新型インフルエンザ体験ドキュメントを読んで思ったこと。

昨日から新型インフルエンザ闘病記収集にかかった。これは一種の実験だと考えている。「新型インフルエンザのパンデミックに対し、TOBYOはいったい何ができるのだろう」と考えてみると、とりあえずできることは闘病体験ドキュメントを集めることである。そして、実際に集まった新型インフルエンザ体験ドキュメントを読んでみると、一様に冷静な筆致で事実が描かれていることが確認できる。

この春以来、国の「水際防止対策」などが大きく報道されたせいもあるだろうが、新型インフルエンザに対して、必要以上ともいえる警戒心が社会的に形成されたのではなかったか。それに対し実際に体験された事実は、それら過度の警戒心を和らげ、フツウの日常生活の範囲内で病気に十分対処できることを示している。ここで重要なのは体験された症状や診断や薬剤やその副作用などはもちろんなのだが、それよりも、淡々と進む生活時間の中で病気が確実に治癒されていく姿だ。そこに何も劇的なものはないが、これらの体験ドキュメントはそれを読む人に、冷静に新型インフルエンザに対処できることを教えている。

マスコミなどで誇張された「ニュース」ではなく、生活者の日常目線で記述された「ドキュメント集合体」のほうが、おそらく事実の多くの側面を冷静に伝えることができるのだろう。パンデミックや災害時などでは、このように体験者の多様なドキュメント集合体が瞬時に形成され、広く届けられることが重要なのだと思う。そしてこのことは、おそらくニュースレポーターではなく、ブロゴスフィアやTwitterなどが担うことになるのだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

ClevelandClinicのHealth2.0戦略

先週、MayoClinicのソーシャルメディア戦略のスライドを紹介したが、このほどMayoと並ぶ米国のトップ医療機関であるClevelandClinicのHealth2.0戦略スライド「Health 2.0は、どのように医療業務と医学研究を作り直すか」が公開された。なおこのスライドは、オランダで開催されたHealth2.0コンファレンス「Reshape 2009」で発表されたもの。

このスライドを見て、これまでWeb2.0テクノロジーの医療分野への応用を啓蒙的に語ることがこの種のプレゼン・スライドの主流であったのだが、それがより実践的な課題に落とし込まれてきていると感じた。米国やヨーロッパの医療機関では、ここ二三年の間にHealth2.0分野の実践経験が相当積み上げられてきているのではないかと思われる。このスライドでも、患者に医療機関が有力なソーシャルメディアサイトやその有効な使い方を教育することが、医療機関が提供する医療サービスの一環であることが、何の不自然さもなく語られている。 続きを読む

ブロゴスフィアの現状(雑感)

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テクノラティ日本のサービスが終了したらしい。ブログ検索というテーマは、私たちもバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」開発に取り組んでいるだけに、他人事ではない。そういえば二三年前まで、よくテクノラティを利用してブログ検索していたものだが、考えてみると最近はほとんど利用しなくなった。なぜだろう。おそらくフィードリーダーなどで読むべきブログを限定して事足りているせいもあるだろうし、Googleなど他のブログ検索エンジンが精度を上げてきていることもあるだろう。そして、もう一つは、スパムブログの増大などブロゴスフィア自体の問題もありそうだ。

TOBYOは日本のブロゴスフィアを「闘病体験」という側面から見ているのだが、その過程でいくつも気になることに遭遇した。まず、偽装闘病記や単なるアフィリエイト目当てのスパムブログが大量に発生しており、汎用検索エンジンでこれらノイズを除外することは難しくなっている。次に、ブログの大衆化が急激に進んだ結果だろうが、最近、基本的なリテラシーさえ身に付けていないブログ管理者が急増している。インターネットの肝にあたるところを知ろうとせず、逆に根拠のない先入観や、自分たちだけの奇妙な風習や迷信にとりつかれて大騒ぎするような場面も見受けられる。これらを見ていると全部ではないにせよ、ブロゴスフィアが妙に閉鎖的で、身内意識が過剰、デマゴーグに扇動されやすくなっているようにさえ見える。窮屈になっているのだ。これは今に始まったことではないかもしれないが。 続きを読む

病院のソーシャルメディア戦略: MayoClinic

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最近公開された米国MayoClinicのソーシャルメディアに関するプレゼンテーション。MayoClinicと言えば、米国でも最もマーケティングとコミュニケーション活動に熱心な医療機関として知られている。特にかつてのMedicalEdgeなどは、一種の医療情報通信社としてマスメディア向けに定期ニュース配信までしており、医療機関の広報センターとしては破格の存在であった。だがここ数年のうちにマスメディアの影響力は激減してきており、MedicalEdgeも規模を縮小され、新たにMayoClinicのソーシャルメディアへの取り組みが開始されたようだ。

数年前、日本のある大手病院にMayoClinicをモデルとしたコミュニケーション活動戦略を提案したことがあった。競合プレゼンの末、当方提案は採用されたのだが、実施段階で結局フェードアウトの憂き目に会った。責任感のきわめて薄弱な病院幹部の態度には呆れたが、事務方にマーケティングやコミュニケーションがわかるスタッフが皆無であることにも驚いた。これでは、戦略的なコミュニケーション活動などできるわけがない。 続きを読む

新しいファンドレイジング手法: ドネーション・ミュージック


去る7月1日から、ACジャパン(旧公共広告機構)の「国境なき医師団」支援キャンペーンCMがTV放映されている。このテーマソング「BEYOND THE BORDER」が9月30日からドネーション・ミュージックとしてネット配信されている。ドネーション・ミュージックとは楽曲をダウンロード購入した際、コストを差し引いた収益金を寄付する仕組みだ。収益金は「国境なき医師団」に全額寄付される。今回のキャンペーンでは複数のミュージシャンやアーティストの参加が予定されており、今後ドネーション対象作品は増えるようだ。このキャンペーンを企画運営しているのは電通ソーシャルデザインエンジン。

クリック募金をはじめ、非営利団体のファンドレイジング(資金開拓)手法がさまざまに開発されてきているが、今回のドネーション・ミュージックもその一環と考えてよいだろう。当方のTOBYOプロジェクトも目下、資金還流スキーム作りに取り組んでいるのだが、これらファンドレイジング手法を採用することになるし、今回のドネーション・ミュージックのような方向性は、スキームを考える際大いに参考になる。 続きを読む