新しいビジネススキームへ

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12月になった。振り返ってみると、今年は年明けから年末まで、とにかくバーティカル検索エンジン開発と闘病サイトデータ収集にかかりきりで1年が過ぎたような気がする。それだけTOBYOプロジェクト全体にとって、それらが占める役割は大きいということだが、それにしても検索エンジンの開発テンポは、かなり遅れ気味である。

「ネット上のすべての闘病体験の可視化と検索可能化」を目指すTOBYOプロジェクトだが、昨年2月アルファ版公開以来、とにかく愚直にデータ蓄積を進めてきて、収録闘病サイト数も1万8千を越えた。そのうち今月公開する改良版TOBYO事典では、1万4千サイト、約290万ページが可視化され検索可能となる。

ネット上に存在する闘病サイト3万(推定)に比べると、まだその6割程度をカバーしているにすぎないが、それでもかなりの分量のデータが蓄積できた。そしてようやく、このデータの価値を活かす段階に来たと考えている。この間、かつて4年前にティム・オライリーが述べた次の言葉

Data is the next “Intel inside”.

を常に念頭に置いて、ひたすらデータ蓄積につとめてきたが、いよいよこれから、今後のTOBYOプロジェクトにとって最も重要なコアの一つとなる部分の企画&開発に取り組む。 続きを読む

ブログ衝動

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これがこのブログの802件目のエントリとなる。いつの間にか800エントリを越えていたのだが、そういえばこのブログも来月3周年を迎えることになる。「TOBYO開発ブログ」の名の通り、このブログはTOBYOプロジェクトを開発するためにアイデアやニュースを書き留めたものである。そのうち既に実現したものもあるし、まだ実現のめどが立たないものもある。

しかし、プロジェクト開発のための覚書きと思考実験のためだけにブログを書き始めたのではなかった。その事に先立って、「書く」という行為の方へ自分を衝き動かしたものがあったはずなのだ。あるいはそれを「ブログ衝動」と呼ぶことができるかもしれない。今にして考えてみると、800エントリを書かせた「ブログ衝動」とは、ある種の「違和感」であり「苛立ち」であったと思う。そしてその違和感や苛立ちは、医療界およびその周辺で語られる言説に対するものである。 続きを読む

闘病体験専門検索エンジン「TOBYO事典」の今後

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闘病体験専門検索エンジン「TOBYO事典」だが、改良版の公開が遅れている。クロールは既に終了しているのだが、データをチェックしてみると当初目標に対して達成度がやや不十分であり、修正と今後の作業方針など検討している。TOBYOプロジェクトのミッションは「ウェブ上のすべての闘病体験を可視化し検索できるようにする」ことであるが、これを最も早く確実に実現するための方策を考えている。

現時点で想定しているのは、複数の検索エンジンをTOBYOに装備することだ。現状のTOBYO事典のような闘病ユニバース全体を見渡す検索エンジンは必要だが、他方、各疾患別に特化した検索エンジンを複数設置する必要があると考えている。たとえば「がん疾患グループ」専門の検索エンジンとか、「メンタル疾患グループ」専門の検索エンジンなどを設置し、闘病者の個別ニーズにより一層特化し、きめ細かい情報検索ができるようにしたい。闘病者の情報ニーズは、闘病一般とか医療情報一般についての情報にではなく、特定疾患の特定症状についての情報を指向している。つまりその情報ニーズは個別化し細分化しているのであり、それに対応した情報提供が求められていると思う。

TOBYOは現時点で805疾患を収録しているが、もちろんこれらすべてに特化した検索エンジンを設置することはない。おそらく、疾患をいくつかの「疾患グループ」にまとめることになるだろう。来春稼働を目指したい。

これらのことを通じて、よりクリーンでニーズにきめ細かく対応した情報検索、あるいはより実践的に闘病に役立つ情報検索を実現し、GoogleやYahooなど汎用検索エンジンとの一層の差別化を図っていきたい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

医療を闘病者が体験した事実から見る

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秋も深まり、今年も残りわずかとなってきた。

TOBYOバーティカル検索エンジンのバージョンアップは大幅に遅れてしまったが、なんとか今週中には公開できそうだ。クロールとマージに手間取ったものの、新バージョンは前バージョンよりもかなりパワーアップしている。まず収録データ量を増やした。おそらく世界最大の闘病体験データベースになるはずだ。今後、これをどのように活用し社会的に役立てていくかが私たちの第一の課題となる。

当然ながら闘病体験は、まず闘病者のために利用されるべきだが、他方さまざまな医療関係者にとっても価値のある情報である。単純な分析からテキストマイニングまで多様な用途が見えている。匿名化したデータをワード出現度数分析やコンテクスト分析するなど、さまざまに解析するプログラムの開発も検討している。貴重な闘病体験集合から、どのように利用価値のある情報を提供できるかがポイントになる。

前回エントリで「消費者からの視線」ということを言ったが、まさにTOBYOの検索エンジンは、「医療を闘病者が体験した事実から見る」ためのツールなのである。これは今まで存在しなかった、まったく新しい医療情報ツールなのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

視線逆転の考察

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ここ10年程の日本のウェブ医療サービスを眺めてみると、昨日エントリで指摘したような特定サービス(病院検索)への集中の他に、医療情報の扱い方の変化に触れないわけにはいかないだろう。10年前を振り返ってみると、とにかく「医療情報の信頼性」ということが特に問題にされていたと思う。ここから医療関連サイトの認証、レギュレーションコード、認定マーク制定などが提起されたのだが、これらはウェブ上の医療情報フローに規制の枠をはめようとするものであった。

今にして振り返ってみると、これら医療情報規制論には、一定の方向性を持つ一つの「視線」というものが前提とされていたように思える。当時新しく登場したウェブと医療の関係性をどのように考えるかを問う際に、「医療界からウェブへ向けられた視線」がいわばアプリオリに、暗黙裡に前提されていたのではなかったか。従来医療を従来どおり継続する上で、ウェブがどのように利用でき、どのように不都合であるかを医療界から発せられた視線で見ていたのではなかったか。このような方向を持つ視線の上に、伽藍的な「医療情報規制論」が成立していたと考える。これら規制論は医療情報を供給する側の論理に立脚するものであり、医療情報を利用する側の論理やニーズは無視されていたのである。 続きを読む