未来医療とPHR

このブログでは、おそらく日本で最も早く海外のPHRの動向を取り上げ、その意味を考察してきたと思う。そしてこの二年ばかりの間に、HealthVault、GoogleHealth、DOSSIAなど大規模PHRが登場してきたのだが、ではこれらが、未来の医療システムに一体何を持ち込むのかということについては、まだ不透明な部分が多い。だが、ここ二年ばかりの動きを注意深く観察してみると、PHR進化の道筋に沿って前方へと視線を投じることによって、未来の医療の姿形がおぼろげに透視できるような気がする。

それは複雑な話ではない。端的に言ってしまうと、まず、これまでの医療情報システムであるEMRやEHRとPHRを比較考量することによって、これからの医療のおおよそのポイントが捕まえられるのではないか。早い話がEMRやEHRだが、これは医師をはじめとする、「医療者中心の医療」を想定した医療情報システムと言えるだろう。それに対しPHRは、「患者中心の医療」を実現するための医療情報システムと言えるだろう。

「患者中心医療」と言うと、従来医療における「内容空疎な空念仏」の代表格みたいなもので、今さら口に出すのも躊躇されるほど激しく陳腐化してしまったフレーズである。だが、このフレーズが本来持っているはずの真っ当さは、いまだに医療の本質を指し示しているはずなのだ。その真っ当さを現実的な実体へと回復することが必要だが、このフレーズを百回唱和してもそこに到達することはできない。では今日、何がこの「患者中心医療」を実体化するのかと考えれば、それこそPHRであると言える。

PHRは、これまでの医療情報フローの経路と到達限界を変える。PHRはすべての個人医療情報を、ようやくその持ち主本人の目に見えるようにする。医療システム全体のセンターにPHRが位置するようなイメージとして、未来医療を想起することができるのではないだろうか。換言すれば、PHRが医療システムの中核情報システムになることが、医療分野に「患者中心医療」を実体化することになるのだ。

このことは、従来の医療に根本的で本質的な変化を迫るだろう。そして、ウェブで新しい医療情報サービスを生み出そうとする当方のようなベンチャー企業は、これら変化の方向へ視線を向けて、新しいサービスを構想することが求められるだろう。決して従来医療を前提とするのではなく。われわれのようなベンチャープレイヤーは、「変化」が起きなければ生存することはできないのだから。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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