患者の医療参加:メモ

consumerdriven

三つの基本要素

「エンゲージ、コミュニケーション、ヘルス・リテラシー」の三つが今日、患者をめぐる健康と医療に関するムーブメントの、最も本質的な要素なのだそうだ。これらの要素はこの20年間ほどの間に、さまざまな人々によって提起され、洞察を加えられ、徐々に明白な運動ベクトルとして、これからの医療を考える場合の指針となりつつあるようだ。ただこれは米国を中心とする海外の話である。

日本では「患者中心医療」という言葉は定着したものの、先日話題になった「患者様呼称問題」にも明らかなように、言葉だけが皮相的に浮遊しているにすぎないのかも知れない。上記のような「エンゲージ、コミュニケーション、リテラシー」というポイントへと「患者中心医療」の焦点を絞り込んでいくような、考えを深めていくような、そして具体的な実践へ転化していくような、そんなアプローチは残念ながら日本ではあまり聞いたことがない。

患者像の変化

「エンゲージ、コミュニケーション、リテラシー」とか「患者中心医療」とか、また最近では「ユーザー生成医療」(User Generated Healthcare)などという表現まで出てきている背景には、従来の患者像がここ20年くらいの間に大きく変わってきたことがある。

従来の患者像は、あきらかに医療者のコマンド&コントロールの対象であり、自己の運命に隷属するような、どちらかと言えば無知で受動的な存在であった。それに対しここ20年くらいの間に登場してきた新しい患者像は、自己決定権を持ち、知識・情報を学習し、自分に合った医療を選択していくような、活動的な主体である。これはちょうど従来の消費者像が、大衆消費社会の進展と成熟化によって、新しい消費者像へ進化していったことに、おそらくぴったりと符合することなのだ。

新しい患者像が登場することは、それに対応した新しい医療の登場を要請する。この10年ほどの間に、新しい患者像と医療を透視する、重要な視座となったいくつかの事々を振り返ってメモっておきたい。

●1997年、レジーナ・ヘルツリンガー著「市場駆動型医療」(Market-Driven Health Care)が発表される。2002年には続編「消費者駆動型医療」(Consumer-Driven Health Care)を出版。この二冊のテーマは「医療消費者は賢く、正しい情報と正しい経済的インセンティブが与えられれば、彼らは彼らのケアに完全に没頭するだろう」というもの。

●1998年、スーザン・キアヌ・ベーカー著「患者期待のマネジメント:ロイヤル・ペーシャントを探し出し維持する方法」。著者は患者が診察室を訪問するたびに起きる15の「決定的瞬間」における患者期待のマネジメント手法を提唱。

●1999年、米国医学研究所(IOM)が報告書「過ちは人の常」(To Err is Human)を発表し、「全米で毎年98000人の入院患者が誤って死亡しており、患者を教育し病院の危険を最小限に抑えるような、何か「患者中心医療」を実践する手立てを実行しなければならない。」と報告。

●2001年、シカゴのエミ・ソリューション社、手術や疾病についてのオンライン患者学習ツールを開発。

●2004年、医療改善協会がドナルド・バーウィック医師を先頭に、「1万人の生命を救え2004」キャンペーンを起動。病院の安全性を上げるために、6つの安全基準に従うように医療機関にアドバイス。そのうちの一つは、患者とその家族を教育し、彼らの苦情によく耳を傾けること。

●2001年から2007年の間に「医療リテラシー」問題は米国医療において最優先課題となる。それは、一つには医療業界の専門用語があまりにも複雑になりすぎ、患者に理解しがたくなってしまったことに由来する。また非英語圏からの移民の増加という問題も背景にある。これに対し2006年、ジョイント・コミッションは報告書「パートナーとしての患者:いかに患者とその家族を彼ら自身のケアに参加させるか?」を発表。また同年、マイケル・ロイゼン医師、メメット・オズ医師が「スマート・ペイシャント:ベストの医療を手に入れるためのインサイダー・ガイド」を出版。患者の医療選択術が話題となる。

三宅 啓 INITIATIVE INC.


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