出版の「未来の二つの顔」


アマゾンのキンドルやアップルのiPadの登場によって電子出版が現実化しつつある中で、出版業界は危機感を募らせているようだ。それでも紙の本がそう簡単に姿を消すとも思えないのだが、逆に従来の不透明な流通過程や高コストの印刷・製本パッケージングがこのまま存続できるとも思えない。コンテンツを従来の「本」に閉じこめておくこと自体が、ますます困難になっていくことはまちがいない。

このような時期にちょうどピッタリのビデオが現れた。このビデオはPenguin Publishing Groupの英国出版社であるDorling Kindersle社が社内の営業会議のために制作したものだが、社内の評判があまりにも高かったので公開に踏み切ったらしい。今日の出版業界のきわめて悲観的な状況を語りながらも、同時に出版と書物の価値を積極的に肯定するという離れ業を演じている。このビデオには、21世紀初頭の出版業界が直面する「危機と希望」という「未来の二つの顔」が描かれている。

冒頭”This is the end of publishing and books are dying….”という刺激的な言葉によって、出版業を取り巻く悲観的な状況のナレーションが始まる。だが途中でナレーションは反転し、同じ原稿をリバース読みしていく。そうすると・・・・・。うーん、うまい。拍手!。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

物語の共有からマスコラボレーションへ

whuffie

タラ・ハント「ツイッターノミクス」のエントリをポストしたら、早速この本の編集者の方からコメントをいただいた。このスピードにまず驚いた。ブログにツイッターが加わることで情報伝播スピードは猛烈に加速される。このことを実際に体験してみると些末な閉塞感などは忘れ、いかにこの私たちの時代がわくわくする時代かと思えるのである。

TOBYOプロジェクトもこんなスピード感を何らかのかたちで導入したいものだ。いずれにしても、やがて多くの闘病者が自分の闘病体験をツイッターでリアルタイム配信する日がやって来るだろう。すでにそれは一部では始まっているだろう。そして、たぶん従来のような起承転結を持つ「物語」を語るのではなく、自分がいま知りたいことをリアルタイムに誰かへ向けて問うようなスタイルになると思われる。自分の体験を自己完結的に語るのではなく、自分が直面する現下の問題を誰かに問うことへと、ユーザーの情報配信行為は変わっていくと思う。ここでクラウドソーシングがどのように機能するかは興味深い。 続きを読む

日曜日とタラ・ハント「ツイッターノミクス」(文藝春秋)

Tara_Hunt

春の到来。早くも来週あたりから桜が咲くらしい。

午前中、妻と新宿ピカデリーで「インビクタス」 を観る。ラグビー好きにはこたえられない映画。すでに語られたことではあるが、やはりネルソン・マンデラとリーダーシップ論について考えさせられた。だが早稲田ラグビーを辞めた中竹前監督の「フォロワーシップ論」もなかなか捨てたものではないと思う。

午後、墓参りに愛宕山の寺へ。その後、池袋でCDショップと書店を見て歩く。CDショップでスコット・ウォーカーのオリジナルLPを二枚発見。ジュンク堂でタラ・ハント「ツイッターノミクス」購入。

帰宅してスコット・ウォーカーの二枚を早速ターンテーブルに乗せて聴く。やはりフランスのジャック・ブレルへの傾倒を確認したが、この「早すぎる老成ぶり」をどのように解釈すればよいのだろうか。まるでフィル・スペクター・オーケストラをバックにジャック・ブレルが歌うような違和感を感じる。だが、それでいてボーカルの技術は完璧でしかも表現は深い。うますぎるところがスコット・ウォーカーの欠点だ。 続きを読む

データベース進化とウェブサービスの変遷

DB_Intention

米国のビジョナリーとして知られるジョン・バッテル“Searchblog” に先週“The Database of Intentions is far larger than I thought”と題するエントリがポストされたが、そこに興味深いチャート(上図)が掲出されていた。「意図のデータベース」と名付けられたデータベースが「クエリー」からはじまって「ソーシャルグラフ」へ、さらに「状況更新」へ、そして「チェックイン」へと進化してきた様子がわかりやすく提示されている。それぞれの段階における「シグナル」や主要プレイヤーも示されており、「データベース」の概念がGoogleに代表される「検索クエリー」を起点に、今日、バーチャルとリアルが統合される「チェックイン」という場所へまできていることがわかる。

ところが今週になってジョン・バッテルはこのチャートに変更を加え、クエリーの前に「購入」(Purchase)の概念を置き、シグナルに”What I buy”を、主要プレイヤーにはamazon、eBay、Walmartを書き入れた。たしかに「検索クエリー」時代の前にはドットコムバブル時代があり、eコマースが全盛をきわめていたからこれは不自然ではない。 続きを読む

「評論家」や「啓蒙家」を超えて行け

critic

今日、TOBYO収録の闘病サイト件数は2万件を超えた。二年前、2千件でスタートしたときには、まさか2万件も収録することになろうとは思ってもみなかった。だが決して平坦な道を一目散に疾走してきたわけではない。実はこの間、何度も逡巡を繰り返してきた。「量的拡大だけで良いのか」という問が常にあったからだ。しかし、やがて「ネット上のすべての闘病体験を可視化する」とのプロジェクトミッションが出来上がり、さらに「コアデータに基づく事業化」という事業戦略が明確になってみると、以前のさまざまな逡巡は徐々に吹っ切れたわけだ。

「量から質へ」などと方向転換についてこのブログで書いたこともあった。だが、やはり十分な量の確保がなければ、質だけを抽出することは現実問題として不可能である。このことは直接「闘病ドキュメントの評価方法」の問題に関わってくるのだが、「なるだけクオリティの高いものを選び出したい」と思う反面、自分たちが選考するよりもユーザーに委ねるべきだとも思えた。何度も、このような相矛盾する観点の間を往復し逡巡していたわけだ。 続きを読む