闘病サイトとライフログ

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先週の続きになるが、「闘病記」という括りから、闘病サイトで展開されている闘病者の一連の活動を分けて考える必要がある。従来そこがどうも一緒くたにされてしまい、「闘病記の亜流」みたいな形で闘病サイト上のコンテンツが扱われてきたことが、結局、今ネット上で起きている闘病者の新しい情報活動を見えにくくしているのだ。リアル闘病本の延長線上で闘病サイトを見てしまうから、医療に対するインターネットの可能性と闘病者の活動を過小評価してしまうのだ。

インターネット黎明期から出現しはじめた闘病サイトは、同時に誕生した病院など医療機関サイトや製薬企業サイトよりも、いわゆる「ネット的な性格」を強く持っていた。病院サイトなどがトラディショナル・メディアの発想つまりワンウェイ思考で作られていたのに対し、闘病サイトは自分の医療体験をライフログとして記録し、不特定の「誰か」との共有を想定して公開されたのである。そこには、最初からインタラクティブなコミュニケーションが前提されていたのである。 続きを読む

闘病サイトと闘病記

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昨日のエントリに記したように、今後、TOBYOプロジェクトは闘病サイト支援事業を何らかの形で立ち上げたいと検討をはじめている。端的に言ってしまえば、私たちが焦点化しているのは「闘病記」ではなくて、インターネットで闘病サイトを運営している闘病者たちだ。

たしかに、闘病サイトには「闘病記」と呼ばれるコンテンツが掲出されているだろうが、両者の関係は

闘病サイト = 闘病記

ではなく、

闘病サイト > 闘病記

であるはずだ。

別の表現をすれば、私たちはたとえば「e-Patients」と呼ばれるようなネットで情報武装された新しい患者像とその行動に注目している。彼らを「闘病記の作者」として見るのではなく、「闘病サイトを活動拠点とするネット闘病者」として見るべきだと考えている。

つまり私たちは、今医療に起こりつつあるまさにネット的な現象と、ネットによってエンパワーされた新たな闘病者像とに関心を持っている。そして、彼らがもっと便利に活動出来るようなツールや、彼らの発した声がもっと広く力強く社会に届くような仕組をTOBYOプロジェクトで実現させたい。

もはや彼らは単なる「闘病記作者」ではなく、もっとアクティブな存在であり、医療全体を変えるパワーを持ち始めたのだ。そこを積極的に評価しなければいけないと思う。

三宅 啓  NITIATIVE INC.

二つの医療コアデータ

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今月でこのブログも開設三周年を迎える。いや、とにかく時間のたつのは早い。三年前の2006年12月のエントリタイトルを改めて見てみると、やはり「闘病体験の共有」や「闘病記の考察」など、TOBYOプロジェクトのコンセプトを固めるために書かれたものが多い。

これまで何度も書いてきたが、私たちはTOBYOプロジェクトにたどり着く前に、ピッカー研究所の調査メソッドをモデルに「患者体験調査」システム開発を模索していた。患者が実際に体験した事実に基づいて医療機関を評価しようと考えていたのだが、この「患者が実際に体験した事実」というものが、わざわざ新たに調査するまでもなく、既にブログや個人サイトの「闘病記」として大量に公開されていたのである。つまり調査システムを新たに開発する必要はなく、既にネット上に存在する体験ドキュメントを参照すれば済むことに気づいたわけである。

このように思い返してみると、私たちは最初から調査データという側面で闘病体験ドキュメントを捉えてきており、それは今日にいたるまで変わっていない。その後このブログでは、「闘病記」という括りで闘病体験ドキュメントを見ることから徐々に離れていくことになる。「闘病記」というリアルパッケージのメタファーでのみウェブ上の闘病体験を捉えるとすれば、新しい医療サービスの創造などは見えず、むしろ「闘病記」の評論や研究や出版サービスなどの方向へ進むことになっただろう。むろん、闘病記の評論や研究などは自由であり、否定するつもりはない。だが、私たちが進む道はそれらではないのだ。 続きを読む

新型インフルエンザ体験ドキュメントを読んで思ったこと。

昨日から新型インフルエンザ闘病記収集にかかった。これは一種の実験だと考えている。「新型インフルエンザのパンデミックに対し、TOBYOはいったい何ができるのだろう」と考えてみると、とりあえずできることは闘病体験ドキュメントを集めることである。そして、実際に集まった新型インフルエンザ体験ドキュメントを読んでみると、一様に冷静な筆致で事実が描かれていることが確認できる。

この春以来、国の「水際防止対策」などが大きく報道されたせいもあるだろうが、新型インフルエンザに対して、必要以上ともいえる警戒心が社会的に形成されたのではなかったか。それに対し実際に体験された事実は、それら過度の警戒心を和らげ、フツウの日常生活の範囲内で病気に十分対処できることを示している。ここで重要なのは体験された症状や診断や薬剤やその副作用などはもちろんなのだが、それよりも、淡々と進む生活時間の中で病気が確実に治癒されていく姿だ。そこに何も劇的なものはないが、これらの体験ドキュメントはそれを読む人に、冷静に新型インフルエンザに対処できることを教えている。

マスコミなどで誇張された「ニュース」ではなく、生活者の日常目線で記述された「ドキュメント集合体」のほうが、おそらく事実の多くの側面を冷静に伝えることができるのだろう。パンデミックや災害時などでは、このように体験者の多様なドキュメント集合体が瞬時に形成され、広く届けられることが重要なのだと思う。そしてこのことは、おそらくニュースレポーターではなく、ブロゴスフィアやTwitterなどが担うことになるのだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

緊急要請:新型インフルエンザ闘病体験収集について

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わが国でも、今月に入り新型インフルエンザが猛威をふるっています。TOBYOでは新型インフルエンザ闘病体験を収集・公開し、広く闘病体験を共有したいと考えています。

まずTOBYOでは、とりあえず「TOBYOレファレンス」_「TOBYOキャビネット」に、最近、新型インフルエンザに感染された方々の闘病体験を11ケース収録しました。下記のリンクよりご参照ください。

「TOBYOキャビネット-『新型インフルエンザ』のカード」

//www.tobyo.jp/reference/1-2-3-0.php?disease_id=910

今後、TOBYOでは新型インフルエンザ闘病体験について収録件数を増やしていきますが、TOBYO会員の皆様には、ウェブ上の新型インフルエンザ闘病体験の発見・収録にご協力いただきますようお願いします。(新型インフルエンザ闘病体験記載ページを「フォルダ」に登録してください。)

また、一般ブロガーの方々にお願いします。今後、万一、あなたもしくはあなたのご家族が新型インフルエンザに感染された際は、闘病体験記録に以下の情報を付加した上でブログ公開してください。同時に、エントリURLをTOBYOにお知らせください。

  1. 患者の性、年齢、居住地(都道府県)の記載
  2. 時系列で症状を整理
  3. 医師の診断、処方薬、注意などの記録

以上、よろしくご協力のほどお願い申し上げます。

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●この件についての問い合わせ先:
TOBYO運営事務局   tobyo@initiative.co.jp