製薬会社の医療アプリ専門紹介サイト: POCKET.MD

POCKET.MD

海外では、製薬会社や医療機器会社からスマートフォンやiPad向けの医療アプリが多数リリースされているが、とうとう専門紹介サイト「POCKET.MD」まで出現した。世界の主要製薬会社のブランデッド・アプリがほぼ網羅されており、またブランドごとにアプリが分類されているので便利なサイトだ。

ここで紹介されている日本語アプリはエーザイのipad向け「骨ケア」だけだが、そう言えば国内製薬会社のアプリというのはあまり聞いたことがない。しかし、たかがアプリとバカにはできない。消費者向けの医療アプリは疾患啓発サイトに代わるDTCメディアになる可能性があるし、医師向けアプリは医師囲い込みやディテーリングのツールに利用される可能性もある。要するにマーケティングのダイレクト・チャネルとして有望なのだが、日本ではあまり積極的に利用しようという機運は起きていないようだ。規制の問題がはっきりしないこともあるのか。

一方、増加する製薬会社の医療アプリをにらみ、米国FDAは昨夏、規制ガイドライン・ドラフト“Draft Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff – Mobile Medical Applications”を発表している。

オンライン医療サービスはこれからますますモバイルへ傾斜していくだろうが、その際アプリの戦略的位置づけというものを考えておくべきだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

EHRを各種ソリューションのプラットフォームへ


厳寒のせいだろう、新宿御苑の梅はまだ硬い蕾で例年よりも開花は遅れている。

前回エントリでEHRの新たな可能性について触れたが、これに関連し、他にもさまざまな方向からのアプローチがあることがその後わかってきた。その中の一つは、EHR上に医療情報サービスの統合プラットフォームを提供しようとするもの。そして今一つは、それぞれのEHRの仕様の違いを越えて患者データをアグリゲートするものである。

上に掲出したCMのDr.Firstは前者のサービスである。もともとこの会社はEHRベンダー各社に対し電子処方箋サービスを提供してきたが、今日ではより広くEHRをプラットフォームとした各種ソリューションの提供をめざしている。たとえば薬剤コンプライアンス・プログラム、患者教育プログラム、薬剤共同購入ディスカウント・サービス、さらには患者の薬歴を集約し医療機関や検査ラボに提供するサービスなどである。 続きを読む

食べログに関する諸々

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上の写真は、当方オフィス壁にあるカレンダーだ。妻からもらったものだが、絵がなんともユーモラスで面白い。とりあえず、一月から三月までのワンクール分を貼ってみた。そう言えば、一月も終りが見えてきた。

年明け早々、ネットでは「食べログやらせ問題」というのが出てきて、現在もあちこちで議論されている。このようなクチコミ・サービスでは、「やらせ」は当然あるとの前提で情報を利用するのが普通だ。そこを、極端な公正さをもとめること自体が間違いだ。「やらせかどうか」などといくら追及してみても、ムダというものだ。そんなものは最初からある、と考えるべきだ。

ところで昨年ニューヨーク・タイムズに、ある患者がクリニックへ行ったら、医師から藪から棒に「私は今回の診察および治療について、ネット上のクチコミサイトには一切投稿しないことを誓約します」との誓約書にサインするよう求められたという記事があった。米国では、医師個人に対するクチコミ評価サイトが大繁盛しており、これに対し医師側からは「医師のプライバシーと権利を守れ」との反対論が強く出されている。

この患者の場合、身体の痛みを早く何とかしてもらいたいので、やむなく誓約書にサインをしたが、後日、症状が一向に改善しないので、医師評価クチコミサイトに「〇〇医師の治療は最低だ」とのコメントを書き込んだ。これが医師に見つかり、患者の手元には誓約書違約金の請求書が医師から届けられたという。患者はこれを不服とし、現在、係争中である。

この伝でいくと日本でも、たとえばラーメン屋に入ってラーメンを注文したら、「私は、この店のラーメンについて、食べログなどクチコミサイトで不当な悪評コメントを、一切書きこまないことを誓約します」との「ラーメン誓約書」に、まず署名してからラーメンを食べるよう店から要求されることになるのだろうか。これはめんどうだ。 続きを読む

Health2.0の再構築: スコット・シュリーブの場合

CrossoverHealth

前回エントリでスコット・シュリーブの野心的なチャレンジ”Crossover Health”を紹介したが、その後、この新しい医療提供サービスのことをあれこれ考えているうちに、スコット・シュリーブに触発されて、Health2.0が直面するさまざまな問題をかなり明確に把握できるような気がしている。たとえばこれまで私たちは、ともすればHealth2.0をWeb2.0のアナロジーで説明するような、きわめて雑な手つきで扱ってきたのではなかったか。このことは間違いであったと思う。

スコット・シュリーブは、昨年初頭、Pew Internet & American Life Projectのスザンナ・フォックスが発表したエントリ”What’s the point of Health 2.0?”を「非常に限定されたHealth2.0定義に偏っている」と批判し、次のように述べている。

「私は、これまでいつもHealth2.0を”ムーブメント”として見てきた。そして、それはテクノロジーによって多くを定義されるものではなく、むしろテクノロジーが可能とすることによって定義されるものである。”enabler”(イネーブラー:可能とするもの)としてのテクノロジーは、人々が新しいことを新しい方法ですることを助けることができる。しかし私は、テクノロジーそれ自体が、真に医療、健康行動、あるいは医療供給自体を変えるパワーを持つとは信じていない。」(“Getting Real: Can Health 2.0 Stay Relevant?”

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夏の終わりに

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暦は立秋を過ぎた。昼休みに、新宿御苑プロムナードの小川に涼を求め散歩する毎日だが、ギラギラした日差しを遮る木陰には、もう秋の気配がそこここに佇み、夏の終わりが始まった。いつまでも夏が永遠に続くことはないのだと、当たり前のことを言ってみる。

この暑い夏、仕事を続けながらいくつかの「終わり」を見届けた。その中のひとつは音楽評論家中村とうよう氏の死である。衝撃的な氏の自殺の報に接し、あれこれ言葉にならない想いが胸をよぎったが、しばらく経って考えをまとめてみると、あんなにも栄華をきわめた20世紀の音楽産業や音楽業界が、どうやらこれで本当に終わってしまったという感想に行き着いた。ちょうど一年前の今野雄二氏の自殺に続き、20世紀後半に活躍した有力な音楽評論家が相次いでこの世を去ったが、もちろんそれぞれに個人的理由はあろうが、ここ数年の世界的な音楽業界の崩壊と無関係ではないように思えたのだ。

今更言うまでもなく、ダウンロードというパッケージ抜きのフローチャネルの台頭にともない、商品とそれに付随する情報の流通はネット上へ移動し、従来の音楽業界や音楽ジャーナリズムは致命的な打撃を被った。音楽メジャー各社は赤字転落し、大規模ショップは閉店し、音楽雑誌は次々に廃刊した。中でも象徴的なのは、音楽評論家やライターなど「専門家」による音楽作品の序列づけが力を失い、ネットによってすべての作品が水平に置かれ、ブログやコミュニティを通して情報交換されることが一般化したことである。 続きを読む