dimensions vs First Life Research

FLR_switch
dimesionsは国内では初にして唯一の闘病体験傾聴ツールであるが、海外に目を向けるとライバルが存在する。イスラエルの“First Life Research”(以後、FLRと略す)である。私たちがこのFLRの存在を知ったのは、昨年秋のHealth2.0_SF2010カンファレンスにおいてであった。

カンファレンス冒頭、主催者側の”Welcome and Introduction to Health 2.0″セッションにおいて、インドゥー・スバイヤ氏はUGCソースの新しいリサーチに言及し、「二つの企業が今日デビューする。一つは日本から、一つはイスラエルから」と紹介した。これは当方のTOBYO-dimensionsとFLRのことを指していたのである。(「Health2.0 SF 2010の冒頭イントロで紹介されたTOBYO」

あれからもう9ヶ月が経ち、dimensionsはようやく今月サービスインした。ではFLRはどうなったのだろうかと、久しぶりにFLRサイトを訪問してみれば、トップページは以前とはだいぶ趣がちがい、なにやら検索エンジンのようなスタイルになっていた。だが「7億8439万ポスト、1873万人の執筆者、1万件の薬品・・・・」と収録データは大幅に増えている。

ちなみに検索窓に「Breast Cancer」とタイプ・インしてみると、フツウの検索エンジンの検索結果とは違い、「一般情報、薬品比較、薬品スイッチ」と三つのジャンルをタブで選択できるようになっている。dimensionsでは「医薬品、医療機関、治療法、検査・機器」の四ジャンルがディスティラー画面で表示されるのだが、FLRはあくまでも医薬品に焦点を絞ってデータを提示しようとしているようだ。

そして特に「薬品比較、薬品スイッチング」の見せ方は興味深い。「薬品比較」では乳がん関連の各薬品とその副作用が表で比較できるようになっている。「薬品スイッチング」では、乳がん関連薬品スイッチ事例が多いものからグラフ表示され、さらに詳しく、ある薬品が「どの薬品からスイッチされて、どの薬品へスイッチされたか」という、一種のスイッチング・フローとして表示されている。これはわかりやすいし、おもしろい。しかし、サンプル数が少ないのが気になる。

ところで、各ジャンルの下部には関連する検索結果が表示されているのだが、これらをクリックしてみると、FLRのデータソースのほとんどが医療・健康関連の掲示板にポストされたコメントであることがわかる。ブログ・エントリが出てくることはまずない。つまり当方dimensionsに比べると収録データ件数ははるかに多いのだが、それらほとんどが掲示板の短い切れ切れのコメントであり、ブログのように時系列で事実を辿れるようなまとまったデータではないのだ。

日本の闘病UGCの特徴として、「闘病記」を模した闘病ブログが多いということがある。逆に海外(英語圏)では、ブログで闘病体験を公開することは日本ほど一般的ではない。これは正岡子規以来の「闘病記文化」を持つ日本と、そうではない海外との違いであるのかもしれない。そして、同じような闘病体験に着目したサービスであっても、データの基本性質によって、サービスに大きな差異が生じてくるのである。

dimensionsとFLRが扱うデータの差異を短く言い表すとすれば、dimensionsのデータは「件数は少ないが濃いデータ」であり、FLRのデータは「件数は多いが薄いデータ」であると言えるのではないか。

また、こまかく薬品一つ一つのデータを見ていくと、dimensionsがFLRを量的に凌駕しているケースが多い。たとえばタキソテールに言及した乳がん患者のデータ件数は、FLRが145人、151件であるのに対し、dimensionsでは520人、4,961件となっている。これなどFLRが掲示板の短いコメント中心であるために、著者数とポスト件数がほとんど同じであるのに対し、dimensionsでは一定のボリュームを持つブログ上にある複数エントリに、薬品名が何回も出現するという事態を表しているのだろう。そもそも、タキソテールに言及する乳がん患者数自体も予想以上に差がついているが、このあたりの原因は定かでない。

FLRのデータは全体の件数は多いものの、肝心の有意なデータ件数は少ないような印象があるが、これはブログ・リサーチのような機械によるデータ・アグリゲーションの宿命だと思われる。その意味で、依然として人間によるデータの構造化とオーガナイズが、この種の医療データサービスの前提であることが確認できた。

しかしTOBYO_dimensionsの場合、まず日本語ウェブ圏に成立した闘病ユニバースのデータソースとしてのクオリティの高さに感謝すべきなのだろう。闘病体験をここまで精緻に、勤勉に、正確に、記録し公開しているのは、おそらく日本人だけなのかも知れない。

最後にデータの信頼性について触れておこう。一般的に短い切れ切れの掲示板コメントよりは、一定のボリュームのあるブログエントリのほうがデータの信頼性は高いだろう。すなわち、ブログに書かれた記事の信頼性はそのブログ自体が全体として担保しているのに対し、掲示板コメントは自己の信頼性を担保する何ものも持たないからだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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