「闘病記」を越えて(1)

このブログでウェブ上の闘病記のことをあれこれ考察しているうちに、皮肉なことだが「闘病記」という呼称自体に対する当方の違和感は、だんだん大きくなってきている。だが、「闘病記」に代わる適切な呼称とて見つからず、他者にわかりやすく説明する必要もあって、依然としてこの呼称を用いなければならないのが実はもどかしい。

当方のその違和感を探ってみると、「リアル本の闘病記がまずあり、ウェブ闘病記はその代替物みたいなもの」などとリアル本の優越を主張するような、そんな従来の「研究者」たちの言説に対する反発みたいなところにたどり着くと思われる。昨年、「闘病記研究会」なるものに異論をぶつけたのも、実はそのような「反発」があってのことだった。
続きを読む

PatientsLikeMeがALS患者の「遺伝子検索エンジン」をリリース

PatientsLikeMe_090409

米国で、最もユニークで、最も成功している患者SNSと言われるPatientsLikeMeだが、今月、そのフラッグシップコミュニティである難病ALS(筋萎縮側索硬化症)コミュニティの設立三周年を記念し、新たに「遺伝子検索エンジン」サービスの開始が発表された。これはALS患者が、遺伝子レベルで「自分と似た患者」を探すことができるようなサービスであるとのこと。また、同コミュニティ患者の遺伝子情報を共有することにより、ALSの原因と結果の解明をはじめ、新しいALS治療法の開発などに活かすことができるとしている。

Google資本の23andMeをはじめ、一昨年あたりから消費者向け遺伝子解析サービスが多数立ち上がってきたが、いよいよこの流れが患者SNSと合流し始めたわけだ。23andMeもコミュニティを形成しようとしているのだが、PatientsLikeMeの場合、データ共有の目的が、たとえば「ALSの新治療法開発」などと非常に明確になっているだけに、説得力あるユーザーメリットを打ち出せるのではないか。このあたり、PatientsLikeMeの巧みなターゲット戦略には学ぶべきものが多い。 続きを読む

PHR:医療現場での利用イメージ


(Microsoft Surface Demo for Patient Consultation (Interface by Infusion)

先日エントリでHealthVaultの家庭における利用イメージビデオを紹介したが、なぜかYouTubeから削除されてしまったようだ。その代わりと言っては何だが、PHRのもう一つの重要な利用シーンである医療現場における利用イメージを、やはりHealthVaultの紹介ビデオで見ておこう。

HealthVaultの医療現場での利用のために、マイクロソフトは「MS Surface」というアプリケーションを開発しているようだ。このビデオは医療現場で、この「Surface」を介して、医療者と患者がどのようにPHRの情報を利用できるかを紹介している。注目されるのはデスク上に平面設置されたディスプレイである。通常の縦置きディスプレイでは、医療者と患者の視線は平行で交わることがない。だがこのような平面設置ディスプレイなら、常に相手の視線を捉えながら、双方のコミュニケーションが可能となる。また、IDカードを画面上において読み取れるなど、操作性も良さそうだ。このSuefaceは、すでにテキサス州の医療機関”Texas Health Resources”で稼働しているとのことである。
続きを読む

バーティカル検索エンジン「TOBYO事典」

Gyoen_SAKURA

今週の新宿御苑は花見客で人出がすごい。週末など、朝早くからすでに入場門周辺には行列が出来ている。今日のような天気の良い日のお昼は、御苑の芝生に寝っ転がって空を見上げたいところだが、とにかく人が多すぎて落ち着かない。

さて、昨年から検索エンジンを開発してきているが、ずいぶん予定が遅れてしまった。1月10日にブログ検索をテスト公開して以来、クローリングのカバー率の改善に取り組んでいたが、一進一退、遅々として進まず、試行錯誤の末にようやく目標とする段階に近づきつつある。当面の目標は「1万人の闘病体験の全文検索」を文字通り実現することであったが、TOBYO全体の収録サイト数が増えたこともあり、なんとか実現まであと少し。

思えばちょうど1年前、3分咲きの新宿御苑の桜を見ながら思いついたのが、「ネット上に、闘病者の自発性に基づき、自然発生的に作られる「闘病ネットワーク圏」(闘病ユニバース)」というビジョンだった。このビジョンを持つことによって、TOBYOプロジェクトの方向性は固まった。そして自前の検索エンジン開発は、もちろん弱小ベンチャーにとってかなり難易度の高い仕事であったが、とにかくこれを実現できなければ「闘病ユニバース」に蓄積された膨大な闘病体験を活用することはできないのである。その意味で、後には引けない仕事だった。 続きを読む

未来医療とPHR

このブログでは、おそらく日本で最も早く海外のPHRの動向を取り上げ、その意味を考察してきたと思う。そしてこの二年ばかりの間に、HealthVault、GoogleHealth、DOSSIAなど大規模PHRが登場してきたのだが、ではこれらが、未来の医療システムに一体何を持ち込むのかということについては、まだ不透明な部分が多い。だが、ここ二年ばかりの動きを注意深く観察してみると、PHR進化の道筋に沿って前方へと視線を投じることによって、未来の医療の姿形がおぼろげに透視できるような気がする。 続きを読む