患者の集合体験を数値化するSNS

PatientLikeMe

二日前の日曜日(3月23日)、”New York Times Magazine”に掲載された”Practicing Patients“という記事が話題になっている。この記事で取り上げられているのは、ユニークな患者SNSとしてHealth2.0界でも異彩を放つ”PatientsLikeMe“である。このSNSが他の患者SNSと大きく異なっているのは、「データ指向のSNS」であるという点だ。普通の患者SNSはコミュニケーション機能を中心に、患者間の交流の場や精神的支援のようなサービスを用意しているのだが、実はこれに飽き足りないユーザーは多い。特に難病の患者の場合、治療や症状改善のための具体的な情報を探しており、単なる「交流」では満足できないケースがある。

“New York Times Magazine”誌の記事では、多発性硬化症の患者の例が紹介されているが、この患者も、これまで体験交流型の患者SNSにいくつか加入したものの継続できず、結局、具体的な患者体験データ共有をめざすPatientLikeMeに落ち着いたという。 続きを読む

「闘病ネットワーク圏」について

Network0803

昨日のエントリーで、闘病者によって自然発生的にウェブに作られてきた「闘病ネットワーク圏」という考え方を書いておいた。これは、当方がTOBYOというサービスを開発する際に、徐々に固まってきた考え方である。

この前、あるミュージシャンの悪性リンパ腫の闘病記ブログを見ていた時である。そのブログは音楽活動の話題をメインとして数年間続けられてきたものだが、途中から悪性リンパ腫の闘病関連情報がかなり大幅に増えてきている。その闘病関連の最初のエントリで、作者は「自分が悪性リンパ腫にかかっていることは、事務所をはじめ仕事関係者にはまだ何も知らせていないが、このブログでは細大漏らさず病気に関する情報を書きたい。なぜなら、自分が医師から告知を受けた時、ネットでたくさんの闘病記を読み参考になった。自分の闘病体験を記録することは、一種の社会的義務であると考えている。」と書き記していた。 続きを読む

「自律、分散、協調」と「闘病ネットワーク圏」

PublicSphere昨日、東京では桜が開花し、今日も朝から暖かい陽光がさんさんと輝いている。こんな日を事務所にこもって過ごすのはもったいない。今日は早々に仕事を終え、新宿御苑の桜を見に出た。花の咲き具合はこれからだが、春風に吹かれながら散策するのは気持ちがよい。

さて、TOBYOの収録闘病記件数が2,500を超えた。今日(3月23日)の時点で、収録件数一位は「乳がん」で338を数える。続いて「C型肝炎」、「リウマチ」、「クローン病」が100を超えているが、逆にまだ収録件数が10に満たないものも多い。「病名」から見ると、TOBYOに収録された病名数は250に達するが、まだ闘病記件数が「1」にとどまる病名が112もある。TOBYOに集まった闘病記群の現状は、まさに「乳がん」をヘッドにしたロングテールということになる。 続きを読む

Health2.0からDoctor2.0、そして或る事実誤認


昨年エントリでも取り上げたが、ニューヨークはブルックリンでユニークな医療活動を展開するジェイ・パーキンソン医師。ウェブサイト以外の診療拠点を持たず、ネットワーク技術を活用して往診だけの医療サービスを開業し、先頃のHealth2.0コンファレンスでも話題になっていた。そのパーキンソン医師のインタービューがYouTubeにアップされた。ところで最近、ジェイ・パーキンソン医師はカナダの医療ベンチャー企業「Myca」に招聘され、同社チーフ・メディカル・オフィサーに就任したようだ。このMyca社は現在、「Hello Health」というユニークな診療所向け情報システムを開発中である。その一端が、このインタービュー・ビデオでも紹介されている。PHRにせよEHRにせよ、インターフェイスのプロトタイプはすべて、従来の「紙の帳票」であった。紙のカルテや健康記録表などのフォームが、そのまま電子化されたようなものであった。それに対し、「Hello Health」は従来と全く違うユーザー・インターフェイスを持っている。ビデオではほんの一瞬、垣間見れるだけだが、それでも従来のPHRやEHRとはまるで違うインターフェイスであることがわかる。

ジェイ・パーキンソン医師の例を見ていると、ムーブメントとしてのHealth2.0が医師の医療提供のありかたまで変えつつあり、今後、医療における広範な変革を生み出す可能性を持っていることが理解される。そのようなHealth2.0であるのだが、ところで今日、ある人から教えられて次のような「プレスリリース」を目にした。

【インターネットにおける健康コンテンツのトレンドについて】
2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表、2008年2月からテストサービスを開始し、米Microsoft社も2007年 10月より、ヘルスケアサービスのテスト版を開始しています。また、米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り、多くのIT企業が参画した、製薬会社を含めた医療と患者の新しい関係を模索する(健康とWeb2.0を掛け合わせ、新しいコミュニケーションの方法を探る)カンファレンスが 2007年10月から開始され、年二回の予定で実施されています。(第二回が2008年3月に盛況の内終了)
(医療と患者の関係を変える!新しい患者コミュニティサイト、LifePalette(ライフパレット)オープン!)

この世界には、たしかにどのような「妄想」を持つ自由もあるだろう。また「妄想」は、想像力と淵源を共有する創造性の一つのヴァリアントと考えてもよい。しかし、「妄想」と「事実」を混同してならないのは社会常識の一つだ。上記に「米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り・・・・・」とあるが、そのような事実はない。こんな事実無根の作文が知れたら、Health2.0ムーブメントの中心的な人々、マシュー・ホルト、インドゥー・スバイヤ、スコット・シュリーブなどから抗議される可能性さえある。また「2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表」とあるが、そのような事実もない。2006年5月に発表されたのはGoogleCo-opだ。

先日、「LifePalette」には当方からエールを送っておいた。だが、残念ながら今回の「プレスリリース」には失望させられるばかりか、米国の人たちに失礼だろう。会社のオフィシャル文書の内容は、しっかりと事実確認したほうが良いだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

ウェブと日本の医療


Twitterを三分以内で説明するビデオが、おなじみのコモンクラフトから公開された。そのわかりやすい説明には、いつもながら舌を巻く。これを見ていて、ちょうど先日ポストした「Twitterで禁煙」というエントリを思い出した。このシンプルで軽快なコミュニケーション・ツールには、まだまだ医療でも使えるサービス領域があるように思う。 続きを読む