「患者エンゲージメント」異聞

今年の春に「患者エンゲージメント」と題するエントリを書いた。この「患者エンゲージメント」という言葉が持っている今日的意味を少し整理しておこうという意図があってのことだった。だが、何か大事なことを書き忘れたのではないかと、釈然としない気持ちが書き終えたあとに残ったことを覚えている。

その後この「エンゲージメント」のことはすっかり忘れていたが、最近、米国の製薬マーケティング関連のブログ筋でメルクの消費者向けサイト「MerckEngage」 が話題になっており、あわせて「エンゲージメント」について論じられていることに気づいた。この「MerckEngage」では今月から会員ユーザーに対しメールで健康情報を提供し始めたのだが、どうもメール送付を希望しないユーザーにまでメールが届けられてしまい、しかも「メール受信拒否」のオプトアウト手順が複雑すぎると批判の声があがったのである。

昨年、従来サイトをリニューアルして新規オープンした時、「MerckEngage」に寄せられた反応は芳しいものではなかった。“Merck engage is not engagement at all”というブログエントリまであらわれたのである。サイトタイトルに「Engage」と明記されているのにサイト自体はまるでちがうと、その羊頭狗肉ぶりが批判されたわけだ。さらにこのブロガーは次のように主張している。

To me engagement is not a website with tools and information for patients.  Engagement = conversation.

(私にとってエンゲージメントとは、患者向けツールや情報があるウェブサイトのことではない。「エンゲージメント=会話」なのだ。)

おそらくメルクの担当者はこのエントリを見たのであろう。そして「エンゲージ」という文言を実体化すべく、まさに消費者との「会話」を生み出そうとして、今月からメールをユーザーに送付し始めたのだろう。ところがそのメールが一方的に送られたので、逆に不評を買ってしまったのである。 続きを読む

高まる医療ゲーミフィケーションへの期待

先のエントリで製薬会社ベーリンガー・インゲルハイムの話題のゲーム「Syrum」を取り上げたが、最近、ゲーミフィケーションを医療のアプリやサービスの開発に導入する動きが活発化している。Syrumの場合、どちらかと言えば新薬開発のためのマーケティングを目的としていると考えられるが、もとよりゲームは、消費者あるいは患者が楽しく遊びながら自らのエンゲージメントやモチベーションを高め、生活習慣を自然に変えることができる優れた方法である。

たとえば運動習慣を生活に取り入れようとジョギングを始める人は多い。でもなかなか日々の習慣にするまでには至らず、挫折する人も多いのではないだろうか。こんな人には“Zombies Run !”だ。”Zombies Run !”は、ただ走るのではなく「ゾンビ集団から逃げる」という緊迫した状況設定を日々のジョギングに付与し、さらに「街づくり」など達成感のあるゲームストーリーにプレイヤーを巻き込んでいくスマホ・アプリだ。いわばリアルのランニングとヴァーチャルのゲームを一体化して、プレイヤーのランニング・モチベーションを高めるエンターテインメントに仕上がっている。これと似たようなゲーム性のあるジョギング・アプリとしては“Superbetter”も人気がある。 続きを読む

Twitter上の「医師の声」をリスニングするMDigitalLife

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私たちのTOBYOプロジェクトは「ネット上のすべての患者体験を可視化し検索可能にする」とのミッションのもとに、主として闘病ブログなどで公開された「患者の声」を幅広く収集し、様々な人々に届けようと努力してきた。これと同様の発想で、「ネット上に公開された医師の声を集める」というプロジェクトがあっても良さそうだと思っていた。それが最近になって、どうやら米国で始まりそうだ。

昨年、Katherine Chretien医師 を中心とするグループが、Twitter上の医師の声を収集分析した調査報告書「Physicians on Twitter」をJAMAに発表し話題になった。この調査において、Chretien医師はTwitter上で医師が配信したと思われるTweetを収集した上で、523人の医師と推定されるユーザーを特定し、さらに最終的にそれを260人まで絞りこみ、それぞれ一人当たり20件ずつTweetを選び出し、最終的に全部で5,156件のTweetを分析した。ずいぶん手間のかかる調査方法である。

Twitterのようなソーシャルメディアを医師が利用することについては、従来から、医師が患者の情報をもらしたり、差別発言など不適切な発言をするのではと問題視されてきた。しかしこの調査報告によれば、それら問題となるTweetは全体の3%に過ぎなかった。この調査報告書の登場によって、米国医療界ではにわかに「Twitterを利用したオープンな医師の声の共有」という考え方や、「Twitterを医師調査プラットフォームに利用する」というアイデアのリアリティと受容性が高まったと言われている。 続きを読む