Google Healthはどうなる?

Shadow

昨日、久しぶりに新宿御苑を散策した。例年ならこの時期、花見客で混雑するのだが、寒風が吹き渡る苑内の桜はまだほとんど開花していなかった。地震のせいでもあるまいが、今年の春は遅い。それでも苑内を歩き回ってみると、春の息吹をあちこちに感じ取れた。そして今朝通勤途上、新宿御苑の遊歩道を歩いていると春風が頬を撫でた。たった一日で季節が変わったのだ。

来月4月4日、Googleはエリック・シュミットに代わり、共同ファウンダーの一人であるラリー・ペイジがCEOに就任する。このことによって、GoogleHealthが事業縮小されるのではないかと米国では言われ始めている。3月26日付Wall Street Journalに掲載された記事”At Google, Page Aims to Clear Red Tape” によれば、ラリー・ペイジはGoogleの官僚化した組織とプロジェクトを見直し、スタートアップらしさ、つまりベンチャー精神を取りもどしたい意向のようだ。

あのGoogleでさえ、ここ10年ほどの成功体験によって組織内部の官僚化や保守化が起きているのかと驚くが、たとえファウンダーが現場復帰しても、再び創業時のベンチャー精神を取り戻すのは容易ではないだろう。それにしても、その事業見直しでGoogleHealthが矢面に立たされている。残念なことだが、ある意味では当然の成り行きかもしれないと言われている。 続きを読む

PatientsLikeMeとニールセン

Undergroundカンニング、閣僚辞任など話題になっているが・・・あまりに馬鹿馬鹿しくてまともに論じる気にならない。時間とアテンションの無駄というしかない。アテンションもまた有限な稀少資源だ。ただ、これら「見せ物小屋の大騒ぎ」を遠く見て、イノベーションに想いを馳せる、ある種の物狂おしい飢餓感に似たエネルギーが、この国でどんどん希薄になって行くことだけは実感できる。そして世界に類例のない奇妙な「成熟化」が、この国では急激に進行しているのかも知れない。だが、どのような言説もこの世情に対し上っ滑りに空転するのを見れば、黙って自分の課題を深耕するしかない。黙って、イノベーションの一つでも、二つでも、起こすしかない。このようにして、イノベーションは儚い人生の実践的課題となるのだ。

さて、やや旧聞に属するが、先日、PatientsLikeMeがニールセンと提携したというニュースを目にし、これは意外だった。ニールセンといえばメディア調査を得意とする老舗マーケティング会社だが、高度なテキストマイニング技術を持っているとのことで、PatientsLikeMeはそのマイニング技術を自社データの解析に用いるらしい。では今まで、自社UGCデータを、いったいどのように処理していたのだろう。PatientsLikeMeのことだから、独自開発のマイニング技術くらい持っているものと思っていたのだが、そうではなかったのが意外だった。だがテキストマイニングであれば、何もニールセンでなくともよいはずだ。もっと高度な技術を持っているところは少なくない。なぜ、ニールセンなのか?そう考えると、PatientsLikeMeがニールセンと組んだのはマイニング技術目当てだけではないと思える。本当のところは、ニールセンのマーケティング技術や実績が、PatientsLikeMeには魅力的だったのではないか。 続きを読む

集合知への接続: Health2.0サービス設計

NationalMuseum2

街に春一番が吹き、今日は一挙に春めいた陽射しがいっぱい。新宿御苑の梅も満開。昨日土曜日は終日音楽を聞いて過ごした。正月からカートリッジとヘッドフォンを新調し、夜ごと自宅で音楽を聞くのが楽しい日課になっているが、やはりスピーカーから直に出る音を聞くのは格別だ。

さて、先日「医師による医療機器評価サイト」というエントリをポストしたが、アクセス数が多く、たくさんの方々が注目して読んでくださったようだ。あのエントリでは舌足らずであったが、実は「ユーザー集合知との接続」という問題を今更ながら考えることが最近多い。「どんな集合知と、どのチャネルを通して、どう接続するか」というシンプルな問題の立て方が、Health2.0サービス設計の基本なのかも知れないと思うようになってきたからだ。とにかく集合知という一番基本的なファクターをどのように活用するか。ここがHealth2.0の肝なのだという思いが、ますます強くなってきている。 続きを読む

疼痛など主観的事実を可視化する: dimensions

distiller

dimensionsは薬品、治療法、医療機関、医療機器など医療関連固有名詞をキイとして、患者が体験した事実を可視化することをめざしている。現在、バグフィックス中であるが、追加機能や用途についていろいろなアイデアが浮かんできている。

薬品など固有名詞によって可視化されるのは患者が体験した事実だが、これはもちろん客観的な事実である。従来、患者体験は「闘病記」というパッケージで一括され、どちらかと言えば「作品コンテンツ」みたいに捉えられてきた。そうではなく闘病ドキュメントを闘病者が実際に体験した「事実」の集合体と捉え、それら事実群によって構成される「次元」を抽出することによって、医療現場で何が起きているかを可視化しようというのがTOBYOプロジェクトの基本的な立場である。

だが、客観的事実だけでなく、患者が体験した「主観的な事実」というものが一方には存在している。では闘病体験の中で最も重要な「主観的事実」とは何かと考えると、それはまず「痛み」だろう。「痛み」は唯一患者だけが体験する主観的事実である。そして実際に闘病体験ドキュメントにおいて、「痛み」について言及されることはきわめて多い。たとえば関節リウマチ患者の体験ドキュメントなどで、日々の痛みの頻度や程度が克明に記録されているケースをしばしば目にする。痛みの発生を時間表でマークしたり、痛みの程度を5ランクなどランキングや数値で表現したり、さまざまな主観的尺度が工夫され「痛み」の記録があちこちの闘病サイトで生成されている。痛みのほかにも、「気分、かゆみ、膨満感、吐き気」など多彩な主観的事実の記述は、闘病体験ドキュメントの多くの部分を占めているのだ。これらデータをどのように可視化し活用するかということも、dimensionsおよびリサーチ・イノベーションの大きな課題であると、最近になって認識し始めている。 続きを読む

医師による医療機器評価サイト”Which Medical Device”

which_medical_device

昨年ローンチされた医療機器評価サイト“Which Medical Device”は、医師が「どの医療機器を使うか」を決める際に必要な、全ての情報を提供することをめざしている。現在は心臓病、IVR、整形外科の機器が対象。

このサイトが提供する情報は、機器メーカー情報(資料、写真、ビデオ)、紹介記事、ユーザー・レビュー、ディスカッション・フォーラムなど。基本はメーカー提供の機器情報を有料掲載し、それにサイトスタッフの紹介記事、さらに会員医師ユーザーの使用体験レビューやディスカッションフォーラムなどの評価情報が付加されるというものだ。つまりこれは医療機器商品広告を軸とした、医師の使用体験など集合知を共有する仕組みといえるだろう。

ビジネスモデルは商品情報(=広告)掲載費がベースとなる。広告を定型フォームで集約して医療機器データベースを構築し、それにユーザーの集合知を生成付加する。要約すればそんな感じか。たしかに、収益性とユーザーベネフィットを両立させるうまい考えだ。 続きを読む