社、行政などに販売し大きな利益を獲得した。特にPLDデータをマイニング処理することにより、従来得られなかった医療に関する新鮮な知見が得られるようになったことが大きい。たとえばインフルエンザのアウトブレイクやそれへの医師の対応状況の把握、あるいは製薬メーカーのマーケティングへの活用など、PLDの活用領域は非常に広いものがあった。

IMSは全米の処方箋の70%をデータベース化し、やがて彼らのデータベースは米国の患者動向や医療実態を十分に把握できる規模に達した。それに伴い売り上げは2007年には22億ドルになり、直近の時価総額は50億ドルといわれる。これは医療分野では異例の急成長ビジネスである。 続きを読む

注目のビジネスモデル・トップ10

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2010年に注目されたビジネスモデル・トップ10が話題になっている。10位にPatientsLikeMeが入っている。

Health2.0のビジネスモデルについてこのブログでも分析してきたが、現在見えているのはPatiensLikeMeやSermoのように、患者もしくは医師のUGCデータの再販ということになる。他にもあるはずなのだが、新しいビジネスモデルが医療関連ITビジネス創造のキイになることはまちがいないだろう。

広告、ユザー課金、モノあるいは情報商材販売などのレガシーモデルではないモデル。たしかにPLMはそう言う意味では新しいモデルではあるが、こんなビジネスモデル・トップ10に入るとは意外感が大きい。それほど医療関連ビジネスモデルが貧困であると言うことか。当方のdimensionsはいろいろな可能性を検討していきたい。これまでコンサルとパートナーを組み、マンパワーに頼った販売方法みたいなものを中心に描いてきたが、いかにもロウテクだし、もっと多様で柔軟な発想が必要だと昨秋から考えていた。まして「患者体験レポート」みたいなコンテンツを販売するなど、安易に考えていたこともあったもんだと反省。

ビジネスモデルのイノベーションこそ、Health2.0が成立する大前提だ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

2011年へ向けて

2011

2010年が終わる。長いような短いような1年だった。例年にない暑い夏から始まった新規ツールdimensions開発は大幅に遅れ、結局、年末に完成した。「暑い夏。音楽を聞いて乗り切ろう」と発注したマーラーのコンプリート・エディションだったが、これも到着したのは12月に入ってから。何か「夏の忘れ物」が届けられたようで不思議な気がした。

今年はまたHealth2.0ムーブメントが国内でも顕在化した年であった。二回にわたるHealth2.0 Tokyo Chapterはいずれも盛況。その勢いを駆って、10月サンフランシスコで開催された年次コンファレンスでは、日本からMedPeerとTOBYOのプレゼンテーションが行われた。だが国内プレイヤーの数が少なすぎるなど、まだその実体は脆弱であり、今後新規参入プレイヤーが多数現れてこない限りかけ声倒れに終わる可能性もある。

また「新規ブーム」に便乗し、煽るような動きもすでに散見される。かつての「ニューメディアブーム」等のように「結局、評論家、学者、コンサルなどがセミナーや本で儲けただけ」という結末を、あるいは迎えることになるのかも知れない。そうならないためには、事業プレイヤー同士の経験交流、意見交換、コラボレーション促進など、あくまでプレイヤー主体の場作りが重要になるのではないか。特にプレイヤー間のコラボレーションを積極的かつ具体的に進めていくことは、日本のHealth2.0シーンの活性化にとって非常に大切なことだと思われる 続きを読む