dimensionsの基本フレーム

Drug

dimensionsはサービスイン。先週から本サーバで稼働をはじめた。当面、ここ一ヶ月〜二ヶ月程は「お試し期間」として顧客ユーザーに使ってもらう予定。同時にデータ取得、集計、更新など、主としてデータまわりのオペレーションを徐々に円滑運用の軌道に乗せていくことになる。プロジェクト企画段階ではデータ更新を一ヶ月ごととしていたが、いろいろ勘案した結果、ウィークリー更新をめざす。最終的にはデイリー更新を実現したい。

いずれにせよ当初想定していたよりも、はるかに強力なマシンパワーが必要になってきている。検索エンジンだけならまだしも、数百万ページのデータから数千語のキーワードを抽出カウントしたうえで出現場所を特定するために、集計時間が予想以上にかかることもわかった。だがこれらの経験は、次ステップでのマイニング・ツールなどの導入にきっと活かされるものと考えている。

そもそもdimensionsは、その基本フレームとして「患者体験ドキュメントのデータ構造」というものを考えるところからスタートしている。われわれは患者体験を主観的な物語としてではなく、まず時間軸上に配列された事実の連続体として見ることを考えた。その「事実」とはまさに患者が体験した医療事実なのだが、それらはさらに「こと、もの、評価」という三要素に分解できると思いついた。「こと」は検査、診断、入院、手術、など一連の医療過程を構成するイベント、あるいは時間軸を区切り特定の段階を表示するプロセス・インディケーターであり、普通名詞そして固有名詞で表される。「もの」は医療に実際に投入される薬剤、機器、治療法、さらに医療が行われる場である医療機関などであり、それらも固有名詞や名詞に分解できる。 続きを読む

dimensions vs First Life Research

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dimesionsは国内では初にして唯一の闘病体験傾聴ツールであるが、海外に目を向けるとライバルが存在する。イスラエルの“First Life Research”(以後、FLRと略す)である。私たちがこのFLRの存在を知ったのは、昨年秋のHealth2.0_SF2010カンファレンスにおいてであった。

カンファレンス冒頭、主催者側の”Welcome and Introduction to Health 2.0″セッションにおいて、インドゥー・スバイヤ氏はUGCソースの新しいリサーチに言及し、「二つの企業が今日デビューする。一つは日本から、一つはイスラエルから」と紹介した。これは当方のTOBYO-dimensionsとFLRのことを指していたのである。(「Health2.0 SF 2010の冒頭イントロで紹介されたTOBYO」

あれからもう9ヶ月が経ち、dimensionsはようやく今月サービスインした。ではFLRはどうなったのだろうかと、久しぶりにFLRサイトを訪問してみれば、トップページは以前とはだいぶ趣がちがい、なにやら検索エンジンのようなスタイルになっていた。だが「7億8439万ポスト、1873万人の執筆者、1万件の薬品・・・・」と収録データは大幅に増えている。

ちなみに検索窓に「Breast Cancer」とタイプ・インしてみると、フツウの検索エンジンの検索結果とは違い、「一般情報、薬品比較、薬品スイッチ」と三つのジャンルをタブで選択できるようになっている。dimensionsでは「医薬品、医療機関、治療法、検査・機器」の四ジャンルがディスティラー画面で表示されるのだが、FLRはあくまでも医薬品に焦点を絞ってデータを提示しようとしているようだ。

そして特に「薬品比較、薬品スイッチング」の見せ方は興味深い。「薬品比較」では乳がん関連の各薬品とその副作用が表で比較できるようになっている。「薬品スイッチング」では、乳がん関連薬品スイッチ事例が多いものからグラフ表示され、さらに詳しく、ある薬品が「どの薬品からスイッチされて、どの薬品へスイッチされたか」という、一種のスイッチング・フローとして表示されている。これはわかりやすいし、おもしろい。しかし、サンプル数が少ないのが気になる。 続きを読む

いよいよ7月4日から、dimensionsサービス開始

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紫陽花もそろそろ盛りを過ぎた。もう来週から7月だ。今年も半分が終わろうとしている。年明けから、初の闘病体験リスニング・ツール「dimensions」開発の最終段階の仕上げにとりかかってきたが、いくつか技術的な難問に直面しながらもなんとかこれらを乗り越え、やっとようやく来月からのサービスインが見えてきた。

この半年間に、リサーチ・イノベーションやソーシャル・リスニングなどの考察を通じ、dimensionsという、この全く新しいツールの今日的意義や果たすべき役割などについて、理論的基礎固めができたと思う。またTOBYO本体も可視化領域は約2万9千サイトに達し、当初の目標であった3万サイト可視化まであと少しのところまで来た。言うまでもなく、TOBYOの可視化領域の広さが、dimensionsのツール・パワーの源泉なのである。

今日は日曜日だが、最終段階に来たdimensions開発ミーティングを実施。7月4日(月)からのサービスイン開始を確認した。これにともない、4月からさまざまな方々にモニターしてもらっていたdimensionsデモバーションは、7月1日をもってテスト終了となる。

今後dimennsionsは、主として医療関連分野の企業ニーズに応えながら、さらに新規サービス領域の共同開発、応用分野の研究プロジェクトなど多方面の多様なニーズに対応し、できるだけオープンにコラボレーションする機会を作っていきたいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

講演会と新たな気づき

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昨日「医療の未来を考える会」のお招きにあずかり、「闘病体験の共有と傾聴」というテーマでおはなしをした。日曜午後という一週間で一番のんびりした時間帯にもかかわらず、たくさんの方々にお集まりいただいた。感謝。

会のメインテーマに「Health2.0で医療が変わる」とあったので、冒頭、駆け足でHealth2.0の概要を説明した。できるだけ手短に要約しようと今回あらためて考察してみたが、結局、Health2.0の原点は「伽藍とバザール」(1997)と「Cluetrain Manifesto」(1999)に行き着いてしまうと確認した次第。

エリック・レイモンドのオープンソースをめぐる古典的名作である「伽藍とバザール」を、スコット・シュリーブは第一回Health2.0カンファランス(2007)掉尾を飾るスピーチで引用している。伽藍的な知と技術の体系としての医療に対し、スコット・シュリーブは来るべきバザール型医療をビジョンとして提起したわけだ。ここから”User Generated Healthcare”や”Participatory Medicine”などのスローガンを導き出すのは容易だが、この「伽藍とバザール」という対比ほど明確にHealth2.0のビジョンを語る言葉はないと思う。

昨日もお話したが、「知の秩序・枠組みの変換期」という時代認識なしに、単にソーシャルメディア周辺のトピックスでお茶をにごすようなHealth2.0論では、本当に「医療を変える」ことなどできるわけもない。では医療は伽藍からバザールへ実際に移行するのかといえば、そんなに簡単には行かないだろう。おそらく巨大な変革モメンタムを必要とするに違いない。だが、医療を取り巻く状況は確実に動き始めている。
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アダム・ボズワース、「Google Healthの失敗」を語る


プロジェクト凍結の可能性が強いGoogleHealthだが、この件について、なんと元の開発責任者だったあのアダム・ボズワースがインタビューに応じている。思えば2007年夏の終り頃だったか、突然、アダム・ボズワースはGoogleを去ったのだった。その直前にはNew York Timesの求めに応じ、初めてGoogleHealthの全貌を紹介していただけに、なんとも唐突感を否めなかった。

シリコンバレーでもカリスマ・プログラマと一目置かれているアダム・ボズワースだけに、彼がGoogleHelthプロジェクトを去った衝撃は大きかった。それから半年が経った翌2008年春、GoogleHealthはエリック・シュミットCEOによって大々的に紹介されたが、期待が大きかっただけに、その失望もまた小さくなかったのだ。それは、目新しい新機軸が何も見当たらない「フツウのPHR」だったからだ。

なぜ、あの時アダム・ボズワースはGoogleを去ったのか、いまだに謎だが、その後彼が公開したkeas、そしてこのインタビューなどを見ると、なんとなく彼がGoogleHealthに飽きたりなかった理由がわかるような気もする。

「彼ら(Google)は基本的にデータをストアする場所を提供した。われわれの資料によれば、人々はデータを保存する場所自体を望んでいるわけではない。人々は何か面白いもの、魅力のあるものを求めている。Google Healthは面白くないし、ソーシャルでもない。なぜそんなものを、人々がしようとするだろうか?」(アダム・ボズワース)

三宅 啓  INITIATIVE INC.